穏やかな時間の中で(高校2年生)
face (2001.9)*Night* (1/1)
目次
「託生………」
ギイの口唇が降りてくる。
「ん………」
しっとりと口付けながら、頬を辿るギイの指先がパジャマの襟元に掛かった。とたん、脳裏にあの写真が浮かんだ。
「や、やだ!ギイ」
ぼくは寝返りを打ち、ギイの腕を逃れて反対側を向いた。背中から大きな溜息が聞こえた。
「今日もお預けなのか?」
「ごめん………ギイ」
シーツを胸にギュっと握り締めながら、身動き一つしないぼくの頭をポンと一つ軽く叩くと、
「お休み」
ギイは自分のベッドに帰った。
ごめんね、ギイ。でも………。
それは、ギイに頼まれて311号室の中村君の部屋に行った時のことだった。
「はーい、開いてるよ」
勝手に入れってことだよね。
ぼくはドアを開き部屋に入ると、中村君始め2−Dのクラスの数人がベッドを囲んでいた。
「中村君、これギイに頼まれて持ってきたんだけど」
「おぉ、サンキュ」
中村君は封筒の中身を確かめて受け取った。
「ところで、何してるの?」
肩を寄せ合ってスクラムを組んでるようなその様に、ぼくは疑問を抱き訊いてみる。
「葉山も見るか?」
その中の一人が振り返り、人ひとり入れるだけのスペースを作って、ぼくを手招いた。
「何、見てるんだよ」
ぼくは開けられたスペースから、顔を覗かせた。
………え?
「な、すっげーだろ?」
「やっぱ、こっちの女の方がいいぜ」
「俺は巨乳より、この子が好みだな」
な、な、な、な!
「葉山は、どの子が好み?」
「あ………いや………ぼくは………」
あまりのショックに言葉が出ない。広げられたヌード写真集。二年生になるまで友達を作らなかったぼくは、男共が廻し読みしているであろうこういう類の本を、今まで見たことがなかったのだ。
「なんだなんだ。葉山、一人でする時のおかずにしないのか?」
「え………?!」
一人でするって………?
瞬間、ぼくの顔が火を噴いたように赤くなった。
「ご、ごめん。ぼく、まだ用事残ってたんだ」
「え、もういいのか?」
声に追われながら、苦笑いを浮かべ、そそくさと部屋を後にした。
まだ、ドキドキが収まらない。
ぼくは、落ち着かせようと寮の屋上に上った。
「びっくりした」
大きく溜息を吐き、フェンスに持たれかかる様に座り込む。
男ならあれが普通だもんね。
そう考えながら、でもぼくは違う意味で写真を見てしまった。
いやらしい誘うような表情。性欲の塊みたいな、男に媚を売るような………。
抱かれてる時、ぼくもあんな顔をしてるのだろうか。ギイにあんな恥かしい顔を見られてるのだろうか。
だとしたら………。
「もう、ギイの顔見れないよ」
それから一週間。ぼくはギイの誘いを断り続けた。ギイは好きでも、あんな顔をしているぼくを見られたくない。
もやもやした気持ちを抱きながら、今日はどうやって断ろうかと305号室のドアをノックした。
「ただいま」
小さな声で、部屋に入るとギイはベッドに寝転がったまま、ぼくを見ずに
「お帰り」
と答えた。
余りにも禁欲させていたせいか、ギイは背中に怒りを漂わせ、無言で何かの本に熱中していた。
「何、読んでるの?」
シンとした室内に絶えきれず、ぼくが話しかけると、ギイは視線をぼくに向け軽く手招いた。
腕をつかまれ、ベッドに腰を降ろす。
そして本に目を向けると………。
ぼくの顔が一気に赤くなった。ギイの手元には、いつぞやの写真集があったからだ。
「ギイ………これ………」
「中村に借りてきた」
「そう………」
ぼくが相手をしなかったから、これを見て………。
「ギイも興味あるの?」
動揺を隠しながら問い掛ける。
その為の本。男だったら、興味あって当たり前だよね。
「オレ?生憎と全然ない」
予想に反して、初めから用意していたように間髪入れずに否定した。ギイはベッドから起き上り、隣に腰かける。
「これ、託生も見たんだろ?」
「………うん」
「やっぱ、女の方がいい?」
「え?!」
驚いてギイの顔を仰ぎ見ると、ギイは憮然とした表情の中に傷付いたような瞳をしてぼくを見ていた。
「だって、普通はそう考えるだろ。この写真集見てからじゃないのか?託生がオレに抱かれるの嫌がるようになったのは」
「………違う」
「じゃ、オレのことが嫌いになったのか?」
「そんなことない!」
「じゃ、どうしてだ?オレだって嫌がる託生を無理に抱こうとは考えてない。でも、毎晩一緒にいるのに………もう、限界なんだ」
言葉通り、ギイの瞳が熱い。ぎりぎり理性で押し留めているその様子に、ぼくは意を決して口を開いた。
「顔が………」
「顔?」
「ぼくも、そんないやらしい顔してるのかなって思って。ギイにそんな恥ずかしい顔見られてるのかなって思ったら堪らなくなって………」
「託生の顔がこんなんだって?似てたら今頃反応してるだろ」
ギイは言いながら、ぼくの手を彼の下腹部に導いた。
「どうだ?」
「小さいね」
とたんポカンと後頭部をはたかれた。
「痛!」
「託生、言葉に気をつけろ。男に小さいはタブーだぜ」
禁欲生活を強いられた挙句、不能にしたいのかよ?
