● ● Fair Love-後日談-(2014.2) ● ●
祠堂の皆も日本に帰り、ギイの休暇も終わった。ぼくも、あと少しで大学が始まる。
まだギイと結婚した実感がないのだけれど、本宅からペントハウスに移り、整理が終わってない荷物を片付けていると、お義母さんが訪ねてきてくださった。たくさんの写真を持って。 写真を見ながら、結婚式の思い出話をしていたら、 「託生さんは、義一に何回プロポーズされました?」 「何回って……」 内緒話をするように、こっそり聞かれてポカンとお義母さんを見つめ返す。 ぼくは、ギイにプロポーズをされたとき、まだ高三だったから具体的な話なんて出ていなくて、本格的に式の話を進める前に、ギイがもう一度プロポーズしてくれた。そのあと、謎の三回目があったけど、普通は一回のはずなのに………。 「もしかして、三回?」 「え、どうして、それを………」 「やっぱりね」 やっぱりね、って、あれ? 「あの人も、私に三回プロポーズしたの」 ……って、 「お義父さんもですか?!」 もしかして、プロポーズは三回するもの?ぼくが世間知らずだった? 「デメリットが、どうのこうのって言われたんじゃないかしら?」 「言われました」 コクコク頷くと、やれやれと大きな溜息を吐き、 「もう、本当に似たもの親子よね」 頬に手をやり、しみじみと呆れたようにお義母さんが呟いた。 「じゃあ、お義父さんも………」 ギイとお義父さんって、顔や行動が似ているだけじゃなくて思考も一緒だったんだ。 唖然としたけれど、親子揃って三回もプロポーズをしたのだと考えたら、なんとなく可笑しくて吹き出してしまった。 ダンディで恰好いいお義父さんだけど、お義母さんの前では、そうなんだ。 「そのくらい覚悟して、こちらもプロポーズを受けてますよ」 「心配性なんですよね」 「心配性すぎるでしょ?どうして、こんなくだらないことにうじうじ悩むのか、そこのところに悩みましたもの」 「わかります。なにを今更って感じですよね」 「そうそう。しかも、気になるんだったら、さっさと言えばいいのに、それもできなくて……」 「大切にしてくれてるんだと思いますけど、信用されてないのかなぁって悲しくなりますよね」 お義母さんが言うように、悩むことなのかな?って、ぼくも疑問に思った。ギイもお義父さんも、ものすごく深刻そうだったけど、ぼくにとっては「そんなこと」だったから。 「あ、お義父さんに、本社のIDカードをいただいたんですけど、ぼく、持ってていいんでしょうか?」 「あの人ったら………。それは、義一の部屋のロックを外せるカードだと思いますよ」 「ギイの部屋、ですか?」 「えぇ、ほら、私も。主人の部屋ですけど」 と、お義母さんが、バッグからチラリとIDカードを見せた。 これって、常備しないといけないものなのかな。ぼく、引き出しに入れっぱなしなのだけど。だって、本社に行く用事もないのだし。 「でも、これ、なんのために………」 「カツを入れるためです」 「………はい?」 カツ? 「たまに秘書の人から頼まれるの。拗ねちゃって仕事してくれないって。そんなときに使うの」 「はぁ………」 「自分だけが私に叱られるのは不公平だとか思って、託生さんに渡したんじゃないかしら?」 「そういう理由ですか………」 関係者だからって言われたけれど、つまるところ、ぼくはギイに仕事をさせる要員ということで。 お義父さんって、お義父さんって………。 「パーティよりも、そっちの方が大変で………」 お義母さんの言葉に、実感が籠ってる。 そういえば、たまに本社に行ってくると、出かけられることがあったなと思い出した。あれは、秘書の人からの呼び出しだったんだ。 拗ねて仕事を放棄………。お義父さんで想像するのは難しいけれど、ギイなら簡単に想像できる。実際ギイが拗ねたときは、機嫌を直してもらうのに頭を悩ませていた。だからと言って放っておけば、島岡さん初めFグループの社員の人に迷惑をかけてしまうのだろう。 ねぇ、ギイ。君が言っていたデメリットよりも、ぼくはこのIDカードを使う時が一番苦労するような気がするよ。 「親子よねぇ」 「親子ですねぇ」 二人そろって、大きな溜息。総帥夫人って、大変なんだ。 もしも………もしも将来ぼく達の間に子供ができて、もしも、その子が男の子だった場合、同じように三回のプロポーズをするのだろうか、とぼんやり頭を横切った。 現総帥夫人と、次期総帥夫人のガールズトーク♪ 未来のどこかで、クシャミをしているヤツがいるかもしれませんね( ̄ー ̄) (2014.2.16) |