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●  愛しのトラブルメーカー(2010.12)  ●

Secret内Life設定です(Life10.2)


 退院してきた託生が、今までと変わることなく残り少ない祠堂の生活を送れるように。そして、これから現れるであろう、最後の悪あがきをする不埒な奴らから守るために。
 今の位置では動けないと判断したオレは、一年近く続けてきた友人のふりをやめる事に決めた。
 託生が卒業後日本に残るのであれば、こういう選択はできなかっただろう。最後まで大勢の友人の中の一人という位置付けにしなければ、オレが帰国した後、どこからでも託生に接触を試みようとする人間が出てくる事が予想できるからだ。
 しかし、これからはずっとオレの傍にいる。傍にいてオレが守れる。
 ならば、葉山託生のバックにはオレがいると知られても、大した事はない。それどころか下手に手出しすれば容赦はしないと、反対に圧力をかけることができる。
 ……と言うご大層な理由があるし、実際本気でそう思ってはいるが、本音は単純明快、託生の傍にいたいからだ。
 これを口実と人は言う。


 託生の習慣から、7時15分、遅くとも20分頃に朝食を取りに学食へ向かうと予想をつけたオレは、時間を見計らってゼロ番を出た。
 託生を朝食に誘うつもりでもあったが、三洲にも用があったのだ。
 ルームメイトの三洲の存在は、託生のフォローをありがたいと思いつつも、我が婚約者と同室という事を腹立たしく思う反比例な感情を持っていた。しかし卒業まで世話になるだろう事は十分理解しているので、もうすでに託生から話を聞いているとは思うが、改めて話をし三洲に協力を要請したいと思っていた。
 オレに気付いた一年坊主が廊下に立ち止まって挨拶してくるのを軽く頷いてやり過ごし、階段を下りて廊下突き当りの270号室のドアをノックする。
 ややあって支度を整えた三洲が、顔を覗かせた。
「なんだ、崎、お迎えか」
「まぁな。託生は?」
「今、洗面所だ」
 クイッっと洗面所のドアをあごでしゃくりそのまま机に向かった三洲の態度を、「勝手に中で待っていろ」と解釈したオレは、後ろ手にドアを閉め託生のベッドに座った。
「アメリカで治療を受けるらしいな」
「あぁ、託生に聞いたのか」
「昨日な。治療を受ける気になったのならその方がいい。日本では、まだこのような事例を受け入れられない人間が多いからな。好奇の目に晒されるよりはいいだろう」
 三洲の言葉に、異論はなかった。
 それは、オレも考えていた事だ。
 託生がどの選択をしようともサポートは惜しまないつもりだったが、他人の目を閉ざすような事はさすがにできない。野次馬根性を全開にした人間の言動ほど危険なものはなく、噂には疎いくせに他人の心の動きには敏感な託生が、どれだけ傷付くか想像に難くない。
「卒業までは急激に変化しても困るから、最低限の薬物治療だけらしいんだが、三洲、託生のフォローを頼む」
「崎に言われなくても、同室者として当たり前の事をするだけだ。……治療は最低限なのか?」
「そう託生には聞いているが」
 三洲は少し考え込むように頭を捻り「ふうん」と呟いた。
 このときオレは、三洲が治療そのものに違和感を感じているものだと思ったのだが、後になってそれが全くの勘違いだったと気付く事になる。
「これからは、卒業まで毎日迎えにくる」
「……過保護だな」
 鼻で笑いつつも、同室者として迷惑だとの反論もなく、
「鍵は開いているから、勝手に入ればいい」
 ついでに部屋の出入りを許可し、俺は先に行くから後はよろしくと、三洲は荷物を持って部屋を出て行った。
 と同時に洗面所のドアが開き、まだ眠いのか託生がボーっとした表情で出てくる。
 そして、
「わっ、ギイ?!」
 自分のベッドに座っているオレに気付き、飛び上がらんくらい驚いた。
 化け物に会ったような、あまりの驚きようにムッとする。
「……なんだよ、そんなに驚く事ないじゃないか」
「だって、ギイがいるとは思わなかったんだもん」
 オロオロと視線を彷徨わせしどろもどろに言い訳をする託生にほんの少し浮上し、気を取り直してドアの前に立ち尽くしたままの託生を抱き寄せた。
「おはよう」
 顔を近づけると、託生は当たり前のように瞳を閉じる。
 朝の挨拶のキス。
 理性が振り切れないギリギリのラインまで託生の口唇を堪能しゆっくりと離すと、託生は小さな溜息を吐きオレの肩に頭を預けた。腕の中の温もりに、自然微笑みが漏れる。