「ごめん」
横目でチラリと睨んで、ギイは本に目を落とした。
「全然似て無い」
「ほんと?」
「託生は比べもんにならない位綺麗だよ」
「そそそ、そんなこと言うから、信じられないんじゃないか!」
叫んだぼくに、
「だったら見せてやるよ」
「え?ちょっ、ギイ!」
言うが早いか、ギイはぼくを押し倒し、ぽいぽいと服を剥ぎ取っていく。そして、ぼくにまたがったまま、自分の服も脱ぎ捨てた
「ギイ!」
ぼくの腕をつかみ有無を言わせないままバスルームに向かう。
「寒いよな」
独り言のように言い、ぼくの体に当たるようにシャワーを調整して、
「ん………!」
唇をふさいだ。
久しぶりに触れ合う素肌に、安堵の吐息が漏れる。でも………。
「やだ………ギイ」
「ダメだ………!限界だって言っただろ?」
ギイの舌がぼくの口内を愛撫し、背中に廻された右の掌は背骨に沿ってくすぐる。ぐっと腰を押し付けながら左の掌は、ぼくの胸を弄った。
「は………あ…………」
「託生………」
うっとりと名前を呼ぶギイの口唇が、ぼくの一番弱い所をきつく吸うと、ぼくの腰が崩れ落ちた。
ギイは支えながら、くるりとぼくを反転させて後ろから腰を抱きこむ。
「あ………ダ………メ………あぁ…………!」
余りに逞しく熱い衝撃に、ぼくの手が空中を彷徨う。その腕をも抱きこんで、ギイが激しく腰を進めた。
「託生………託生………」
耳たぶを含みながら、ギイが囁き続ける。もう、どうにかなりそうだ………!
「ギイ………も………う…………」
うめく様に顔を反らすと、ギイは動きを止めぼくごと床に座り込んだ。
「託生、顔を上げて」
「いや………」
「いいから、上げて見てみろ」
顎に手を掛けて、ぼくの顔を正面に向けさせ、曇った鏡にシャワーを掛けた。
ざっと流れる液体に、鏡がゆらゆらとぼく達を写す。
「や………!」
「恥かしくないから、目を開けて」
頬に口唇を寄せて優しくギイが囁いた。恐る恐る目を開けてみる。
「綺麗だろ………?」
後ろからギイに抱かれているぼく。その顔は………とても幸せそうな顔。
ぼく、こんな顔していたんだ。
「全然似てないよ。託生は誰よりも綺麗だ」
鏡越しに視線が絡まる。ギイは満足そうな微笑を浮かべ、肩口にキスを落とした。
「ほんとに、似てない?」
「似てない。オレだけしか知らない託生だよ」
託生ですら、今まで知らなかったろ?
クスリと笑うと、ギイはシャワーのノズルを壁に掛けた。今までの悩みを洗い流すように、熱いお湯が降り注ぐ。
ホッと溜息を吐いたぼくの顔を覗き見ながら、
「もうこれで解禁だよな。一週間分、今日はやりまくるぞ」
嬉々としてギイがとんでもない事を口にした。
「もう!なんでギイはそうスケベなんだよ?!」
「じゃ、言い方を変えよう。オレを嘘つき呼ばわりした罰だ」
「嘘つきなんて言ってないじゃないか!」
「言ったも同然なんだよ、託生くん。似てないって言ったのに、オレを信じなかっただろ?」
「それはそうだけど………」
「だから、今日は一晩中託生の顔を見せてもらおう」
「やだ!」
ギイは不敵に笑うと、髪にキスをしてぼくを抱えなおした。
そして、予告通り実行に移したのだった。
今回の教訓。ギイに禁欲生活をさせると、あとが怖い。
ぼくはひとつ学習した。
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