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●  君が帰る場所-設定1-  ●

 ぼくがNYに来た頃、本宅にはとても来客が多かった。
 けれども、それまでの本宅の様子をぼくは知らなかったから、それが普通なのだと思っていた。
 それに、来客があるときは、絵利子ちゃんが必ずぼくの部屋に来ていたし。
 その来客がギイの求婚者だとわかったのは、ぼくの部屋に飛び込んできたときのことだ。
「貴方が義一様の婚約者だなんて認めません!今すぐに日本に帰って!」
 皆に守られていたんだなと思った。
 そして、祠堂にいたときでもそうだったのに、どうしてぼくは忘れていたのだろう。ギイがとんでもなく、モテるということに。
 アメリカに帰ってきたなら、セレブのご令嬢がギイに猛攻撃をしかけても可笑しくはない。
 絵利子ちゃんの手を、ご令嬢らしくなく叩き落し……まぁ、その振る舞いにぼくのこめかみがピクリと動いたのを誰も見ていなかったと思うけど。
「なによ?」
 ずいっと絵利子ちゃんを庇うように一歩前に出たぼくを、ご令嬢が睨みつけた。
「鼻をかむギイを想像できますか?」
「は?」
「トイレに行くギイを想像できますか?」
「そ……それは、人間であるならば、当然………」
 ほんの少し頬を染めて、それでもキッとぼくを睨みつける。
「ボサボサ頭で大あくびしているギイを想像できますか?」
「そのくらい……」
「洗えば落ちるとか言ってどこででも寝るギイを想像できますか?」
「え………」
「面倒なことは丸投げして逃げ出すギイを想像できますか?」
「………」
「自分の要求が通るまで駄々をこねまくるギイを想像できますか?」
「………」
「食べても食べても腹減ったと言っているギイを想像できますか?」
「………」
「缶コーヒーを飲んでると必ず横取りするギイを想像できますか?」
「………」
「ギイは人形なんかじゃない。上っ面だけを見て想像するのは自由ですけど、たぶん貴方の許容範囲を越えていると思いますよ」
 自分で言うのもなんだけど、こういうギイもギイだと思ってるから、ぼくは愛してるけど。
 気付けば、ご令嬢だけではなく絵利子ちゃんまでポカンとしてぼくを見ていた。
 しまった!
 怒りに任せて言っちゃったけど、もしかしたら崎家との親交にヒビを入れてしまったかも……。
「そういうことですから、外見を取り繕うのが得意な兄に騙されないでくださいねぇ。……さっさと出ていって」
 でも、すぐに立ち直った絵利子ちゃんがご令嬢の腕を取り、開いたままのドアの向こうに押し出して、ガードに引き渡した。


(2012.5.27 blogより転載)
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