「でも、ギイ。ここにいていいのかい?」
 腕の中で大人しく抱かれていた託生が、ふと気付いたように心配そうに見上げた。
 友人のふりを止める事を、まだ言っていないからな。仮に言ったとしても、託生のことだ。また変にギクシャクして、不自然な態度になるのはわかっている。
 なので。
「倒れている託生を発見して病院に運んだのは誰だ?」
「ギイ」
 わかりきった事を何を今更と、キョトンと見返す託生に、
「自分が病院に運んだ人間を心配するのは当たり前だろ?戻ってきた託生を朝飯に誘ったとしても、誰だって不思議に思わないさ」
 ウインクを付けてオレがここにいる口実を言うと、
「そうか。そうだよね」
 託生は素直に納得した。
 ふりを止めるだけじゃないけどな。ここぞとばかりに近づく奴らの牽制だと託生に言ったって、どうせ理解されないし。
「三洲君は?」
 こら、オレの腕の中で、他の男の名前を言うんじゃない。
「もういないよ。先に行くって」
「ふうん、ギイ、着替えるから少し待っててくれる?」
 託生はオレの腕から抜け出しタンスの扉を開けた。そのままベッドに座って眺めていると、制服一式を取り出しパジャマのボタンを外し始める。
 以前と変わらぬ見慣れた一連の動作に、ふと嫌な予感が頭を過ぎった。
「託生」
「なに?」
「まさか、お前、三洲の前で着替えてないよな?」
「えぇと、昨夜はお風呂に入った後、洗面所で着替えたから、三洲君の前では着替えてないよ?」
「三洲の前では着替えるなよ」
「どうして?」
 断定的な命令口調に、託生は心底不思議そうな顔をしてタンスの陰から顔を出した。
 本当に、わかってないな、こいつ。
「あのなぁ。三洲は男だろうが」
「あっ、そうか。そうだよね。うん、着替えちゃダメだよね」
 オレの指摘で、やっと気付いた己の失念を誤魔化すように「えへへ」と笑いながら、パジャマの上着を脱いでベッドに放りワイシャツを手に取った。
 だからと言って、オレの前で普通に着替えるのも問題だと思うがな……。
 いや、オレ達二人の間では今更と言えば今更なんだ。婚約者だし。今まで数え切れないほど、肌を重ねているし。………かろうじてタンスに隠れているし。
 そうさ。問題なのは、オレの邪な性欲だけだよ。
 こっそり自覚して、どっぷり自己嫌悪に陥る。
 しかし、タンスの陰からチラリと覗く白い背中やほっそりとした腕が、オレの心臓の鼓動を跳ね上げ、知らずゴクリと喉が鳴った。自分の心の平穏のためにも見てはいけないとわかってはいるのだが、目が釘付けになって逸らす事ができない。そんなオレの邪な目に気付かず、託生はパジャマのズボンを脱ぎ、上着と同じようにベッドに放った。
 扉の下から白いすべらかな生足が覗き、思わず口を覆う。
 やばっ、鼻血出そう……。
 チェリーじゃあるまいし今更こんなことで反応するなんて、男としてどうかとは思うけれども……いや、男として健全なんだな、オレ。
 半年だ、半年。我慢しろ、崎義一。
 コホンとわざとらしく咳払いをして、別の事に意識を持っていくようにベッドサイドを見ると、時計が7時30分を指しているのに気がついた。
「寝坊でもしたのか?」
「ううん、どうして?」
「いつもより支度が遅いから」
「あぁ。ほら、基礎体温って同じ時間に測るだろ?だから病院と同じ7時にアラーム合わせてて」
「検温5分に洗面10分だろ?それにしては、遅いじゃないか」
 託生が担当医に言われて基礎体温というのを測っているのは、もちろんオレも知っている。というか、担当医に言われた後、看護師の神崎さんに相談し買ってきたのはオレだ。
 面倒臭がりの託生に合わせて、目覚ましアラーム付きで、測ればそのままグラフを表示してくれる高機能。しかも、パソコンに繋げれば、即プリントアウトできるらしい。
 だって、託生だぞ?毎日グラフを書けというのは、絶対無理だ。途中で投げ出すに決まっている。
 検温そのものでさえ面倒くさがって、寝ぼけ眼で口に体温計を咥えたまま、また寝そうになっていたのだから。
「うん、急に目盛りが上がったから驚いちゃって」
「熱があるのか?!」
 どこもかしこも雪だらけの山奥祠堂。体調が万全とは言いがたい託生の体には、かなり厳しい環境に違いない。
「熱はないよ。大丈夫。三洲君がね、『高温期になっただけだから心配ない』って」
 慌てて腰を浮かせたオレにクスクスと笑い説明を付け足したのだが、聞きなれない言葉に、ぽかんとする。
「………はい?」
 こうおんき?
