困ったおもちゃ箱
もしもあの子が先生だったらPert2(2010.10) (1/1)
目次
web拍手に載せているお題『web拍手のためのもしもな五題』(愛は刹那様にお借りしました)の中から、「もしもあの子が先生だったら(ギイ=先生)」です。
パラレルですので、苦手な方は、お戻りください。
「答案用紙、返すぞ。名前呼ばれたら、取りにきてくれ。………赤池!」
「はい」
学年末テストの翌日、世にも恐ろしい英語の時間。
英語教師、崎先生の張りのある低音が教室に響く。
崎義一、27歳。
ぼくが入学する前から、ここ祠堂の英語教師をしているらしい。
日仏クォーターのアメリカ人。
ネイティブな発音に、わかりやすい授業。容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備と四字熟語がとても似合い、生徒達の間でも人気が高い。
噂では、どこかの大企業の御曹司だとか、ものすごいプレイボーイだとか(そりゃ、女性が放っておかないよね)聞くけれど、つい最近、奥さんとお子さんの写真が出回った。
3年生の誰かが受験で東京に行った時、偶然、崎先生を見て隠し撮りをしたらしい。
ぼくにも回ってきたけど、とても綺麗な奥さんと1歳くらいの(先生によく似た)お子さんを抱いた崎先生が、笑顔で写っていた。
「葉山………葉山?」
「は………はい!」
現実を逃避している間に順番が回ってきたらしく慌てて教壇の前に行くと、崎先生はぼくの顔を見詰め「はぁ」と溜息を付いて、ぼくの前に答案用紙を出した。
そのまま固まる、ぼく。
………35点。………追試決定。
次いで、答案用紙の上にメモ用紙が乗せられた。
『PM8:00 答案用紙と筆記用具を持って、職員宿舎305号室へ』
恐る恐る上を見ると、崎先生は人の悪い顔でニヤリと笑い、
「福田!」
と、次の人間を呼んだ。
がっくりと項垂れ、席に戻る。
「託生、生きてるか?」
心配そうにルームメイトの利久が、こそこそと声をかけてきた。
「今、死んだ………」
「そうか、復活の呪文唱えてやろうか?」
「どうせならパルプンテにして」
パルプンテなら、もしかしたら点数が満点になるかもしれない!
なんてバカな事を言ってても、この手の中にある点数は変わらない。渡されたメモ用紙が、まるで死刑宣告のように見えた。
その日の夕食が、ぼくの大好物のから揚げだったにも拘らず、喉を通らなかったのは言うまでもない。
午後7時55分。
足を踏み入れたことがない職員宿舎のドアを開けた。
少し小振りではあるけれど、寮と同じような造りなのに、シーンと静まり返っている。
その静けさがますますぼくを緊張させ、まるでお化け屋敷に入ったかのように、おっかなびっくり足音を立てずに階段を上った。
305号室。崎先生の部屋。
何の変哲もない普通のドアなのに、ぼくには鋼鉄でできた脱出不可能な監禁室のドアのように見える。
あぁ、一体、何を言われるのか………。
「やっぱり利久に、パルプンテかけてもらっておけばよかった」
この期に及んで、まだ現実逃避を企むのか、ぼくの頭は。
覚悟を決めて8時ぴったりに、305号室のドアをノックすると、
「葉山か、入れ」
すぐに崎先生が顔を出し、ぼくを室内に導きいれた。
寮と同じ広さの部屋。窓際の机とベッド。手前にソファセット。
まるで階段長の部屋みたいだ。
ドアの前から動かず立ったままのぼくに、
「そこに座っていてくれ」
そう言うと、崎先生はコーヒーメーカーから、カップ2つにコーヒーを入れた。
でも、なんだか、変な匂い。
「ほら、葉山はブラック砂糖入り」
そう言いながら、ぼくの前にカップを置き、自分の分のブラックを持って向かいの席に座った。
普段ぼくの好みはカフェ・オ・レだけど、疲れているときはブラックの砂糖入り。
今のぼくには、とても好みなのだけど、どうして崎先生がそれを知っているのか。
訝しげな顔をしていたのか、
「嫌いだったか?」
崎先生が、慌てたように腰を浮かす。
「いえ!ありがとうございます。いただきます」
そう言って一口飲むと、崎先生はホッとしたような顔をして腰を落ち着けた。
「あの、これ、匂いが………甘いですね」
「そうだろ?バニラ・マカダミアン。フレーバーコーヒーだよ。メルヘンちっくだろ?」
「………はぁ」
メルヘンって、なんだか崎先生には、全然似合わないんですけど。
だけど、美味しそうに飲んでいる崎先生に言える訳がなく、暖かいバニラ風味のコーヒーをもう一口飲んでみる。
