Reset(卒業後)
波間を照らす月-3- (1/1)
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………と言ったのに。
「悪い!本当にすまない!」
「仕事だったら仕方ないよ」
明日から二人合わせて三日間のオフという段階になって、ドイツの支社で問題勃発。急遽オフ返上で出張になったというわけだ。
ぼくだってバイオリニストとしての仕事を持っているから、こういう予定外の仕事には理解はできる。
できるのだけど。あれを見なかったら、ぼくだって素直に見送れたのになぁ。
ぼくは、先日、事務所にギイを迎えに来た女性のことをまだ引きずっていた。
あの女性も同行するのだろうか……。
「帰ったら絶対埋め合わせするから!」
慌しく手を動かしながらも、ぼくへ謝り続けるギイに、なぜだか無性に腹が立って、
「やだ」
スルリと口から零れ落ちた。
こんな我侭言うつもりなかったのだから、これはギイのせいだ。ギイがあのとき事務所に来なかったら、あの女性を見ることがなかったのだから。
ぼくの言葉に、ポカンとしてギイが振り返る。
「やだ?」
「うん、やだ」
「と言われても……」
ギイの心底困りきったような表情に、今度は悪戯心がむくむくと湧き上がり、
「帰ってくるまで待てないから、今、埋め合わせして」
「はい?」
スーツケースの蓋を閉めようとしていたギイの頭を抱きしめて、口唇を重ねた。
深く深く舌を絡め、ベッドの中でしかしないような濃厚なキスを堪能し、一分後ギイを開放した。口唇を離すときにぺロリとギイの口唇を舐めたのはご愛嬌。
ちなみに、ギイとベッドを一緒にしたのは、二週間も前のこと。
「はい、終わり。気をつけて行ってらっしゃい」
これで浮気してきたら、蹴りだしてやるからな。ここはギイのペントハウスだけど。
「お……おまえ……悪魔……」
体が多少前かがみだけど、大丈夫だよね、ギイ。
ヨロヨロと出て行ったギイに満足しつつ、三日間なにをしようかとソファで考えていたぼくは、一時間後に飛び込んできた松本さんにドイツまで拉致された。
ケネディ国際空港から八時間強。ニューヨークでは真夜中の時間だけれど、こっちはすでに朝の光が溢れていた。
フロントで鍵を受け取り案内された部屋に入って鞄を置く。
松本さんも一緒にホテルまで来たけれど、荷物を置いてすぐにドイツ支社に向かったはずだ。
「葉山さんを連れて行かないと、副社長にボイコットされるんですぅ」
半泣き状態の松本さんを前に、行かないという選択肢はぼくに選べなかった。松本さんも気の毒に……。
しかし、一泊はできるだろうけど、まるで気分は日帰り旅行だ。たった三日間しか休暇はないのだから。
「ぼくだって久しぶりのオフだったんだぞ」
だから、ゆっくりのんびりしようと思ったのに。
そりゃ、ギイの仕事が入ったことは少し寂しかったけど。ギイを煽った自覚もあるけど、これはあんまりだ。
ブツブツと文句を言っていると、背後のドアが開き、
「託生」
ギイが顔を覗かせた。
「ギイ?!」
「よ。無事着いてたか」
「着いてたかって、どういうことだよ、これ?ぼくまでドイツに来る必要はないだろ?」
「オレにはあるの」
「なんで?!」
「オフがおじゃんになって、託生とのデートがキャンセルになっただけでもガックリ来てたのに、あんなに煽られてオレに我慢しろってか?」
言いながらぼくの腕を引っ張りドアに押し付ける。
ギイの瞳が欲望を染まっているのを見て息を飲んだ。
でも、ここではヤバイ。このドアの向こう側は公共の廊下なのだから。
「ギイ!仕事……んんっ」
噛み付くようなキスに言葉を切られ、その衝撃にドアがガタンと鳴って体が竦んだ。
「ギ………ゃ………ぅ」
逃げても追ってくる口唇に、胸を叩こうと腕を上げるも、その腕ごと拘束されるように抱きしめられる。形を変えた下半身を押し付け、ギイが自分の現状をぼくに知らせた。
明確な意思を持って、ギイの手がぼくの体を這い回り、自分の体が恥を知らず熱くなっていく。
「ギイ、ダメ………って……仕事………」
「そう、仕事。十分しか時間がないんだよなぁ」
「それなら……あっ………!」
そう言いながら、下半身を這う手がベルトを外しファスナーをおろした。
「なに……?」
そのまま足元に座り、ギイがためらいなくぼくを口内に捕らえ、ぼくの体が跳ね上がる。
「あ……ギイ……くっ………」
腰を抱きこみ熱い舌がぼくを愛撫する様に、引き離したくてギイの髪を掴んだのに、ぼくの手は強請るように頭を引き寄せ、ギイに与えられる快感を追っていた。
「んっ……、ギイ………ギ……」
容赦のない責めに、体全体がガクガクと震えだす。抗うこともできないまま、波が押し寄せてくる。
「飲ませろよ」
「あ………あぁっ……!」
真っ白に焼き切れる瞬間。
ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ音が、やけにリアルに聞こえた。
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