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●  受け継ぐ心、伝える想い-後日談-(2012.2)  ●

 会長室のドアをノックし、返事を待ってドアを開けた。
 他の仕事絡みで残らなければいけなかった親父に株の売買を任せ、オレ達は一足先にNYに戻っていたのだ。
「株券は返してきたよ」
「ありがとうございます」
 親父に頭を下げ、協力を感謝する。
 残りの株券も、おいおい売っていくことにするか。もう必要もないしな。
「手に入れた三社に関しては君に任せるよ。マイナスからの出発は面倒だ」
「えぇ。すでに建て直し案は考えています」
「ま、そうだろうね」
 苦笑して差し出されたコーヒーを受け取った。
 株券を集めるためとは言え、潰れかけの企業を買ったのだ。当分、忙しくなりそうだな。
 オレと同じくコーヒーを一口飲んだ親父が、感嘆とも驚愕とも取れる溜息を吐き、「なにか?」と尋ねる。
「いや。託生さんがあんなに行動的だったとは驚いたよ」
「ははは。大人しいようで、たまに大胆な行動に出ますからね」
「しかし、義一が間に合ってよかったよ。そのまま一人で行かせていたら危ないことになっていたかもしれない」
 託生が日本に向かったと聞いて、心底肝が冷えた。
 こんな無茶は、今回限りにしてもらわなければ。でないと、オレの命がいくつあっても足りない。
「………思い出した。託生さんと同じくらいの妊娠周期の母さんを捕まえようとして、私は間に合わなかったんだ」
「何があったんですか?」
「いや、ちょっと口喧嘩して、翌日帰ってきたらハワイに家出されていた」
「ハワイ………ですか」
 当時を思い出して眉間を押さえ、頭を振った親父にギクリとした。
 いやいや託生はお袋とは違う。
 まさか、そこまで突拍子もないことはしないだろう。………たぶん。
「義一、顔色が悪いが」
「えぇ、昨晩、託生とちょっと……」
 安定期に入ったからと、あの晩から毎晩襲い……基、愛を確認しあっていたのだが、とうとう託生が根を上げた。
 仕方ないだろう?!禁欲生活が長かったんだから!!
「帰ったら、すぐに謝ったほうがいいぞ。無茶をされると、こっちの寿命が縮む」
 実感溢れる親父の言葉に力強く頷いた。


「あぁ、義一さん、こちらにいらっしゃったんですね」
 軽いノックのあと、親父の返事にドアを開けたのは島岡だった。そのあとから、高木も入ってくる。
「どうした、島岡?」
「さきほど本宅の執事が持ってきたものですから」
 と言いつつ、島岡は白い封筒をオレに渡した。
 あぁ、オレ宛の手紙が本宅に紛れ込んだのか。
「………………」
「どうした、義一?」
 取り出した手紙を読み、そのままピシリと固まってしまったオレの肩越しに、親父が手紙を覗き込んだ。
「………遅かったようだな」
 そして、オレの左肩を慰めるように叩いた。
「義一さん?」
 親父がオレの手から手紙を抜き取り島岡に渡す。
「『託生さんと絵利子と三人でウィーンに行ってきます。数日、独り寝の寂しさを味わいなさい』」
 繰り返すなよ、島岡。惨めになるから。
「メールではなく、わざわざ執事に手紙を持ってこさせたということは、すでに託生さんは雲の上だな」
「ウィーンフィルの音が生で聴けるのなら、託生さんも喜んで行かれるでしょうし」
「胎教にも良さそうですよね」
 親父、島岡、高木の言葉がグサグサ胸に突き刺さる。
「父さん!オレもウィーンに………!」
「それは無理だよ。君には三社の後始末をしてもらわないと」
 あっさりぶった切られて、がっくり肩を落とす。
 オレが悪かったから。二日に一回にするから。
 託生ーーーーーーーーーーーっ!カムバーーーーーーーーーーーック!!
 届かない言葉を叫びつつ、心の内で涙を流しているオレの横で、
「……ということは、私も一人ってことか?!」
 今度は親父が現実に気付いた。
 お袋が、託生と絵利子を連れていったのだから、そうだろうな。
「やっとNYに帰ってこれたのに………」
「託生………」
 オレ達の背後で、二つの影がゆらりと動く。
「「いいかげん、仕事してください!」」
 ブリザード並みに冷たく低い声が、会長室に木霊した。


おまけ♪
(2012.2.27)
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