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●  星に願いを(2013.12)  ●

 十一月の感謝祭が終わると、街はクリスマスカラーに彩られる。
 愛の赤、生命の緑、そして、純潔の白。粉雪でさえも聖なる色と交わり、肌寒いこの季節に、心躍るような暖かさを人々に届けている。
 大人も子供も、煌びやかなイルミネーションの中を足取り軽く遊びに出かけ、この街が一番輝く季節を楽しんでいた。
 レポートに埋もれたオレを除いて。


 Rrrrrrr。Rrrrrrrr…………。
「う……るさい………」
 カーテンを閉めきり物音一つ聞こえない薄暗い室内に、突然響き渡った内線のコールから逃れるよう、頭までシーツを被り寝返りを打った。
 今日は土曜日で大学も休み。しかも、執事には昨晩「絶対に起こすな」と言い置いて部屋に篭ったのに。全員に伝わっていないなんて職務怠慢だぞ?
 しかし、誰だか知らないが、このまま放っておいても、取らない、イコール、まだ寝ていると判断して、いつか諦めるだろう。
 そう結論付け、まだふわふわとしている眠気に身を任せようと、意識的に脳の動きをストップさせ眠りの世界にもう一度落ちようとしたのに。
 Rrrrrrr。Rrrrrrr。Rrrrrrr。Rrrrrrrr…………。
 鳴り止まぬコールを聞いているうちに、オレの思惑とは反対に頭が徐々に覚醒し始め、耳がはっきりとした音を拾う有様に、小さく舌打ちをした。
 いったい誰だ、コノヤロ。あとで覚えてろよ。
 唸りながら乱暴に寝返りを打って手を伸ばし、受話器をシーツの中に引っ張り込んで、
「………Hello」
 我ながら喧嘩を売っているかのような剣呑な声で返事を返すと、
「いいかげん起きろよ、一颯。もうすぐ十時だぞ?」
 半ば呆れたような兄貴の声が聞こえ、拍子抜けした。
 メイドの誰かだと思っていたら兄貴とは。お互いの生活に干渉することなんて皆無なのに、珍しいこともあるもんだ。
「もう少し寝かせてくれよ。ここ数日、レポート三昧で徹夜続きなんだ」
 しかし、相手が兄貴だとしても、安眠妨害されたのは事実。ボヤきたくなるのは、当然だろう。
 やっと明け方完成の目処がつき、とりあえず仮眠を取って午後から一気にやってしまおうと思っていたのに。
 欠伸交じりに文句を言うと、
「別に俺は、いつまでお前が寝ていても構わないけどな。その代わり、我が家のお姫様のご機嫌が、マリアナ海溝よりも深く沈下して、あとで困るのはお前だぞ」
「………咲未が、なに?」
「約束しただろうが。今日、ツリーの飾り付けをするって」
 兄貴の言葉に、サーッと血の気が引いていく。
「………忘れてたっ!」
 ってことは、今日はお袋のコンサートじゃないか!
 来年の二月にお袋はデビュー十周年を迎える。随分前から事務所が企画を練り、親父の独占欲丸出しで我侭な妨害もあったが、そこはオレのアイデアで乗り切り、あとはその日を迎えるだけという段階ではあるのだが、それとは別に毎年恒例のクリスマスコンサートは通常通り開催される。
 しかし、クリスマスコンサートと十周年記念コンサートの間が近すぎるのも問題なので、今年のクリスマスコンサートは十二月に入ってすぐの土曜日と決まっていたのだ。
 もちろん、親父もオレ達も、お袋から直接チケットを貰っていたが、とにかく今現在、お袋はとんでもなく忙しい状態だ。
 だから、毎年、四人で飾っていたクリスマスツリーも、今年はお袋抜きでするしかなくなり、咲未がとても残念がっていたから、それならお袋がコンサートから帰ってきたときに大きなクリスマスツリーで出迎えようと慰め、指きりしたのが二週間前。
「今すぐ玄関ロビーに来なかったら……わかってるだろうな?」
「わわわわかってるから!すぐ行く!」
 構わないと言いつつ、兄貴、無茶苦茶怒ってるじゃねぇか。親父直伝の吹きすさぶ吹雪が、受話器から容赦なく流れ込んで冷や汗が浮かんだ。
 咲未に対してオレ以上に激甘だから、弟と言えど溺愛している咲未を悲しませる人間は容赦なく鉄拳が落とされる。直接起こしにこないのは、最後の情けだろう。
 ベッドから飛び起きざまパジャマを脱ぎ捨てて身支度を整え、全速力で部屋を飛び出した。


