秘密の小部屋

2011.12.31 (1/1)
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2011.12.31 23:30〜2011.12.31 23:50


[大晦日]
午前0時の合図と共にケータイからメールを送った。新年明けましておめでとうございます。受験応援してます!の、デコメだ。
「……たかがメールを送るだけでなんでこんなにドキドキすんだろ」
答えは決まってる。相手がアラタさんだからだ。
せっかくなんとなく両想いっぽくなったのに、だからといって三洲の性格が変わるわけではないので、――ホントに自分は両想いになったのか? と自問自答したくなるような、つまりは相変わらずの日々だった。
しかも三洲は受験の関係で、二学期の終業式の後、冬休みが終わっても学校へは戻らない。
受験勉強の邪魔はできないから、冬休み、ホントは一度で良いから会いたかったけれど、そんな話はしなかった。
もちろん、向こうから「一度くらい会おうか?」なんてドリームなお誘いも当然なかった。
顔が見たい。それが無理なら声を聞きたい。それも無理なら、せめてメールを送りたい。返信はなくてもいいから。
−−の、真行寺の、今の、ありったけの真行寺なりの愛情を込めてのデコメである。
ケータイを見る。
取り敢えず、メールを送信しましたのメッセージ以降、送信できませんでした、にはなっていないので、おそらくあれは、ちゃんとアラタさんのケータイに届いたのであろう。
――見てくれるかどうかは別として。
「はあああ、これで安心して寝れそうだあ」
早寝早起きの自分が今夜はこれのために頑張って午前0時まで起きていた。
実家の、自分の部屋の電気を消して、ベッドに潜る。
アラタさんは、今夜も夜中まで勉強しているんだろうか。それとも、家族団欒なのだろうか。
しんと静かな真行寺の家。仕事をしている母はあろうことか大晦日を前に急に出張が決まってしまい、年越し蕎麦と新年のおせちの支度をどうにか済ませ、ひとり息子に何度もごめんねを繰り返しながら仕事に出掛けて行った。
「でも別に、寂しくなんかないし……」 
もう高校二年生だし、春には三年生だし、別に、年末にひとりきりでも寂しくなんかないのだ。
掛け布団を頭まで被って、暗闇にぎゅっと目をつぶった時だった。
いきなりケータイが元気に着信した。
「おわわっ! びっくりしたっ!」 
慌てて起きて、ケータイの明るい画面を見る。――え?
「もしもし」 
耳に届くあからさまに不機嫌そうな声。
「――あれ?」
「あれ? じゃないだろ、お前なにやってんだよ新年早々」
「えと? あれ? アラタさん?」
「そうだよ。――っと、ちょっと静かにしてくださいって」 
三洲の背後からやけに賑やかな声が聞こえている。
「悪い、大人たちが宴会の真っ最中でさ。ウルサイから−−」
「もっしもーし! あけおめ〜、真行寺くーん!」
「叔母さんっ! ちょ、やめてくださいよ」
「あ、俺も真行寺くんと話したいです新くん!」
「学くん、それなら新の父親である俺の方が先にだね」
「待って! パパより先にママに話す権利があると思うの!」
どたばた。
「わかりました! 順番にケータイ回しますからちょっと待っててくださいっ!」 
三洲は言い、
「ったく、お前が0時ぴったりにメールを送ってよこすからこーゆーことになったんだからな」
こっそり続けた。
「え、メール送ったらまずかったすか俺?」
「叔母さんたちが真行寺のことだから絶対0時のタイミングであけおめメール送って来るに違いないってにやにやしてたところにホントにお前からメールが着信したから、ほらやっぱりねってことになったんだよ」
「すんません」
……もしかして、迷惑かけちゃった?
「ということで、お前責任とって、きっちりうちのオトナたちにつきあえよ」
「は、はい!」
「あ……とその前に、あけましておめでとう真行寺」
うわ……。 
「お、おめでとございますっ、アラタさんっ!」
「適当な所で切り上げて良いからな。俺はもう寝るから、じゃあな」
「はい。おやすみなさいですっ!」
「あけましておめでとう、真行寺くん!」
「あっ、アラタさんのお母さんっすね! あけましておめでとうございますっ!」
「ごめんなさいね、こんな夜中に電話に付き合わせて」
「え、や、そんなことないっす」
ちいさなケータイ電話の向こうからとても大きな暖かさが今、真行寺を包んでいる。
もう高校生だし、大晦日にひとりきりでもぜんぜん寂しくなんかないけれど、そう思おうとしてたけど、
「でも新年早々に真行寺くんと話せるなんて、すごく嬉しいわ」
「俺も、話せて、嬉しいっす!」
迎春って、春を迎えると書くけれど、本当に春が訪れたようだった。アラタさんのおかげで。
「今年もよろしくね、真行寺くん」
「はい! こちらこそ、よろしくですっ!」
(おしまい)
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