しかし、こうして和んでいてもいいのだろうか。
ぼくの心が聞こえたように、
「あとで、ゆっくり話があるからな。緊張を解しておけ」
崎先生はニヤリと笑ってカップに口を付けた。
コーヒータイムも終わり、
「さてと」
崎先生がぼくのデータをどさりとローテーブルに置いた。
そこに並んだ、目を覆いたくなるような数字の数々。
「葉山自身が一番よくわかっているとは思うが、授業態度、提出物を満点にしても、ペーパーがなぁ」
「はい」
言葉を濁さずとも、はっきり出ているぼくの点数。
崎先生は、長い足を組み、ついでに腕まで組んで、「うーん」と唸った。
「葉山は英語が嫌いなのか?」
「嫌い………ではないですけど………苦手です」
本当は嫌いだけど。
何を書いてあるのか、チンプンカンプンだけど。
英語教師に向かって、はっきり「嫌いです」なんて言える度胸はぼくにはない。
「そうか………」
崎先生はポツリと呟き、少し躊躇って、
「じゃあ、オレが嫌いなのか?」
「えぇっ?!」
どうして、そこで崎先生が嫌いという話になるのだろうか。
あ、そうか!
嫌いな先生だから、授業は受けないという人がいるからか。
でも、嫌いじゃないけれど、どちらかと言うと、好きの部類に入るのかもしれないけれど、「好きです」なんて告白しているみたいで言えないし………えとえと………。
じっと、返事を待っている崎先生の顔をチラリと見て、
「嫌い………ではないです………」
無難な答えを出したつもりなのだが、崎先生は、ホッとしたように詰めていた息を吐き、
「それは、よかった」
嬉しそうに笑った。
その笑顔に、ぼくの心臓がドキンとなり、顔に熱が集まる。
先生が格好いいのは、前から知ってた事じゃないか。やだな。
「ま、とりあえずは明日の午後8時、今日と一緒だな、追試を受けてもらう。合格ラインは70点。その代わり、問題はこれと一緒。答えを渡してあるから丸覚えすれば、なんとかなるだろ?」
と、ウインクを決める。
落ちこぼれ生徒を助ける、救済制度。やる気さえあれば、70点くらいの丸覚えはできるだろう。
「わかりました」
崎先生は満足そうに笑った。
「じゃあ、明日な。がんばれよ」
退室するぼくをドアまで送り、崎先生は片手を上げた。
部屋に入るときは緊張しっぱなしだったのに、寛大な措置のおかげで足取りが軽くなる。
そして、ドアの外で崎先生と向きあい、
「失礼しました」
と顔を上げたぼくの視界にふわふわの茶色が写った。
「なんだろう?」とぼんやり茶色を追っていたら、今度は口唇に柔らかい何かが押し付けられる。
ぼくの手から、荷物が滑り落ちた。
押し付けられた何かがゆっくり離れ、
「合格ラインは70点だがな、一つ間違うごとに、キス一つな」
その何かから、声が出る。
え、え、え?
崎先生は、荷物を拾ってぼくの手に押し付けると、
「おやすみ」
パタリとドアを閉めた。
呆然と廊下を歩いて靴を履き、職員宿舎を出て冷たい夜風が頬を撫でた時、今起こった現実がぼくの脳まで届いた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
なに、なに今の?!口唇に触れた何かって、崎先生の………!
信じられない出来事に、カーッと耳まで熱くなり、ぼくは職員宿舎から飛んで逃げるように滅茶苦茶走り寮に駆け込んだ。
バタバタと421号室に飛び込むと、後ろ手にドアを閉めその場にずるずるとしゃがみこむ。
荒い息が、走ったせいなのか、はたまた先ほどのキスのせいなのか。
「あー、託生、帰ってたんだ」
洗面所に続くドアが開き利久が顔を覗かせ、誰もいないと思い込んでいたぼくは、飛び上がらんくらい驚いた。
「と……と……と………」
「ととと?」
「何でもない!何でもない!何もない!!」
ぶんぶんと横に首を振り、利久の訝しげな視線を跳ね除ける。
「それだったら、いいんだけど。託生ぃ、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「は………走ってきたから!」
「ふぅん。それで、追試はどうなったんだ?」
「あ………明日の晩に、学年末と同じ問題で」
「よかったじゃないか、託生。一日あったら丸覚えできるぞ」
自分の事のように喜ぶ利久に曖昧に笑い、荷物を置き「お風呂入ってくる」と着替えを持ってドアを開けた。
少し熱めのお湯に浸かり、気持ちを落ち着かせる。
なのに。
崎先生の口唇が、ぼくの口唇に………。
思い出して、また頭に血が上る。
ダメだ、ダメだ、考えちゃダメ!