「遅くなって悪かった」
「………朝ごはん食べてすぐにやろうと思ってたのに」
「ごめんな、寝坊して」
「むー、ジンジャークッキーも昨日焼いてもらったし、キャンディもオーナメントも用意して待ってたのよ」
「ごめん!」
 待ちくたびれたらしい咲未に平謝りしつつ、相当怒っていることがビシビシ伝わってくる。それだけ、咲未が楽しみにしていたということだ。
 レポートさえなければ、絶対に咲未との約束は忘れなかったはずなのに。
 その向こうで使用人に指示を出し、モミの木を設置している兄貴は助け舟を出してくれる気がないようだ。まぁ、起こしてくれただけマシというもの。
 もしも、オレがあのまま寝こけてツリーの飾り付けができなかったら、こうやって文句を言われることもなく、そのまま喋ってくれなくなり、今度はオレが泣くはめになっただろう。
 それに関しては感謝しているし、ここに咲未がいるから鉄拳が落とされないのもわかるけど、なんとなく不気味だ。ほんの少し咲未が涙ぐむだけで、兄貴の怒りのリミッターが解除されるのに。
 いや、兄貴よりも今は咲未。
 約束を忘れていたなんて弁解できないことを仕出かし、悲しませてしまった侘びはしないと。
「遅れたお侘びに、咲未のいうこと一つ聞くから」
「………ほんと?」
「ほんとほんと」
 別に侘びでなくても、咲未のお願いならいくらでも聞いてやるけど、オレの言葉に「うーん」と首を傾げて腕を組み、一生懸命考えているらしい咲未が可愛らしくて口元が緩んでくる。我が妹ながら、なんて素直なんだ。
 微笑ましく思いながら、咲未の答えを待っていると、
「じゃあ、あとでChirstmas in Little Itaryのパレードに行きたい!」
 この季節のお楽しみ、パレードのエスコートを………えぇぇぇぇっ?!
「今日?!」
 確かChirstmas in Little Itaryのパレードは午後二時から。でもって、夜はお袋のコンサートがある。
 いや、普段なら喜んで連れていってやるけど、今日は、今日の午後は………。
「ダメ?」
「うっ」
 きょんと小首を倒して潤んだ目で見上げられ言葉が詰まった。さすがお袋直伝の破壊力。この天然攻撃に勝てる人間は崎家にはいない。
 もしかして、この流れを予知して兄貴は黙っていたのか?これが、咲未を悲しませた報復?
 期待に満ちた目で見られて覚悟を決めた。言い出したのはオレだしな。
「ダ……メじゃないぞ。せっかくのクリスマスだもんな。パレードくらいいつでも連れて行ってやるさ」
「やったーっ!一颯お兄様、大好き!」
 はははは。レポートが………。まぁ、一度ペントハウスに戻ってくるだろうし、二時間くらいは集中できるだろう。咲未が笑って喜んでくれるのなら、完徹くらい………オレ、何日寝てないんだろう。
「おい、そろそろ始めようか」
「はーい。大樹お兄様」
「ほーい」
 どうせなら、もう少し早く声をかけてくれたらよかったのにと脳裏を横切ったが、すぐさま不満を蹴散らした。これ以上兄貴を怒らせたくないからだ。
 しかし、咲未ににっこりと笑ってオーナメントを渡したあと、チラリと視線を寄越し綺麗に微笑んだ兄貴にゾクリと背中に鳥肌が走り、咄嗟に笑顔を作ってふるふると首を振った。
 兄貴に責任転嫁しようなんて、全然、これっぽっちも思ってないから。
 思ってないからな!


