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●  粉雪が舞い散る夜に-1-  ●

 華やかなパーティ会場を後にし、ドレスアップした妹をエスコートして迎えの車に乗り込んだ。
「お疲れ、絵利子。サンキュ」
「私は別にいいけどね。そろそろ、託生さんを連れてきた方がいいんじゃないの?ギイと託生さんの夫婦仲が悪いのか?ってよく聞かれるんだから」
 絵利子の苦情に肩をすくめ、
「言いたいヤツには言わせておけばいいさ。かまうものか。実際、医師からドクターストップがかかってるんだ」
 それなりの理屈を言ったのだが、この妹には通じなかった。
「ドクターストップ……いい言葉よね。それって、こっちに来た当事の話じゃないの。あれから四年近く経ってるのよ。ギイが気にしてるのは、あれよね。妙齢の女性に、親しげに目配せされるのを託生さんに知られたくないからよね」
「…………」
 呆れかえった絵利子の眼差しを、明後日の方向を向きながら誤魔化す。
 当たり前だろ。託生に知られているとは言え、できる限りそういう人間と会わせたくはない。託生もいい気はしないだろうし。
「託生さんだって、レッスンを受けているのよ?」
「それは知っているけどな」
 日本から帰国したあと、託生はなにを思ったのかお袋に相談をして、マナーや淑女としての立ち居振る舞いなどのレッスンを受けだした。
 普段はカジュアルなパンツしか履かない託生ではあるが、レッスン中はスカートにハイヒール。ダンスの練習時はドレスまで着るようになり、その余りに綺麗な託生にオレの理性がガラガラと崩れ落ちたことも数知れない。
 中でも、初めてハイヒールを履いたときの仔鹿のようにプルプルした託生は垂涎物の可愛らしさで、必死にオレの腕に掴まり歩行練習している最中、何度襲いそうになったことか!
 もう、パートナーとして十分な状態であるのはわかってはいるが、勿体無くて託生のドレス姿なんて見せられるわけがない。
「いいかげん、覚悟決めなさいよ。相変わらず心の狭い男よね」
 絵利子の小言を右から左にスルーし、窓の外に目を向けた。
 十二月に入り、本格的なクリスマスシーズン。窓の外に流れるカラフルな電飾が、NYの街を彩っている。
 次のオフは毎年恒例になっているロックフェラーセンターのクリスマスツリーでも見に行くか。
 託生の喜ぶ顔を思い浮かべ、プランを練りだした。


 絵利子を本宅に送り届け、マンションに着いたのはあと少しで日付が変わろうとしていた頃。
 ペントハウスのドアを開けると、託生がメイドと一緒に楽しそうに飾り付けていたクリスマスツリーのライトが出迎えた。
「お帰り、ギイ」
「ただいま」
 もう既にパジャマに着替えていた託生に軽くただいまのキスをして、上着をソファに放りボウタイに指をかけると、何か言いたげな託生の瞳とぶつかった。
「どうした?」
「あのさ。ぼく、パーティに行かなくていいの?いつも絵利子ちゃんに頼んでるよね?」
「そういうの苦手だろ?」
「うん、そうだけど……。でも、アメリカじゃそれが普通なんだろ?どんな場所でも夫婦同伴するって」
 こちらの生活を見聞きし、そしてオレの立場を考えて託生なりに色々と勉強してくれるのは喜ばしいことなのだが。
 託生をソファに座らせ腕の中に閉じ込める。
「託生ががんばってくれているのはわかってるけど、無理しなくてもいいって」
 半分本気で半分は己の諸事情による都合で言ったのだが、託生は顔を曇らせ、
「そうか。ごめんね。みっともなくて」
 予想もしなかったとんでもない方向にオレの言葉を受け止めた。
「は?!いや、ちょっと待て」
「だって、ぼくがドレス着たら女装しているみたいだし」
 慌てて託生の腕を掴み覗き込むと、涙で潤ませた瞳に眩暈がした。
 誤解だ誤解!よりにもよって、どうしてそうなる?!
「いや、違う。託生を連れて行かないのは、見せたくないからだ」
「……やっぱり、みっともなくて恥ずかしいから見せたくないんだ」
「違うって!託生のドレス姿を勿体無くて見せたくないって言ってるんだ」
「別にいいよ。無理しなくても」
「だーかーらー!」
 作り笑顔で悲しそうに言われて、この凝り固まった託生の誤解をどう解いたらいいのか、頭をフル回転させる。この状態になったら、言葉を重ねても納得しないのは長年の経験でわかっていた。
 言ってわからないのなら………。
「あのな。イブニングドレスってのは、こういうもんだぞ」
 言いながら、託生のパジャマの第二ボタンまで外し、襟元から上着をずらした。白い肩が露になって胸の膨らみが強調される。これだけで、オレの心拍数が一気に急上昇し、あらぬところに熱が集まってきたのだが、それよりも託生の誤解を解くのが先だ。
「この託生の肌を他の男に見られるんだぞ」
 託生は自分の肩をキョロキョロと確認してオレを見上げ、
「でも、みんな同じようなドレス着てるよね?」
 なんの問題があるんだと言わんばかりの託生にがっくりと肩を落とす。
 頼む。いいかげん男心をわかってくれ。ただでさえ日本人は肌が綺麗なのに、託生のそれは陶器のように真っ白ですべらかで、だからつい……。
「ギイっ……!」
「キスしたくなるような肌を、他の男に見せたくないんだ」
 強く吸って赤い花を咲かせる。自分のつけた跡を確認して目を細めた。オレだけに許された行為に独占欲が頭をもたげる。
 ソファの背もたれとオレに挟まれ、しかもパジャマの上着がいましめとなり自由に動けない託生の鎖骨から首筋をたどり、耳元を舐め上げた。
「だから、それっ……は、惚れた欲目だっ………んっ……」
「違うって」
 深く口唇を重ねて舌を絡め、パジャマの上から背骨にそって手を撫で下ろすと、観念したように託生が指先でキュッとオレのシャツを引っ張った。覗き込んだ潤んだ瞳に、ゴクリと喉が鳴る。
「愛してる、託生」
 誰にもお前を見せたくないんだ………。
 囁いてもう一度口唇を重ねながら、ソファに押し倒した。
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