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● ● 星に願いを-設定- ● ●
「で、その星は?」
「託生様が、持っていかれました」 なるほどね。誰がツリーの星を飾るかで喧嘩になったわけだ。星を飾りたいなんて子供らしい可愛い我侭なんだが、どうするかなぁ。 上の二人に比べて大人しいと言えど、ちょうど自己主張の激しい二歳児の咲未。大樹に比べれば不器用で、自分で納得できなければ頑固なほど執着する一颯。いつもなら、弟妹に譲り一歩引く大樹も、まだまだ子供だ。 我慢してばかりじゃ、一年に一度のチャンスを逃してしまう。 星を持って部屋に戻っても、子供達だけで長時間置いておく託生じゃないから、すぐに戻ってくるだろうが、感情が高ぶっている今は、お互い離していた方が良さそうだな。 とりあえず、子供達の様子を見にいくか。 託生に子供と話し合いをするから部屋で休むようにとの伝言を執事に頼み、ロビーの奥に一歩踏み出した。 「ただいま」 「ダディーっ」 「……………」 「………お帰りなさい」 泣きながら走りよってきたのは、咲未。涙を溜めたまま、口を真一文字に噛み締めている一颯に、こんなときでも、きっちり挨拶を返す大樹。 そのまま床に座って三人を抱き寄せると、堰を切ったようにしがみついて泣き出した。 こいつらには悪いが、子供らしい理由で真剣に喧嘩している様子を思い浮かべて頬が緩む。そして、託生も喧嘩の原因をいったん取り上げただけで、このままツリーを放ったらかしにするつもりはないだろうに、それさえも素直に受け止めるなんて、我が子ながらいい子に育ってるなと思うのは、ただの親バカだろうか。 託生は、子供時代にクリスマスらしいクリスマスを過ごしたことがない。 だから、毎年子供と一緒に楽しんで思い出を作ろうと一生懸命になっていたみたいだが、こういうことが起こるなんて予想もしなかっただろう。 やりたくても、自分の意見は聞いてもらえないのを知っていた託生は、最初から諦めていたから。 「明日、一緒に謝ってやるから。星も一緒に頼んでやるよ。だから心配せずに、今日は寝ような」 こっくり頷いて、反省しているらしい子供達を大樹の部屋に放り込み、落ち込んでいるだろう託生の下へ足を向けた。 「ただいま、託生」 「ギイ………」 ソファの上で小さくなり膝に顔を埋めていた託生が、情けなさそうな表情で出迎えた。テーブルの上には、星が一つ。 苦笑いをしながら託生の隣に座り肩を抱き寄せると、転がるようにコロンとオレの体にもたれてくる。 「ぼく、子供達の育て方間違ったかも」 「そんなわけないだろ?とても、いい子に育ってるさ」 子供らしく、真っ直ぐで素直に。 「でも、誰もが譲らないんだもん。話し合いにもならなくて……」 「自己主張だろ?生きていくうえで大切だと思うぞ。人に流されず自分の意見を言うのは、なかなかできないことだからな」 「それは、わかってる。わかってるんだけど………」 口篭った託生の髪にキスを落とし、抱いた肩を宥めるように上へ下へと撫でる。 いつもの託生なら、どれだけ時間をかけても子供達の言い分を聞いて、なんとか解決への糸口を見つけようとするだろう。しかし、自分自身がヒートアップして、切って捨てるような状態になったのは、託生に余裕がないからだ。NYだけとは言え初めてのクリスマスコンサートに、気持ちが張り詰めている。 こんな仕事をしているせいで、子供のことは託生任せだ。もちろん、託生は最初から納得してくれているし、愚痴も文句も言うことはない。 一般的には、もう少しシッターに任せろと進言するのが普通だろう。しかし、託生は自分を否定されたように受け止める危険性があるんだ。 だからこそ、託生の心を守り軽くするのは、オレの役目。 「仲良くできなくてごめんなさい、だってさ。ツリーの飾り付けでテンションが上がっていたから、たぶんそのままの乗りで言い合いになっちまったんだと思うぞ。明日には落ち着いているだろうから、大丈夫だって」 「そうかな………」 「オレの言うことを信じなさい」 「………うん」 ウインクをつけて軽口を叩くと、やっと表情をふわりと緩め、託生はこっくり頷いた。昔から変わらない仕草が可愛らしくて、そっと口唇を重ね、柔らかく啄ばんでその甘い蜜を堪能し、しかし、名残惜しくもあったが理性が振り切れる前に託生を離す。 潤んだ瞳にグラリと理性が傾きかけるが、今夜中に原因の種をどうにかしなければ。 「少し仕事が残ってるんだ。先に風呂に入って休んでてくれないか?」 「あ、ごめん!ギイの時間………」 台詞を軽くキスで塞いで、 「邪魔したなんて言うなよ?託生の補給に来たんだから」 にっこり笑ってやると、託生の頬がピンクに染まった。
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