 手分けをしながらワイワイとオーナメントを飾り、イルミネーションライトを這わし、ただの木であったモミの木は、華やかなクリスマスツリーへと変身した。これだけで、一気にクリスマス気分が高まり、ペントハウス内の空気が変わる。子供の頃、信じていたサンタが、リンリンと鈴の音を鳴らしながら、窓の外を飛んでくるような錯覚さえ起こしそうだ。
 「煙突がないから窓を開けておく」と言ってお袋を困らせ、しかし「魔法の鍵を持っているから大丈夫」などと言い含められたことを思い出し、クスリと笑った。
 いつの間にか、サンタはいないんだと知ったけれど、それでもこのワクワクとした高揚感は消えることがない。
 クリスマスツリーの最後の仕上げ。
 小さな箱を兄貴が手に取り蓋を開けた。そこには、星ではなく、星を五等分した細長いひし形の欠片が入っている。
「一颯お兄様」
「はいはい」
 欠片の一つを手に取り、咲未が差し出したもう一つの欠片にカチリとはめ込む。そして、同じように兄貴も反対側にカチリとはめ込んで、ちょうど三つのとんがり帽子が広がっているような形になった。
「あとは、お父様とお母様よね?」
「だな」
 残り二つの欠片は、両親の分。
「なんで、こんな星一つで喧嘩したんだろうな?」
「さぁ?」
 星の欠片を手に取り首を捻ると、兄貴も懐かしそうに目を細め苦笑した。
 元々、この星は一つだったのだ。
 今なら、そんな子供だましと笑うところだろうが、金色のキラキラとしたそれは、夜空に輝く星を貰ってきたもので、サンタはこの星を目印に来てくれるのだと真剣な顔をして仰々しい口調で言われれば、クリスマスには絶対に必要な大切なものなのだと認識し、オレ達は信じきっていた。本物の星なのだと。
 そうすると、自分がツリーの天辺に飾って、星に近付きたいと思うのはごくごく自然なこと。
 しかしオレ達子供は三人。星は一つ。
 誰もが、まだまだ小さかったし、普段なら兄貴もオレも咲未に譲るところだろうが、クリスマスツリーを飾るのは一年に一度の、この季節だけ。
 誰がこの星を飾るのかで言い合いになり、オレ達の収拾のつかない喧嘩にお袋が大爆発した。
「今年のツリーは、お星様はなし!」
 そう言い置いて、たった一つの星を持っていってしまい、取り残されたオレ達は目印なる星がなければサンタが来てくれないと三人揃ってショックを受け、わんわん泣いているところに親父が帰ってきた。
 玄関のドアを開けるまでもなく、オレ達の泣き声は聞こえていただろう。
 執事と二言三言言葉を交わしたあと、やれやれと言うように苦笑して床の上に腰を下ろし、オレ達を胡坐をかいた自分の足の上に座らせた。
「星を飾りたかったんだな?」
 確認するように問いかけられてコクコクと頷く。
 親父の煙草の匂いが染みこんだスーツが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていたけれど、泣くのを止められなかった。
「ごめ………な……さ………」
「どうして、謝るんだ?」
「な……かよく………できなかった……から」
 兄貴の返事に同意し、しゃくりあげながらオレと咲未も頷いたのを見て、親父は大きな手で順番にオレ達の頭を撫でた。
「明日、一緒に謝ってやるから。星も一緒に頼んでやるよ。だから心配せずに、今日は寝ような」
 そのまま兄貴の部屋に連れていかれ、三人揃ってベッドに寝かされた。
 翌日、親父がオレ達を迎えに来てくれ、一緒にお袋に謝りに行ったとき、
「ぼくこそ、怒鳴ってごめんね。星を飾りたかっただけなのにね。でもね、みんなで仲良くしてほしかったんだ」