何度も、思い出しては否定し思い出しては否定し、ふとある事実を思い出した。
崎先生、奥さんも子供もいるのに………。
ふいに、胸の奥がぽっかり穴が空いたような感覚になる。
…………やっぱり、からかわれたんだ。
何故だかわからないけど、ポロリと涙が零れた。
翌日、午後8時。
「昨日は何もなかった。昨日は何もなかった。昨日は何もなかった………よしっ」
気合を入れ、覚悟も決めて、ドアをノックした。
中から崎先生が現れ、そのまま窓際のデスクへと案内される。
崎先生のデスクには、学年末テストと同じ試験問題と答案用紙が既に用意してあった。
「時間は50分間だからな、8時54分まで」
の声と共に、ぼくはテストに向かう。
朝からノートが真っ黒になるまで「答え」を書きまくり、丸覚えしたんだ。
時間いっぱいまで、何度も何度も見直して、よしっ、完璧!
「できました!」
ソファでノートPCのキーボードを叩いていた崎先生が顔を上げ、「お疲れさん」と微笑んだ。
「コーヒーでも飲んで座って待っててくれ。答え合わせするから」
崎先生はぼくと交代で椅子に座り、赤ペンを片手に答えあわせをしていった。
ローテーブルの上には、ミルクがたっぷり入ったカフェ・オ・レ。一口飲んでみると、砂糖は入っていなかった。
確かに今日はカフェ・オ・レの気分だったけど、どうして?
ぼく、コーヒーの好みを言ったことがあったのだろうか。
数分後、「よく頑張ったな、合格だ」の声に、大きな安堵の溜息が出る。
よかった〜〜〜〜〜〜!留年免れた!
「けど………」
けど?
「一問、間違い」
ガーーーーーーーーーン!
崎先生の手から答案用紙を奪い、大きくバッテンが付けられている所を見て「嘘………」呟きが漏れる。
しかも、スペル間違いという初歩的ミス。
崎先生はクスクスと笑い、ぼくの腕を取ってソファに座らせた。
「昨日の約束、覚えてるか?」
「約束?」
約束って………もしかして………もしかしなくても………。
崎先生の大きな手が、ぼくの頬を包んだ。
え?え?
固まってしまったぼくを知ってか知らずか、ゆっくり顔が近づいてくる。
そして………。
崎先生の口唇が、ぼくの口唇に合わさった。
上唇、下唇と舐められ、隙間をとんとんとノックされる。されるがまま、薄く開けた口唇に舌先が入ってきた。
柔らかくて熱い塊が縦横無尽に動き回り、ぼくの舌と絡む。
飲み込みきれなかった唾液がぼくの顎を伝い、首まで流れている感触がした。
経験した事がない濃厚なキスにボーっと頭が白くなり始めた時、なんでキスされているんだろうと根本的な事を思い出した。
バッテン一つに付きキス一つって、今までも追試になった人がいるだろうに、その人達にも同じ事やっていたんだろうか。
奥さんも子供もいるのに?
そう思うと、ポロポロと涙が零れてきた。
「うえっ………」
ぼくの涙を見た崎先生はギョッとして、
「そんなにイヤだったのか?!」
慌てふためいてぼくを抱きしめ、子供をあやす様に背中をトントンと叩いた。
崎先生のシャツが、涙でくしゃくしゃになる。
「他の人にも………同じ事して……ひくっ……るんでしょ?!奥………さんも子供もいるのに!!」
優しく抱きしめていた崎先生の腕が背中から離れ、ぼくの二の腕ををギュッと握った。そして目がすっと細くなる。
「なんだ、それは?」
聞いたことがないような低い低い声が響いた。
「写真が………ひくっ」
「写真?」
「お………くさんと、おこさんと、先生、写った………ひくっ」
「オレは、結婚なんてしてないぞ」
「でも………ひくっ………写真……抱っこしてた…………」
ぼくの言葉に「うーん」と宙を睨んでいた崎先生は、何かに気付いたように「あっ」と叫び、
「あれ、オレの妹と甥っ子」
あっさりと言う。
へ?
