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●  小さな記憶〜After〜Lifeバージョン(2011.4)  ●

《穏やかな時間の中で》カテゴリーの「小さな記憶」の続きです。

「託生、手伝おうか?」
「ごめん、ギイ。お願いできる?」
 卒業間際二七〇号室に行くと、託生は一人でダンボールと格闘をしていた。
 寮の部屋にあるだけの託生の荷物は、とりあえずオレの東京の実家に送る事になっている。NYに行くにしても、一度は病院に顔を出さなければいけないし、まだ二人のマンションを見つけていないからだ。………オレの家族が再三「さっさと連れてこい」と言っているのは、この際聞いていない事にする。
 これから二人で暮らすマンションなんだ。妥協なんてできるものか。
「あ………」
「どうした?」
 ダンボールに衣服を詰めていると小さな託生の声が聞こえ、手を止めて振り返る。
 机の引き出しの中の物を詰めていた託生の手には、束になった写真。
 何もかも実家に置いてきた託生の手元には、一年前に作ったアルバムさえもなかった。今、手の中にある写真は、三年生になってからの分だな。
 困惑した表情の託生に、
「それ、あとでゼロ番に持ってこいよ。アルバムに貼ろうぜ」
 提案する。
「でも、ギイのアルバムだろ?」
「これから二人で暮らすのに、オレだけのアルバムなわけないじゃん」
 遠慮がちに言う恋人……否、婚約者の声に、まだ自覚がないのかと心配になってきた。二年後には結婚するんだぞ、オレ達。
「え?」
「二人のアルバムだろ?」
 キョトンとした託生の額を、人差し指でツンとつつく。
 もう、焼き増しなんていらないのだから。わざわざ二冊に分ける必要なんてない。
「………うん」
「いつか家族のアルバムになるかもしれないし」
 頬を染めながらコックリ頷いた託生を抱き寄せそっと囁くと、その深い意味に気づいた託生の耳が真っ赤に染まり、その可愛らしさに口唇を寄せた。
 まだ一冊しかないけれど、たくさんの思い出と幸せを重ね、一緒に写真を貼っていこう。一歩ずつ、二人の足跡を残していこう。


「Destiny」「Reset」にも、それぞれのアフターがあります。
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