秘密の小部屋

2012.08.17 (1/1)
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2012.08.17 20:20〜2012.08.17 20:43


秋花火

網代駅を出て来宮駅に向かう途中で、どん!と腹の底に響くような音がした。
「花火だ!」
真行寺が素早く反応して電車の窓から外を覗く。
「もしかして熱海の海上花火っすかね!? 確か、秋にもやるんすよね!?」
「……さあ?」
訊かれたところで調べたこともない三洲には、
「どうだかな」
祠堂学院名物の十月の秋休み。生徒総会で決定したので来年からは少し形が変わるかもしれないが、本年度は例年のままおよそ1週間の連休である。
母親との約束どおり、三洲は伊豆の施設に入所している祖母の元へ顔を見せに訪ね(真行寺が同行しているのはもののついでと言うよりも、耳聡く聞き付けた真行寺にしつこく食い下がられた結果だ)、現在、電車で帰る途中である。
「そんなに花火が見たいなら途中下車すればいいだろ」
三洲が言うと、
「やりっ! じゃアラタさん熱海で下りますか? あ、来宮駅の方がいいのかなっ!」
うきうきと算段を始める真行寺に、
「真行寺ひとりでな。俺は家に帰って勉強をする」
志望校を変更したところで受験生には変わりない。
「えええーっ!」
派手に驚くが、
「……えええー」
すぐにそれはささやかなブーイングに変化した。
蛇行する線路が岩陰から少し海寄りに出た時に、ガラス窓が一面、鮮やかに華やかに彩られた。
間髪入れずに、どんっ!と鳴る。
「わわっ」
真行寺が窓にへばりつく。
「すげっ! すげーきれい!」
ところどころ木々やトンネルに景色が遮断されつつも、
「ばーばのすすめに乗っかって夕飯いただいて来て良かったすね。夕方に帰ってたら花火、見られなかったすもんね」
上機嫌の真行寺は、額をガラス窓に付けたまま、
「これもひとつの両手に花かなあ」
満面笑顔で三洲に振り返った。
キレイな花火とキレイなアラタさん。セリフにすると間違いなくど突かれるので、心の中だけでそっと続ける。
三洲はその真行寺の手の駅弁を冷ややかに見下ろすと、
「夕飯ごちそうになったその直後に駅弁買って食べてる真行寺には、その弁当が花ってことか」
違う方向に納得した。
訂正したいけど、――やめておく。
「へへへー」
適当に笑って、窓の外を見る。
通りすがりの花火でも、キレイはキレイ。
相変わらず微妙な関係の自分たちでも今、自分は、大好きな人と並んで列車に揺られてる。
「しあわせだなあ……」
最高の秋花火だ。
(おしまい)


蛇足。熱海の海上花火はリアルに20時20分スタートなのです。さすがに本日はやっておりませんが正しくは10月にもやってませんが秋花火は存在します冬花火もあります。海上ナイアガラ(大玉を超連続で打ち上げる)が名物です。凄すぎますね!ということでせっかくなのでの2020スタートでしたv via web
2012.08.17 20:43
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