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●  Love & Peace-8-完(2013.8)  ●

 その夜、実行犯イコール単独犯だと判明しオレ達の軟禁は解除され、翌日親父の入院先に足を運んだ。
 少し顔色は悪いがベッドに起き上がった親父は、笑顔でオレ達を出迎えてくれた。その横には、当たり前のようにお袋が笑っている。
 咲未に引き止められ、ペントハウスに泊まったハリーが、
「そのまま、服を貰って帰るよ」
 と一緒に付いてきたが、ハリーの服は当の昔にクリーニング行き。
 その代わりにと、礼の言葉と共に親父がハリーに一式揃えた紙袋を差し出した。
「ここここんなつもりじゃ………!」
「いや、君のおかげで、妻もここに来ることができた。借りた服は、後日一颯に届けさせるから、今日のところはこれで目を瞑ってもらえないか?」
 なんて下手に言葉をかけているが、これはあれだ。
 他の男の服にお袋が袖を通し、その服をまたそのまま返すなんてこと、親父が許すわけがない。お袋の匂いがついているとかなんとか言いそうだし。
 本当は一度でもお袋が袖を通した男の服なんて、そのまま焼いて捨てたいのだろうが、何しろあの服はハリーの物。勝手に捨てるなんてもってのほか。
 だから、早々にお袋から剥ぎ取って、クリーニングに放り込んだのだろう。
 お袋の変装を見て、ハリーの好みを考慮しつつ似合う服を指定して買いに行かせたそうだが、実際、あのコートよりもハリーには似合っている。
 本当は野暮ったいと思っていたんだよなぁ。今回は、それがよかったんだけど。目立たなくて。
 『暖かければ、それでいいんだよ!』と言っていたハリーもまんざらではないようで、
「お前の父ちゃんのセンスって、抜群だな!」
 と、病院のエレベーターの横についている鏡の前で喜んでいた。


 肩を掠っただけと親父は言っていたけれど、実際は肩を貫通し輸血一歩手前なほどの重傷で、島岡さんは、やはりなんとかしてお袋一人だけでも病院に連れてくるように指示を出していた。
 しかし、親父の肩に当たった銃弾は、背後についていた島岡さんの腕を掠めて携帯を弾き飛ばし音信不通とさせ、島岡さん自身も安静を余儀なくされたために、他の秘書にベッドの上から指示するしかなかったようだ。しかし、それをSPに伝えた秘書はそのあと確認をせず、後処理に向かった。
 当たり前だが、親父と島岡さんの病室は別。
 島岡さん及び他の秘書は、もうすでにお袋は親父の側にいるものだと思い込み、親父の方にはSP側から「安全確保のためにペントハウスで待機」との報告がなされ、親父も状況を考えてそれを了承したところから、双方の行き違いが起こった。
 そんなところに、お袋があんな格好でSPも付けずに一人で現れ、ペントハウスの状況を知らされたものだから阿鼻叫喚の図のできあがり。
 慌てふためいて本宅と絵利子さんへの連絡と謝罪をして落雷を受けたり、激怒した島岡さんの血圧が上がったりで、病院では修羅場が展開されたそうだ。
 そんな中、ぐっすり寝ていたらしいお袋は大物だと思う。でもって、そんなお袋の寝顔を何時間も飽きずに見ていたらしい親父は、究極のお袋バカだ。
 パニック状態だったとは言え、ビジネスの基本「報・連・相」が徹底されなかったのは、重大かつ由々しき事態だ。
 島岡さんは退院と同時に、秘書の泊り込み特別研修を目論んでいるらしい。


