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●  君が帰る場所-8-  ●

 しかし、先ほどの託生の台詞には、とんでもなくヤバイことが混じっていたような気がする。たぶん怒られるのだろうが、確認しないといけないんだろうな。
「託生、スキップの話は誰に……」
「黙ってても、こういう事は、いつか耳に入るの!」
 突いていた人差し指に親指をプラスし鼻を摘んで引っ張って、託生がここぞとばかりに小言を言う。
「痛い痛いって、託生」
「もう!ぼく、ずっとコロンビア大学に行っていたものだと思ってたのに、大学院だったんだね。祠堂に入る前に大学を卒業しちゃってたんだから」
「あー、ごめん。隠すつもりは……」
「ぼくに話す機会がなかったんだと思っておくよ」
 オレの言葉をはばかって、そうは思っていないだろうに逃げ道を用意してくれ……。
「三洲君にはあったみたいだけど」
 ……なかった。
 でも怒っているような素振りはない。その証拠に目が笑ってる。
「ぼくが知らないって言ったら、三洲君慌てて『俺がたまたま聞いたから、崎は答えただけ』って。幼稚園のことは、お義母さんが教えてくれた」
「そうか」
 いつまでも隠しとおせるものだとは思わなかったけど、まさかすでに知っていたとは。
 託生のことだから、オレがわざと昔の話を避けていたことに気付いていただろう。だから、今までなにも言わないでいてくれたのか。
 でも、託生とするなら、思い出したくなかった子供の頃の話も、また違った色を添えるような気がする。
「この子ね…」
 と、託生が腹を包み込んで優しく撫でた。
「ぼくとしてはギイに似てくれたら嬉しいなと思うんだけど、こればかりはわかんないからねぇ。頭ん中、ぼくに似ちゃうかもしれないし。ぼくの祠堂での成績覚えてるだろ?」
「あぁ、まぁ」
 託生のことなら、どんな些細なことでも覚えている。
 古典が苦手なところとか、今はともかく英語のテストで毎回泣きそうになっていたところとか。代わりに音楽は満点だったとか。
「でも、オレは託生に似てほしい」
 こんな心の狭いひねくれた性格のオレに似たら、こいつが可哀想じゃないか。
「うーん。でも、ぼくはギイに似てほしいな。頭いいし、格好いいし、優しいし、頼りになるし、友人思いだし……」
「あの、託生くん………」
「なに?」
 オレへの賛辞らしい言葉を並べ立てる託生に、少々照れくさくなって呼んでみたのだが、きょんとしてオレを見返す託生に悪戯心がむくむくと沸き起こり、
「ボサボサ頭で大あくびして、洗えば落ちるとか言ってどこででも寝て、面倒なことは丸投げで逃げ出して、自分の要求が通るまで駄々をこねまくって、食べても食べても腹減ったと言って、缶コーヒーを飲んでると必ず横取りするオレには似ないほうがいいと思うけど」
 絵利子に言われた台詞を繰り返すと、みるみる間に顔が真っ赤に染まった。
 そして、あわあわと両手を振り、
「それもギイだけどっ!ぼくは、どんなギイでも愛してるから!モデルのように格好いいギイも頑張ってるギイも好きだけど、我侭で自分勝手で子供のように拗ねててもギイはギイだし、無精ひげはやしてヨレヨレの服を着ててもギイはギイだから!………あれ?」
 もう、最高だよ、託生!
「ギイ!」
 飛び起きて抱きしめて顔中にキスをして、何度も何度も愛の言葉を囁き、仕舞いに二人で子供のように笑いあい見詰め合った。
「託生、愛してる」
「うん、ぼくも愛してる」
 割れ鍋に綴じ蓋、上等!
 オレ達は、二人でひとつなのだから。
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