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●  雪に残った足跡-3-  ●

 しっとりと濡れている髪をかきあげ口唇を当て、託生の足の間に身を滑らせた。オレの体の分、託生の足が頼りなげに宙に浮く。
 託生は目を閉じ、大人しくオレの成すがままに身を任せていた。
 軽いキスを繰り返し、なだらかな肩から胸へ、そして腹の小さな窪みをかすめ、丸く柔らかな尻まで。一度目の疲れを解すようにゆっくりと撫でさする。
 その手の跡を口唇で追う。時折、くすぶっている火をもう一度熱く燃え立たせるよう、赤い跡をつけた。
 柔らかな薄い茂みから内ももを甘噛みするように滑らせ、託生の吐息が深くなったのを見極め、体を起こした。
 下腹部に置いた手を、さっき受け入れていた託生の濡れた肌より、奥に手を伸ばす。
 指先の感触に、託生が驚きに目を開いた。
「ギ……ギイ………」
 そこに触れるのは二年ぶり。先ほどの行為で滴り落ちた蜜を、一つ一つのひだに塗りこみ、円をかくように、もう一つの入り口を指でなぞっていく。
 さきほどと同じような行為であり、違う。けれども、愛し合う、もう一つの方法。
 それを、オレ達は知っている。
「いやか?」
「あ……でも………」
 戸惑いと緊張に体を固くした託生の膝裏に手をかけ、自分の肩に抱え上げた。腰が浮かび、目の前に託生の秘所が露になった。
 普通の男女の営みでも、二人が愛し合うために使われることがあるが、女性としての自分を受け入れようとしている託生を否定するような気がして、今まで故意に避けてきた。
 さっきまで、オレの手を拒むことはなかったのに、焦ったように身をよじり逃げようとする託生を強引に組み敷いた。
「ギイ………!」
 二年前までは、ここで繋がることが当たり前だった。今も同じように、快感を感じるだろ?
 あの頃と同じように、男性器だと思われていた場所を咥え、託生の呼吸に合わせて秘所を押し広げていった。何度も刷り込まれた快感が、無意識に託生を捕らえていく。
 呼吸が乱れ、時折息を止めて快感を逃し、オレの指に託生の内部が絡み溶け出す。髪に差し込まれた託生の指が、ときおりねだるように力が入った。
「や……、ギイ………んんっ………」
 潜り込ませた指に蜜がしたたり落ち、動きを助けてくれる。そのとめどなく溢れる蜜が、託生の快感の深さを物語っていた。
 シーツに水溜りができるくらい溢れさせた蜜が勿体無くて、そこに口をつけて啜ると甘い悲鳴を上げ託生の体が跳ねる。
 あぁ、この愛撫のやり方は初めてか。
 託生を高めるポイントなんて、体が覚えている。二年そこらで忘れらるものじゃない。オレも、託生も。
 足の指が反り返り、抱えた膝がオレを取り込むように挟み込んでいく。指先で感じる柔らかさと震える足の振動が、託生の限界が近いことを伝える。
「ギイ………!」
 叫ぶような託生の声を合図に一気に押し入った。とたん、体中の血が熱く駆け巡り、二人を包む空気が熱く変わった。
 体の硬直をほぐすように、背中から腰を撫で、顔中にキスの雨を降らし、託生の衝撃が落ち着くのを待つ。
 無意識に浅く呼吸をして痛みを逃していた託生の内部が、徐々にほぐれていくのを感じ、
「託生、愛してる」
 頬をすりつけ愛を囁き、水の上をたゆたう小船のようにゆっくりと揺れだした。しっとりと包み込まれる感覚が、懐かしくもあり新鮮でもあり。
 肩に回された託生の指の強さと喘ぎが、オレを魅了していく。
「ギイ………もっ……と………ギイ………あぁっ!」
 快感に潤んだ瞳が物足りないとオレを捕らえたとたん、背中をなにかが駆け上がり、動きが激しくなった。
 ひっきりなしに零れ出る喘ぎは、もう意味のないものになっている。
 あの狭いベッドの上で、何度も愛し合った。一つになれる場所を求めて。
 想いはあのときと全く変わらない。一つになりたい、混じりあいたいと求めあい、愛し合った。
 胸に当たる柔らかさはなかった。でも、この吸い付くような肌も、甘い匂いも、熱い吐息も、どこが違うと言うんだ?
「変わっているか?なにも変わってないだろ?」
「あ……っ……ギイ………!」
「託生はなにも変わってない。愛し合う形が増えただけだ」
「んんっ……!」 
「愛してる。今までも、これからも、託生だけを」
 刻む律動に、託生の顎が酸素を求めるように上がり、晒された白い喉元に食らいつく。二つに折り曲げられた託生の体から汗が吹き出て、声が高くなっていく。
「託生は託生だ。そのままでいいんだ」
 託生はオレの肩に爪痕を残し、声にならない悲鳴をあげた。


 あのとき医師に聞いた。
 今、発覚しなくても、いつかは女性だとわかるのかと。
 答えは、限りなく「NO」だ。
 ゼロではないが、今回のケースはとても珍しい症例なのだと。
 女性の中にも実際にある膣欠損症は、生まれつき子宮や卵管、卵巣もない場合が多く、あっても萎縮して痕跡として残っているか、託生のような月経による腹痛を、月経だと気付かず何度も起こし、最終的に切除になってしまうか。
 まさか女性だと思わなかったからこそ、腹痛の原因をあらゆる方向から探ったから、託生は判明した。
 ただ、本来なら、託生のケースでは痕跡として残ることがほとんどらしい。だから、女性だと気付くことなく、生きていたはず。
 それが、月経を起こすまで成長したのは、恋人オレの存在があったから
 オレと恋をして、愛し合って、託生の女性ホルモンが活発化した。ただし、年齢的にギリギリのラインだった。
 偶然が重なった奇跡。それが、結果的に託生にとって良かったのか悪かったのかはわからない。
 でも「あのままの方が、よかったか?」なんてことは聞けない。託生は、もう選んでしまったんだ。後戻りはできない。
 糸が切れたように、深い眠りについた託生の前髪を指で梳いた。さらさらと零れ落ちる、髪の影に、穏やかな表情が見える。
 あのとき、オレのために、二人の未来のために、お前は選んでくれたんだろう。
 十八年間の人生と引き換えに、まだ見えぬ可能性にかけてくれた。
 精神的にも肉体的にも、お前に抱えきれないほどの負担をかけている。できることなら全てをオレが受け持ち、お前には笑っていてほしいのに。
 これ以上、お前の重荷を増やしたくはないんだ。
 どうやったら守れるのだろう。お前の心と体を。
 託生の顔を見つめながら「愛してるよ」と囁くと、託生が幸せそうな無垢な微笑を浮かべた。
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