 少し哀しそうに言われれば罪悪感でいっぱいになり、また三人揃ってお袋に抱きついて泣き出した。
 サンタの目印になるとか、星に近付きたいとか、そんなことは忘れて、自分達の我侭でお袋を悲しませたことが、とんでもなく悪いことをしたような気分になったのだ。
 ぐずぐずと泣いているオレ達の背後から、
「みんなで、ごめんなさいしたところで」
 空気を換えるように親父が陽気に得意満面な表情をして、一つの箱を差し出した。そして蓋を開け、中から金色の細長いひし形の物を取り出し一人一人に手渡す。
 そのキラキラとした物をキョトンとして眺めていると、
「星の欠片だ」
 そう言って、お袋にも少し違う形の物を渡し、自分が持っているものを当て、カチリとはめ込んで星の土台部分を作った。
「みんなで、星を作ろう」
 その言葉にオレ達の顔が輝く。
 親父の苦肉の策だったのだと今ではわかるけど、一晩でこれを探し出すのは並大抵の苦労じゃなかったはずだ。もしかしたら、無理を言って作らせたのかもしれない。
 けれども、その頃のオレ達は、本当に自分達が星の欠片を手にしているのだと思ったし、素直に喜びと感動で胸がいっぱいになった。自分は、今、すごい欠片を持っているのだと。
 親父は咲未の前にその土台を差し出し「ここに入れるんだよ」と指示して、まだ細かいことは出来ない咲未だけれど、自分のてのひらほど大きい欠片だから、難なくカチリとはめ込ませた。そして、隣にいたオレ、兄貴も欠片をはめ込んで、大きなキラキラとした星が完成した。
 誰か一人の星ではなく、みんなの星。家族がいないと星にならないのだと、みんなの力を合わせないとできないこともあるのだと、そのとき初めて知ったのだ。
 誰がこの星をツリーに飾るのかについては平等にクジ引きで決め、結果当たりクジを引いたのは兄貴。
 しかし、昨日のことがあったので、困惑した表情を浮かべ誰かに譲ろうとした兄貴を素早く親父が肩車をして梯子を上り、
「早くしないと、落ちるぞ」
 と脅して、無事ツリーの天辺に星を飾った。
 今は、もう、そんなくだらない事で言い合いなんてしないけれど。
「星、どうする?」
 オレ達が組み合わせた三つ分の欠片と、親父とお袋の二つの欠片。
 今までお袋も一緒にツリーの飾り付けをしていて、予め親父とお袋の欠片はくっついた状態であったから、なにも考えず一つの星にして飾っていた。しかし、今、親父もお袋もここにはいない。この二つの欠片を勝手に組み合わせても、どうということはないだろうけど、なんとなく違うような気がする。
 同じように思ったのか、上半分の星を片手に兄貴が箱に残っている欠片二つを眺め、おもむろに三つ分の星も箱の中に入れ、ニヤリと笑った。
「このまま置いておいて、今年は父さんと母さんにツリーを完成させてもらうか」
「さんせーい」
「ナイスアイデア」
 今日は、コンサートのあとオレ達三人は先に帰り、お袋と親父はそのまま打ち上げパーティに出席する予定になっている。打ち上げと言いつつ、十周年記念イベントの準備で疲れているであろうスタッフを労い、最後までよろしくという意味合いも含んでいるのだが。
 今日、一緒にパーティに出席しても、周りは他人ばかりで、しかも主催者側。ゆっくりと話す時間もないだろう。
 星を飾る、ほんの少しの時間だけれど、誰にも邪魔されず恋人気分を味わってもらえればと、オレ達からのささやかなプレゼントだ。
 オレ達三人分の未完成の星と二つの欠片を、金魚すくいの袋よろしくツリーの前面に引っ掛け、

