会話
自販機のお兄さん、再訪(2013.6) (1/1)
目次
トラックを降りた俺の目前には、5日前と同じ光景が映っていた。
私立祠堂学院高等学校。言うまでもなく、全寮制の男子校。
できることならボイコットしたかった………。
しかし、金とあのイケメン君の殺気を天秤にかけると、金欠の俺としては金を取らざるを得なかったのだ。
それに「また、5日後」と言われたけれど、必ず会うとは限らないだろうし。
けれども、どうか、神様お願いです!イケメン君に会いませんように!
「今日は、俺が奥地に行くから、お前はこちらの自販機の補充やってくれ。覚えてもらわないといけないしな」
「こちらって?」
「この職員宿舎のロビーと隣の食堂、その向こうの寮の談話室だ」
「はい」
「これが各建物の取り扱いメーカーと、今日から新商品が入るからな。それの指示書」
「………すごい数ですね」
「そりゃ、祠堂に在籍している人間が住んでる場所だからな。台車で往復しながらだから、持って行く商品間違えるなよ」
「わかりました」
ということで。
「お邪魔しまーす」
まずは目の前にある職員宿舎に入り、ロビーに並んでいる自販機の前まで台車を引いた。静かな職員宿舎に、ガコンガコン耳障りな音が響く。
シーンと静まり返る建物内に居心地の悪さを感じたものの、壁にかかってある時計を見て気がついた。
あぁ、先生方はまだ仕事中で職員室にでもいるだろうから、誰もいないんだな。
ある意味、住み込みの仕事なのだし、先生達も大変だ。
職員宿舎の自販機の補充は、ほどなくして終わり、次は食堂。
一度トラックに戻り積荷を取り替えて、食堂のドアを開けたとたん、もわ〜っと美味そうな匂いが漂い、腹がぐーっとなる。
「いいなぁ。おばちゃん達の手料理なんだ」
愛想のないコンビニ弁当愛用者としては、うらやましい限りだ。
まだ夕食の時間ではないらしく閑散としているが、売店辺りにちらほらと生徒達が見える。
「売店もでかいな。ホットスナックのないコンビニ並じゃないか」
全員が寮で生活しているのだから、あれやこれやの生活用品も揃えておかないといけないのだろう。
片隅にある自販機コーナーに向かい、まずは新商品のサンプルをセットし、これまたガコンガコンと大きな音を立てながら、補充を開始する。
新商品の確認をしているのか、興味津々に覗き込みながら生徒達が通り過ぎるのだが、
「普通の高校生だよな………」
5日前に会った数人の生徒を思い出し、あまりにも違う雰囲気に首を捻った。
先輩に色々な世界があると言われたけれど、今、ここにいる生徒達は、俺が街中で見るような普通の高校生男子だ。
祠堂の中で、この子達が普通なのか、それとも先日の子達が普通なのか。
ま、考えても仕方がないことだし、俺には関係がない。
あのイケメン君に会わず、無事に補充を完了することが、今の俺の任務だ!
「あー、腰が痛い」
隣接した建物を移動するだけだから迷子にはならないけど、種類が多すぎる。
「最後は寮か」
男臭い匂いが鼻を突くだろうと、意を決してドアを開けたのだが、想像を裏切りそこは綺麗に整頓され、掃除が行き届いている様子に驚いた。
「へぇ、男子寮って言うから、もっと乱雑かと思っていたのに」
しかし、先ほどの職員宿舎と違い、あちらこちらから人の気配がする。
スリッパに履き替え談話室の中に入ると、数人の生徒がソファに座り寛いでいた。
学生はいいよなぁ。
額に汗をかきながら肉体労働している自分と比べても仕方はないけれど。
テレビと反対側の壁に並んでいる自販機の前に行き、鍵をあけて補充を開始して数分後。
「あ………」
「え?」
声のする方向に視線を移すと、先日林の奥に逃げていった笑顔の可愛い子が入り口の前に立っていた。
俺にイケメン君とのキスシーンを見られたのを思い出したのか、一瞬視線がうろうろと泳ぎ、そして後ろめたいような表情をして、ピョコンと会釈をする。
あ、もしかして、イケメン君とこの子の関係のような不純同性行為は禁止とか?古い男子校だし、そういう校則がありそうだ。
別に口外するつもりもないので会釈を返し、しかし、ついドアの向こうをうかがってしまう。
まさか、その辺りにイケメン君が隠れていることないよな?
