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●  銀色のフォトフレーム(2012.5)  ●

 連日の激務で疲れているはずなのに、
「子供達と遊ぶんだ!」
 と言ってきかない、我が家のデカいやんちゃ坊主。
 久しぶりの休日なのだから、ゆっくり休んでほしかったのに、早々に起床し朝からべったり子供達の側にいる。
「咲未にまで顔を忘れられたら、オレ立ち直れそうにないぞ」
 ………あの「いつ来るの?」はギイのトラウマになったようだ。
 朝は子供達が起きるよりも早く、夜は子供達が寝るよりも遅く、しかも出張が多いこの仕事では子供達とのコミュニケーションが取りにくいのはわかるけど、やっぱりぼくとしてはギイの体のことが心配で。
 しかし。
「託生はいつでも遊べるんだから、今日はオレに譲れ」
 昼食を取ったあと邪魔だとばかりにキッズルームを追い出され、ここまで意固地にギイが言うのだからお任せしちゃおうとバイオリンの練習を始めた。
 いつもはお昼寝の時間くらいしかできないからね。
 一時間ほど経って、そろそろいいかなと部屋の前まで来たら、ぼくを見かけたメイドが話しかけてきた。
「お飲み物でもお持ちしましょうか?」
「うん、そうだね。そろそろみんな喉が……静かだね」
 この部屋を出るときには、ワーワーキャーキャーと四人で騒いでいたのに、今は物音一つしない。
 疑問を感じながら、そっとドアを開けて覗き込んだ。
「あ……」
「どうされま……」
「しっ」
 人差し指を口の前に立ててメイドに振り向き、
「見てみて」
 小さな声で部屋を指差す。
「あらあら」
 不思議そうな顔で同じように部屋を覗き込み口に手を当てたメイドと、顔を見あわせてクスクスと笑いあった。
 これは残しておかなきゃ。
「デジカメあるかな?あとタオルケットと」
「持ってきますね」
 パタパタと走っていき、すぐに戻ってきてくれたメイドからカメラとタオルケットを受け取り、そっと部屋の中に入ってドアを閉めた。
 部屋の中央には、柔らかな絨毯の上で大の字になったギイの右腕に大樹。左腕に一颯。胸の上には咲未。
 四人とも、とても気持ちよさそうに寝ている。
「やっぱり疲れてたんじゃないか」
 子供達に振り回されてバイオリンの練習時間さえもままならないぼくを、休憩させようとしてくれたのだろう。
 自分こそ、体を休めなくちゃいけないのに。
 音を立てずに側により、カメラを構えてパチリと撮った。
 小さなシャッター音に顔をしかめたものの、ギイは深い寝息を立てている。子供達に至っては、身動き一つ全くしない。
「うん、バッチリ」
 液晶画面を確認して、その出来栄えに自画自賛した。
 カメラをソファに置き、ゆっくり横向きにタオルケットをかけたら、にょきっとギイの足が出たけれど、そのくらいは許してもらおう。
 ソファに座り四人の寝顔を見ていたら、なんだか眠気が襲ってきた。
 ぼくも寝不足だったからなぁ。
「少しだけ寝よ」
 起きたら一緒に遊ぶことにして、とりあえず心地よい眠気に従って、幸せな気分のままソファに寝転んだ。


 人の気配にふと目を開けると四人が心配そうにぼくを覗き込んでいて、かけたはずのタオルケットはぼくにかかっていた。
 かなり寝ちゃったかな?
「託生、大丈夫か?」
「母さん、気分悪い?」
「マミィ?」
「まー?」
 八つの瞳に見詰められ、なんとなく涙が込み上げそうになって、思わず四人まとめて抱きしめようとしたら、子供達がぎゅっと首に手を回し抱きついてきた。その様子を見てギイが目を細めて微笑み、ぼく達を包み込むように腕を回す。
 こんなに小さいのに、優しさに溢れるぼくとギイの子供達。いつでも、どんなときでも、大きな愛で守ってくれるギイ。
 一度知ってしまったら二度と手放せない、家族の温もり。
 しばし堪能したかったのだけど、このおしくらまんじゅう状態にクスクスと笑いが起こりキャーキャーと子供達が騒ぎたて、
「ダディが鬼だよ。逃げろーっ」
 ぼくの一言で蜘蛛の子を散らすように子供達が走り出し鬼ごっこが始まった。


 ぼくの手の中にある小さなフォトフレーム。
 けれども、なにものにも代えることができない、大切な幸せが詰まっている。


(2012.5.28 blogより加筆転載)
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