 送迎を断り、サブウェイで帰ると言うハリーを駅まで見送って病院に戻る道すがら、ふとあの男を思い出した。
 ペントハウスの前にいなかったよな。単独犯だとわかったから、SPも元の数に戻していたし、あいつも警備会社に戻ったのかもしれない。
 しかし、色々と落ち着きを取り戻せば、ふつふつと怒りがよみがえってくる。
「あー、殴り損ねた」
「あの男か?」
「うん、そう。結局、あいつはオレ達を閉じ込めて、なにがしたかったんだ?」
 どう考えても、オレ達の命を守るためという公明正大な理由じゃないような気がするんだ。
「金銭的にも世間的にも勝てない俺達を、ここぞとばかりに仕切ってやろうという妬み根性と、見回りと称して崎家の自宅を見たかったというミーハー根性と、単純に寒いから暖かいところにいたかったんだろうだってさ」
 スラスラと答える兄貴に、ポカンと口を開けた。
「はぁ?」
「俺のSPに聞いた」
 あぁ、あのあとSPが謝りにきていたな。
 上司に命令されたこととは言え、オレ達を軟禁して申し訳ない、と。でも、本来の指示を知らなかったのだから、それは仕方がない。
 しかし、そんなくだらない理由で病院に行かせなかったのか?あの悪夢のような一夜は、一生忘れられそうにない。
 マジに、警備会社まで行って殴ってやろうか。このままじゃ気がおさまらないぞ。
「………兄さん、やっぱりあいつ殴ってきていいかな?」
「別にかまわないが、どこにいるのか探すのが面倒だぞ」
 その物言いに足が止まった。軽い口調なれど、ものすごく恐ろしいことが含まれているような気がする。人事ながら背中を冷たい汗が流れていくようだ。
 昨日の今日で行方不明って………。
 あの男を、どこぞとやらにやったのは、
「………父さん?それとも、兄さん?」
「父さん」
「………オレ、殴らなくていいや、うん」
 地獄まで探しに行く気はない。あいつ、無事に生きていたら奇跡だな。


 あれから一週間。
 数日で退院してきたその裏で、親父が医者を脅したとか脅さなかったとか聞こえたような気がするけど、まぁ、とにかく、どうせベッドで横になっているならお袋のいるペントハウスに帰ると年甲斐もなく我侭をぶっこいて、現在親父はペントハウスにて療養中。
 そして。
「ギイ、あーん」
「うん、美味い」
 オレ達の前で、甘い甘い空気を製造しながら、お袋に食べさせてもらっている親父にげんなりする。
 絶対、以前よりラブラブ度がアップしているだろ?
「ギイ、こっちは?」
「うん、貰う」
 利き手を包帯で固めているけれど、親父って両利きだったよな?てか、突き刺すだけのフォークなら、全然関係ないよな?
 療養中ではあるけれど、親父の仕事柄完全に休むことは出来なくて、自室でそれなりに仕事をこなしている。ようするに普通にノートPCを扱っているわけだ。
 そういうことに気付かないお袋が、らしくて笑ってしまうのだけど。
 兄貴が乾いた笑いを浮かべ、咲未がうっとりと二人を眺め、使用人達が見守るように微笑んで。
 こうやって二人が相変わらずいちゃいちゃしている様子を見て、平和な我が家が戻ってきたと実感するのは、なにか違うような気がするけれど。
 Love & Peace。
 愛溢れる空間が平和の証。これがペントハウスの日常。そしてオレ達の住む家。




お読みくださり、ありがとうございました。
シリアスのつもりだったのに、ハリーが巻き込まれた辺りから、なぜかドタバタコメディになったような気がしないでもないですが。
名前はつけていなかったけれど、以前小話ついったーに出演した彼でございます。
Fグループ総帥を「父ちゃん」と言えるのは彼くらいだと思うので、準レギュラーになれば楽しいだろうなと。
ギイの誕生日前日に妄想が落ちてきて、かなりあやふやなプロットのままで誕生日に合わせての出発となりましたが、無事書き上げられホッとしてます。
またもや連載中に色々とございましたが、これはこれと割り切って、これからもマイペースに書いていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。
(2014.8.2)
【妄想BGM】
⇒HURRY UP(動画サイト)
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