びっくりどっきり涙も引っ込んでしまった。
「旅行がてら日本に戻ってきてたんだよ。普段アメリカに住んでるから、なかなか会えなくてな」
「妹さんと甥っ子さん………?」
そう言えば、写真を見たときお子さんが崎先生によく似てると思ったけれど、崎先生と女性も似ていたような気がする。
じゃあ、本当に妹さんと甥っ子さん?
崎先生はぶつぶつと呟くぼくを優しい目で見て、
「結婚してないってのは、納得したか?」
大きな手で、ぼくの頭を撫でた。
こっくり頷きつつも、まだ疑問が残る。
「でも、他の赤点の人にも……キス………」
「するわけないだろ!」
間髪いれずに返ってくる反論。
「なんで?」
「なんでって………」
崎先生は、顔を赤くしてふいと視線を外した。
「温室で、バイオリン弾いてるだろ?」
「あ………はい」
「以前、大橋先生に用事があって温室を尋ねたら、葉山がバイオリンを弾いてて。お前は気づかなかったみたいだが。それから、何度か見に行って………」
全然、知らなかった。バイオリンを弾いているときは、音に集中しちゃって、周りが見えなくなってしまうんだ。
崎先生が来ていたなんて、初耳だ。
でも、それとこれと、どう繋がってるんだろう。
崎先生は、はてなマークを頭に飛ばしたぼくに大きな溜息を付き、
「よく聞けよ、託生が好きなんだ」
目をしっかり捕らえ言い切った。
え………?
「何度も見に行くうちに、どうしてこんなに気になるんだろうって思った。授業態度はいいのに、ペーパーはとんでもなく悪くて、もしかしたら嫌われていてやる気がないのかとも悩んだ。だが昨日、託生に嫌いじゃないと言われて、すごく嬉しかった」
お前の態度に、一喜一憂してたんだよ。
一気にしゃべって、ぼくを両腕で包み込む。
崎先生の腕の中は、なんて暖かいんだろう。他人では感じることができない安心感。崎先生の少し早い鼓動が、ぼくの耳に届いた。
暖かい手に促されるまま、顔を上げる。
「オレを嫌いじゃ、ないだろう?」
ぼくの気持ちなんて、さっきの涙でおみとおしのはずなのに、どうしてこんなに不安げに聞くのだろう。
ゆっくりと近づく崎先生の口唇に、目を閉じた。
「嫌いじゃ、ないよな」
口唇を離し心配そうに呟いて、もう一度優しく口付けた。
「でも、間違い一つに付き、キ……キス一つって………」
「託生にキスしたかったからに決まってるだろ?」
「セクハラだ!パワハラだ!キャンパス・ハラスメントだ!!」
文句を言うぼくをソファに押し倒して、
「恋人なら、セクハラじゃないよな」
耳元で意地悪く囁く。
そして、意図を持った指がネクタイを解いて、第一ボタンにかかった。
「ちょ………ちょっと、待って!」
「待てない」
「………………ぼく、まだ16歳」
「愛に歳なんて、関係ないだろ?」
「それが、教師の言う台詞?!」
崎先生はニヤリと笑い、
「英語だけじゃなくイロイロ教えてやるよ、託生」
絶句したぼくの口唇を覆い、力強い腕で抱き上げた。
本当は、エロエロ黒ギイの予定だったんですけど、ギイが勝手に先走り、託生くんはおバカな子になり、二人の後を追いかけるのがせいいっぱいだったんです。
こうなると、どう軌道修正しようと思っても無理ですから。
キャラが全く違いますが、パラレルならではと思っていただければ(汗)
ちなみに「英語が嫌いなのか」の台詞は、管理人が現実に英語教師であった担任から言われた言葉です;
しかし、こんなに長くなる予定はなかったのに………。
あぁ、忘れてた!知らない方のために。
『パルプンテ』はゲーム、ドラゴン・クエスト内の呪文で、効果は「何が起こるかわからない」です。
(2010.10.6)
目次
NOVEL TOP
Green House MENU
HTML Dwarf mobile