秘密の小部屋

2012.09.13 (1/1)
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2012.09.13 23:24〜2012.09.13 23:45


<お口直しの・ショートショート・です>

生まれも育ちも容姿も頭脳も性格もどこもかしこもパーフェクトなギイのけっこう痛い(でも多分唯一の)欠点が音痴ということなのだがしかし、
「なあ章三、この曲のタイトル知ってるか?あ〜ああ〜あああ、あ〜あああ〜あああ〜」
昼休み、ぷち弁当会でぼくとギイと章三の三人でいる時にギイが歌って聞かせた。
その、聞くも無残な鼻歌に章三は苦虫を噛み潰したように眉を寄せると、
「わからん」 
吐き捨てるように言って、
「葉山、どうにかしろよ」 
無茶なパスを投げてよこす。
「どうにかって。−−ギイ、もう一回歌って?」 
促すと、ギイがまたあああーと歌う。
あれ?
「それもしかしたら……」 
とぼくがメロディを口ずさむと、
「なんだ、それなら知ってるぞ」
と章三がタイトルを教えてくれた。
章三の得意なジャンルだけれどぼくには縁のないジャンルなので、もちろんぼくはその曲を知らない。タイトルも知らない。
「じゃあさ、これは?」 
ギイが別の曲をまた口ずさむ。
「葉山、通訳」
「うん」 
じーっと聞いて、
「んーとね」 
歌うと、
「それならあれだ」 
章三がタイトルを教えてくれた。
「今のとさっきの、CD持ってるだろ、章三。今度貸してくれよ」
「それはかまわないが」 
言いかけて、ふと章三がぼくを見る。
「葉山、いつの間にあんな特殊技能を身に付けたんだ?」
「特殊技能?」
「ギイのあのスサマジイ歌をだな、よく理解できるよな」
「うん? うん」 
いや、理解できてるかどうかは定かではないが、
「聞いてたらなんとなくわかったから」
「よく聞け章三、これが愛の力だ」 
嬉々としてギイが言う。
「あーはいはい」 
章三は仕方なしに頷いて、
「葉山、ギイを付け上がらせるのもほどほどにな」 
ぼくにまたしても無理難題を押し付けた。――やれやれ。
できてもできなくても立場が悪くなるぼくは、もしかしたらとても気の毒なのかもしれない。すると、
「なあなあ託生、この曲わかる?」 
ギイが耳元でまたしても目茶苦茶なメロディを口ずさんだ。
「−−あ」 
ぼくはうっかり赤面する。
「なんだよ?」 
訝しげに章三がぼくを見る。
「ううん、なんでもない」
エルガーの『愛のあいさつ』。
ぼくたちが九鬼島で過ごした時に聴いた曲。その時に同席していたにもかかわらず章三にはやはりわからなかったらしく、
「――怪しい。なんだよお前ら」 
ぼくたちを睨むのだが、
「まあまあ」 
ギイは笑って、
「オレ、今、すっげーしあわせ」 
とぼくを見た。
(おしまい)
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