穏やかな時間の中で(高校2年生)
Call Me(2007.7) (1/1)
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授業が始まって第一日目。
託生を副級長に任命し、しかし託生だけ指名するわけにもいかず、全委員を独断で決め、とりあえず本日の級長としての仕事を終えたオレは、託生が待っている(であろう)305号室のドアを開けた。
「託生、ただいま!」
ベッドに腰掛けた託生は、ノックもなしに開けたドアにギョッとしつつ、
「お………かえり………」
と、言葉を返してくれた。
ジーーーーン。
託生に「おかえり」と言ってもらえる幸せを噛み締めながら、ポーカーフェイスを装い荷物を机に置く。
託生を見ると、風呂以外のすべての用事は終わらせたようだ。
「先に風呂使ってもいいぞ」
「え?あ、昨日先に入らせてもらったから、今日は崎君」
「ギ、イ!」
「!!ギ………ギイからどうぞ」
「なあ。そんなに呼びにくいか?」
「そういう………わけでは………」
「片倉んこと利久って呼んでるのに、オレは駄目なのかよ?利久は4文字だけど、ギイはたった2文字だぞ?」
「だって…………」
緊張するんだよ。
俯き加減でボソッと呟く託生に片目を瞑り、「うーん」と天井を見上げた。
まだまだオレと一緒にいるだけで緊張してしまう託生。
二人でいるのが当たり前の関係になってほしいが、名前すら呼んでもらえない今の状況からは、程遠い。
せめて名前だけでも、普通に呼んでもらいたい。
どうしたものかと考えていたオレは、ひらめいた。
「託生、じゃんけん!」
「…………は?」
目の前に出された拳とオレの顔を交互に見ながら、
「じゃんけん……」
掛け声に素直に反応して、慌てて右手を出した。
「ポン!」
よっし、オレの勝ち。
「あっち向いて、託生!」
そのままの勢いで左に向けたオレの人差し指に釣られて、託生が左を向く。
数秒そのまま固まり、呆然とオレに向き直って、
「………なに、今の?」
素朴な疑問をした。
「あっち向いてホイ」
「じゃなくて」
「………の、変形。『ホイ』を名前に変えるんだ。しかも別の奴の名前で首を動かすとNG」
ポカンと呆れた顔をしている託生に、押しが肝心とばかりに、
「よし、もう1回!じゃんけん、ポン!」
と声をかけると、じゃんけんをする必要もないのに、条件反射で右手を出した。
今度は、託生の勝ち。
「あ……あっち向いて………」
「おい、そこで止めるな」
「あ、ごめん」
「リズムのノリが大切なんだぞ」
クソ真面目な顔をして、まるで託生が悪いことをしたように畳み掛ける。
「ほら、続き続き」
「あ………あっちむいて、ギイ」
消極的な声と共に下に向けた。
「残念。託生の負け〜」
託生の指と反対に顔を向けたオレは、ニヤリと笑って挑発した。
本来負けず嫌いの託生が挑発に乗らないわけがない。
案の定、ムッとした顔をして、
「もう1回!」
と右手を出してくる。
「「じゃんけん、ポン!」」
「あっち向いて、ギイ!」
「「じゃんけん、ポン!」」
「あっち向いて、章三!」
「えぇぇぇぇぇっ?!」
「わはは、ひっかっかった」
『あっちむいてホイ』の変形と称して誘ったのは、正解だった。誘ったというより、勝手に始めたものだが。
一喜一憂しコロコロと変わる表情を楽しみつつ、オレも子供のようにはしゃいでみせた。
「25勝5敗か。まだまだだな、託生くん?」
「次は絶対、ギイに勝つんだからね!………あ」
咄嗟に口に手をあて、上目遣いに見やる様は、抱きしめたいくらい可愛い。
「さてと、風呂でも入ってくるとするか」
そんな託生にキスしたいのは山々なれど、自然体で「ギイ」と呼んでくれるこの空気を壊したくなかったオレは、ウインクをひとつ決めてバスルームのドアを開けた。
託生がオレの名前を呼んだ夜。
オレの願いがかなった、ひとつの夜。
「困っていたんです」カテゴリーの『実は困っていたんです』に続きます。
ただいま、ギイタクが頭ん中でマラソンをしております。
もう、なんかわけがわからないくらい、ドタバタと。
ということで(?)、閉鎖しているにもかかわらずまたもや更新しました。
「Call Me」はボサノバの名曲から。
………って、よくありそうなタイトルだな。
………と、実はアップして数時間後に少しゲームの内容を変えました。
こっちの方が、すんなり行くかなぁなんて思って。
(2007.7.31)
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