笑顔の可愛い子は、ホッとしたように表情を緩め、自販機の前を通って奥に歩いて行き様、
「あれ?」
補充中の自販機を見て首を傾げた。
「なにか?」
「あの……この新商品って、AメーカーじゃなくてBメーカーですよね?」
「へ?」
入れ替えたサンプルに書かれている名前と指示書を交互に見比べ、顔を青ざめる。
「やべっ!」
似たような名前だから、間違えてしまった。
「あ……ありがとう。あとで、どやされるところだったよ」
「いいえ。これだけあると、間違えちゃいますよね」
フォローしながら、にっこり笑う彼は、やっぱり笑顔の似合う可愛い子だ。
「でも、よくわかったね。これ、発売されてから、それほど経ってないのに」
「日曜日に下山したときに、ギ……友人が飲んでたんで覚えていただけです」
「へぇ。その友人って、新しいもの好きなんだ?」
「どうなんでしょう。ただ、はまったら、そればかり好む傾向はあるみたいですが」
と言いつつ、なぜか彼が頬を染めた。
先日の鬼夜叉とは比べ物にならない可愛らしさに、頬が緩みそうになったそのとき、背中の真ん中にゾクリと悪寒が走る………。
もしかして、これは、やっぱり、あれなのだろうか………。
脳内にジョーズのテーマ曲が流れてきたような気がする。(←ターミネーターのテーマでも可)
ちゃーらん。ちゃーらん。ちゃーらんちゃーらんちゃーらん。
ひたひたと迫り来る恐怖に、全身が鳥肌で覆われ、毛穴という毛穴から冷や汗が吹きだしてきたようだ。
そして。
「託生」
出たーーーーーっ!!
お化けや幽霊の方が、まだマシだろ?!
この広い広い祠堂の敷地内で、こうピンポイントで表れるなんて、このイケメン君の勘の良さは動物並か?!
「あ、ギイ」
「お前、なにしてんだよ。仕事の邪魔だろ」
彼を諌めているようで、そうではないのは視線が物語っている。
目の奥が「今、なにを喋ってたんだ?」と、青白い炎を燃やし、俺を射抜いていた。
「そうだった。お仕事の邪魔しちゃった。すみません」
「いやいやいや、教えてもらって助かったよ!」
イケメン君の指摘にしゅんとして頭を下げる彼に、慌てて顔の前で手を振ると、
「………なにを?」
とたん、イケメン君が「言わないと、コロスぞ?」と視線で投げかける。
俺より年下なのに、なんなんだよ、この威圧感は?
「し………新商品のサンプルを間違えて入れていたのを、教えてもらったんだ」
「サンプル?」
チラリと自販機を見たイケメン君に、
「ギイが美味しいって言ってたジュースだよね?」
と、彼が指を指す。
小首を傾げて確認するその角度が、その笑顔が、その言葉が、イケメン君の心臓をぶち抜いたらしい。
一瞬で殺気は消え、とろけるような笑顔を見せて、
「あぁ、よく覚えていたな」
さりげなーく肩を抱いた。
えっと、君達。部外者の俺が突っ込むのもなんだけど、ここには君達以外の生徒もいるんだけど。
公認だったら大きなお世話なのだろうが、なんとなく隠さないといけないような気になり、二人が影になるように立ち位置を変えた。
そんな俺の気遣いに気付かず、イケメン君が彼の髪に指を絡ませ、引き寄せようとした瞬間。
「うん、音符の模様だから」
にっこり、きっぱり、断言した台詞に、空気が固まった。
「「は………?」」
イケメン君と二人でサンプルを覗き込むと、色は薄いが、確かに曲線を描いた五線紙の上に小さな音符が跳んだデザインの缶だ。
言われるまで気付かなかったほどの、さりげない音符模様。
ていうか、覚えていたのは、恋人のイケメン君が飲んでたからじゃなくて、そんな理由?
そこは、恋人の君が飲んでいたからとかなんとか、言ってあげるのが筋なのでは?
「お前、音符で覚えてたのか?」
ほら。当事者のイケメン君は、ショックを隠し切れず、声が震えてるじゃないか。
「そうだよ。すごいよね。これきちんと曲になってるんだよ?」
「きょく………」
「うん。CM曲なのかな?」
「………かもな」
がっくりと肩を落としたイケメン君の気持ちが、痛いほどわかる。
もしかしなくてもこの子、超ド級の天然?
周りを漂う重苦しい空気を物ともせず、しかし、俺の手を止めていることにハッと気付き、
「あ、ものっすごく邪魔しちゃってますよね?!すみません!」
と、彼が頭を下げ、
「いやいや、こちらこそ、ありがとう」
慌ててお礼を返す目の前には、呆然としたままのイケメン君。
男同士とか、そういうのは、俺にはよくわからないけど、自分自身より音符模様に負けたというのは、言葉にならないくらいショックだろう。
しかも、隣にはそんなことに全然気付かない恋人………。
「ギイ?」
「………託生。自販機の商品が冷えるのに時間かかるだろうから、オレの部屋でコーヒー飲んでいけよ」
有無を言わさない口調でガシッと彼の手を取り、大股でドアに向かうイケメン君に、
「え?ちょ……ギイ?」
目を丸くして引きずられながら、俺の顔を見て礼儀正しく会釈し、それに気付いたイケメン君がムッとした表情をしながら、また彼の腕を力任せに引っ張り……なんてことを繰り返しながら、ドアの向こうに二人が消えた。
「………イケメン君も、苦労してるんだなぁ」
ポツリと呟き、中断していた仕事を再開する。
あれだけ、天然ぽややんさんの恋人なら、誰彼かまわずガンを飛ばすのも仕方がないかもしれない。
しかし、俺はそういう気は皆目ないから(殺されたくないし)、リストから外してもらわないと。
次にイケメン君と会ったときに必ず言おうと、胸に誓った。
会話だけじゃないんですけど、「自販機のお兄さん」の続きにあたるので、会話カテゴリーに放り込みました。
何人かの方にご質問いただいた「5日後」は、このような形です(笑)
(2013.6.19)
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