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●  jyaketto  ●

「けど、まぁ、母さんの誕生日がデビューってのは、よかったと思うけど。無頓着だから、他の日だと覚えてないような気がする」

親父がいるなんて珍しい。
でもって、機嫌が悪そうなのも珍しい。
なにしろ、親父のポーカーフェイスは鉄壁。オレ達は
お袋や咲未には気付かれない。
ということは「機嫌が悪いんだ」とお袋にアピールしているんだな。
めんどくさ。
「なぁ、兄さん。今回はなんなんだよ?」
「母さんのアルバムだよ」
「十周年記念の?」
「そう。二枚組みプラスメイキングDVD付き。しかも、今までの写真とインタビューををブックレットにして、化粧箱に収納するタイプの」
「豪華じゃん」
「だろ?十周年だから、事務所側も力を入れているんだけどな、父さんが………」
「なにか問題でも?」
「メイキングと写真だよ」
「はい?」
「バラ蒔きたくないそうだ」
「母さんの写真を?」
「そう」
ポカンと開いた口、更に 顎が落ちた。
そこまで独占欲
「もしかして、今までDVDを作らなかったのは………」
「全部、父さんが話を潰したそうだ」
事務所スタッフも可哀想に。
「でも、一応CDジャケットは母さんの写真だよね?小さいけど」
そう。バイオリンを構えている上半身とかではなく、なぜか風景の中にお袋がいるような………かろうじてお袋だなとわかる写真。
店頭に並ぶ数多くのクラシックCDの中で、少し路線を変えてインパクトを狙っているのだと思っていたけれど。
「あの大きさが、精一杯の譲歩らしい」
「………」
そう言えば、レコーディングスタジオは作ってたが、フォトスタジオは作ってなかったな。
「母さんの意見は?」
「事務所の企画に、母さんが口出しするはずないだろ?」
「そりゃ、そうだ」
自分の仕事はバイオリンを弾くことと明言し、ようするに、他のことは全てスタッフに任せている。その道のプロなのだから、間違いはないと全信頼を置いている。
「事務所スタッフが困りきっててさ。なにか、いい方法はないかって」
「父さんを黙らせる方法か………いっそのこと、夫婦でインタビューさせて、思いっきり惚気させたらいいんじゃね?」
「一颯?」
「インタビューも載せるんだろ?だったら、夫婦でインタビュー受けたって、あまり変わらないだろうし、そういう機会ってないだろうしさ」
「な……るほど。単独インタビューは今まであったけど、二人でってのはなかったな。仕事上の接点はないんだから」
Fグループ総帥の親父とバイオリニストのお袋が夫婦だってことは公表しているし、パーティなどは夫婦で出席しているけれど、一般世間の人間の目 二人が揃っている姿を見ることはない。
「ツーショットを撮らせてさ、全世界に、夫婦仲の良さを見せつける機会を、父さんが蹴るとは思えない」
 お袋を見せたくないけど見せびらかしたい、というなんとも複雑な親父の気持ちは
「事務所に電話してくるよ。一颯、サンキュー」

「あ、今日だったっけ、インタビュー」
「はい。今は託生様の防音室にいらっしゃいます」


さすがプロのカメラマン。
母さんが話しているときに、優しい眼差しで見守っている親父。
見詰め合って、
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