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● ● 振り向けば、ただありふれたペンの先 -補完- ● ●
「結婚して、託生とオレは夫婦になり、家族にもなる。そして、オレは託生とここで一緒に暮らしたい」
真摯なまなざしに、息を飲んだ。 家族と言われて脳裏に浮かぶのは、お義父さん、お義母さん、ギイ、絵利子ちゃん、の、崎の家族。 そして、ぼくの両親と兄、の、葉山の家族。 けれども、ぼくはどちらの家族にも属していない。 葉山という名前だけれど、血の繋がりだけで家族と言うのは、あまりにも無理があった。ぼくは、家族の枠からはみ出した存在だったから。 家族の土台は夫婦であり、子供が生まれて家族が増え、でも、いつか子供はその家族から出て、新しい家族を作る。 それが、結婚することなんだって、ぼくは言われるまで考えが及ばなかった。 ただ、ギイと一緒にいたいから。 そんな単純な想いだけでプロポーズを受けたぼくに、ギイはもっと深い愛を見せてくれた。 『オレと一緒に、これからの人生を歩いてほしい』 言葉に秘められたギイの想いが流れ込んでくる。 薄紅に彩られた穏やかで暖かい季節を。照りつける太陽が眩しい汗ばむ季節を。枯葉舞い散る人恋しい季節を。厳しい寒さに肌を寄せ合う季節を。 これから先、何度も繰り返す四季を、二人で歩く。 ギイと結婚するというのは、家族の土台を作ることなんだと、やっとぼくは気づいた。 ぼくにも家族ができる。しかも、愛する人と。 そして、ギイが用意してくれたこのペントハウスが、ぼく達の家になる。 そう気づいたとき、繋がれた手の温もりがじんわりとぼくを包み込んだ。 感謝と安堵と嬉しさがない交ぜになった心が光になり、ポツリと頬を流れ落ちた。 (2012.12.15 blogより転載)
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