「うーんとね、月経が始まった日から平均14日間が低温期でその後の14日間が高温期なんだって。それで、低温期から高温期に移る境目辺りが排卵日で、ぼくの場合、数日ずれてはいるけれど、たぶん昨日か今日あたりが排卵日なんだろうって」
「…………それ、三洲に聞いたのか?」
「そうだよ?」
「託生………」
 あっけらかんと応える託生に、眩暈を感じた。
 普通、そういうものは夫婦間や恋人間ならいざ知らず、他人には、特に他の男には隠すものじゃないのか?
 しかも、排卵日なんてものは!
「排卵痛や出血がある人もいるから、体調がおかしいと思ったらすぐに寮に戻れよって。三洲君、お医者さんを目指しているだけあって、よく知ってるよね」
 そう言えば、担当医に聞いたような気がする。基礎体温を測るのは、ホルモンバランスの状態を知るためで、それによってある程度の子宮や卵巣の働きがわかり、今後の治療にも役立つと。
 ただし、当分はグラフに変化はないかもしれないとも言われていた。
 なのに、高温に上がったということは……。
 さっき三洲が不思議そうな顔をしたのは、この事だったのか。
 積極的な治療をしなくても、託生のホルモンバランスは女性としてかなり正常に動いている事についてだったのか。
「毎朝測るの面倒だと思ってたけど、こういうことがわかるんだねぇ」
 すごいねぇ。
 のほほんと続ける託生に、思わずベッドに懐きたくなった。
 女だとわかったからと言って考え方がすぐ変わるわけではないし、オレもそんな事は求めてはいない。現に、託生はオレが指摘するまで、三洲の前で着替える事に関してなんとも思っていなかった。
 だからと言って、自分の体を受け入れていないわけでもない。
 男であったならば一生縁のない基礎体温なんてものを「面倒」の一言で終わらせられるのも、ある意味自分の体を受け入れている証拠だ。
 そこが、託生の長所であり、オレがヤキモキする原因の一つだったりする。
 託生は、他人の好意も悪意も、自分に降りかかった出来事も、全て真っ直ぐ受け入れる。その事で自分が傷付くようなことになってもだ。
 だからこそ、細心の注意を払い、託生を傷付けるものから遠ざけてはいるのだが。
 体の変化を託生なりに受け止めて前に進もうとしている事は、賞賛に値するもので、これ以上何も求めてはいけないと思っている。
 それでも、託生に女性としての羞恥心を求めるのは、いけない事なのだろうか……。
 いや、もしかしたら、医者を目指している三洲が相手だから、素直に聞いてみただけなのかもしれない。そうだ、そうに違いない。オレの心の平安のためにも、そう思いたい。
 オレがグルグル考えている間に託生はネクタイを締め、「セーターセーター」と引き出しを開けセーターを頭からかぶり、制服の上着を羽織った。
「ごめんね、ギイ。お待たせ」
 にっこりと笑ってタンスの扉を閉め、オレに向き直る。
「託生、次病院に行くのはいつだ?」
「えっと10日後」
「オレも行くから」
「え?」
「オレも、病院に付いていくから」
「平日だよ?」
「いい」
 たぶんカウンセリングの方もあるだろうから、その間に担当医に女性の体の事を詳しく教えてもらおう。
 体の事はオレに聞く。
 そう託生に植えつけないと、これから先とんでもない事になりそうな予感がする。
「廊下に出ろよ、換気するぞ」
「うん」
 託生には、変わってほしくない。このままでいてほしい。
 それを守るには、オレが努力するしかないわけで。
 婚約者を守るためだ。とことん、やってやる!



Life10.2です(おいっ)
短いのに結構時間がかかってしまいまいた。というか、話の内容、たぶん15分そこらしかないと思います;
なんだか、ギイの日記を書いているような気になってきました。
えー、今回もタイトル悩みまして、たまたまテレビの芸能ニュースで嵐の「Troublemaker」が流れてまして、「Are you ready?かんぺきなんてな〜い sweet sweet 最大級のsoul」と口ずさんでたら、あーー、これだ!となりました。
(2010.12.21)
【妄想BGM】
⇒Troublemaker(動画サイト)
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