『あとは、よろしくお願いします 大樹&一颯&咲未』

 メモ用紙を張って任務完了。
「さてと。一颯も腹が減っているだろうし早めに昼食を取って、パレードを見にいくか」
 兄貴が振り向きざま言った台詞に、咲未の顔が輝いた。
「大樹お兄様も行ってくれるの?」
「あぁ、パレードのあとはショッピングとディナー。いいレストランを見つけたんだ。その足で、母さんのコンサートに行けばいいだろ?」
「やったーっ!」
「………え?」
 目の前で広げられた二人の会話に、オレの顎が落ちる。
 パレードを見て、ショッピングして、ディナーだと?もしかして、一度もペントハウスに帰ることは許されないってことか?
 こんなに喜んでいる咲未に、オレだけ抜けるなんてことは言えないし、第一にこれはオレからの侘びだけど。兄貴のあまりの仕打ちにガクリと膝から力が抜けた。これが鉄拳の代わりなのか。
 咲未の頭を撫でながら、兄貴は呆然として固まったオレに含みのある視線を移した。その視線に力なく見返すと、
「残ってるのはブラウン教授のレポートだろ?明日、手伝ってやるから今日は寝ろよ」
「へ?」
 何気ない調子で言われ、しかも寝不足で回らない頭には理解できず、派手に疑問符を飛ばした。今、なんて?
「せっかくの美味いディナーと母さんのバイオリンを、野暮なレポートで台無しにしたくないだろ?」
 鳩が豆鉄砲を食らったようにポカンと見返したオレに小さく吹き出して、ウインクを一つ決めた兄貴は、オレにも激甘らしい。
 意味するところを理解して、
「兄さん、愛してる!」
 両手を挙げて感謝を表現すると、
「今回だけだからな」
 仕方ないヤツとでも言いたげに、兄貴は肩をひょいと上げた。


 超美味いディナーを堪能し、お袋の演奏で心の洗濯をして、上機嫌のままベッドに横になり、ぐっすりと眠った翌日。
 もうすでに親父もお袋も仕事に出ていて、話をすることもできなかったけど、玄関ロビーのクリスマスツリーの天辺には、キラキラと輝く星がちょこんと乗っていた。
 少しは、二人きりの時間を楽しんでくれたかな?
 そして、袋を吊るしていた枝には、オーナメントのボールを小さくしたようなボールが三つかけられていた。『ありがとう』のメモと一緒に。表面には細かな網目や螺旋など独特な細工が施されている。
「なんだこれ?」
 手に取ったとたん、シャラランとハンドベルのような不思議な音が広がった。
「もしかして、オルゴールボールじゃない?」
「へぇ、これが」
 名前を聞いたことはあるけれど、実物を見たのは初めてだ。内部にある弦に真鍮(しんちゅう)の破片がぶつかり音を奏でるものらしいけど。
「オルゴールボールの中でも、こういうケルトデザインのものをドルイドベルと言うんだ。古代ケルト民族が、瞑想の場を作り出すために使ったらしい。オルゴールの元祖とも言われてるな」
 兄貴が指先でつまみ、光に透かすように目の前に上げた。
「兄さん、物知り」
「民族学を専攻している友人に見せてもらったことがあるんだ。ヒーリング効果があるからと携帯しているらしい」
 ヒーリングか。キンキンとした金属音ではなく、耳に優しい心地よい音色は、確かに心が落ち着くようだな。
 コロコロと転がしながら不可思議な音を楽しんでいると、 
「まるで、お星様が落ちてくるような音みたい」
 同じように手の上で転がしていた咲未が、うっとりと呟いた。
 その言葉に、家族で山荘に言ったとき、満天の星空を横切っていった流れ星を思い出す。
 NYでは当たり前だが星があまり見えなくて、あの降ってくるような星空を初めて目にしたときには、驚きに目を丸くしたものだ。プラネタリウムでしか見ることができない満天の星空が、実際に存在しているのだと。
 そして、星が流れている間に願い事をすると叶うと聞いて、必死に願い事を口にしたような気がする。なにを願ったのかは覚えていないけど。
 今、なにかを願えるのならば、お袋の十周年記念コンサートの成功を。オレ達のために、バイオリニストのデビューを遅らせて側にいてくれたお袋が、安心して心ゆくまで音を奏でられるようにと。
 満天の星空を駆け抜ける流れ星に想いを馳せると、手の中のドルイドベルがシャラランと歌った。




元々、ギイサイドで書いていた一年遅れのクリスマス話だったりします;
なかなか進まなかったので、いっそのこと一颯語りにしちゃえってことで。
はい、もう未来番外編は、ギイタクが出ていなくてもいいやと開き直っております。
今回は、兄妹の力関係が、おわかりになるかも(笑)
弟でもあり兄でもある一颯は、結構お調子者なのです。
(2013.12.24)

【妄想BGM】
⇒星に願いを(動画サイト)
⇒ドルイドベルの音(動画サイト)
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