小話ついったー
Life (1/10)
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2017年12月20日 Blogより転載
「託生、マリッジリングのデザインのことだけど」
「うん?」
「全体的に厚みは抑えるけど、手の甲側だけ少し厚くなっていいか?」
「……ダイヤモンドを入れるとか?」
「ぷ、そんなに、嫌か?」
「嫌というより、ギイの基準が高すぎて怖いんだよ。婚約指輪で懲りた」
「まぁまぁ。あぁ、石は入れないから安心してくれ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。ちょっと、ねじりたいだけなんだ」
「ねじる?」
「メビウスの輪ってあるだろ?あれを指輪にしたいなって思ったんだけど」
「あの終わりがない輪っか?」
「そう、あれも永遠って意味じゃないか」
「あ……あぁ、そうだね!」
「だから、ねじりの部分だけ、ちょっと厚みが出るんだ。それ以外は、託生の希望どおり、分厚すぎず太すぎずシンプルな感じ」
「うん、それがいい」
「じゃ、マリッジリングはそれで話を進めるな」
2017年12月16日 Blogより転載
「ただ、目が覚めたら隣に託生がいて、そのまま愛を確かめ合って、腹が減ったら二人で食べて……仕事も大学も人の目を気にせず体を重ねあって、託生でいっぱいになりたい。新婚ってさ、そういうものだろ?」
「……うん」
「ずっと託生の肌に触れていたい」
「うん」
「一つになって、幸せを感じたい」
「ギイ……」
「だから、今度の休暇は、オレの希望を優先してもらえないか?」
「……いいよ。ぼくも、ギイを……ギイにいっぱい愛してほしい」
2017年12月14日 Blogより転載
二度目のプロポーズ後。
「結婚式に何か希望あるか?親父もお袋も絵利子も楽しみにしているから、二人きりの結婚式ってのは無理だけど、どこそこの教会であげたいとかあったら……」
「ううん、全然ない」
「……ない?」
「うん。あっ……祠堂のみんなに来てもらいたいな。空港で約束したよね?」
「あぁ、それはもちろんプランに入ってるから心配するな」
「よかったぁ」
「あいつらを呼ぶ以外は?今、希望を言っておかないと、オレ突っ走るぞ」
「え?そ…それは、ちょっと……うーん……あ、そうだ。結婚指輪、もう作ってるの?」
「いや、まだデザイン段階」
「あのね、あまり太くなくて、分厚すぎないのがいいんだけど」
「え?太さも厚さもそれなりにあるエタニティリングを考えていたんだが……」
「エタニティって、なに?」
「ぐるっと一周ダイヤをはめ込む……永遠って意味」
「わぁ、ダメダメ!ギイ、絶対最高級のダイヤ使うだろ?!」
「……そんなことないぞ」
「そんなことなくても、そのエタニティってのは止めて。バイオリンが弾けなくなっちゃう」
「あ……」
「バイオリニストは右手に結婚指輪をする人が多いんだけど、ぼく、左手にはめておきたいんだよ。それを考えると、シンプルな指輪の方がいい」
「よし、わかった」
「いいの?」
「もちろん。託生がそこまで考えてくれてるなんて、あー、オレ、幸せ」
2017年12月9日 Blogより転載
「あぁ、早々役員が集まることがないから今言わせてもらうが、義一が婚約した。取引先からの見合い話は全て断ってくれ」
「えっ?!」
「か…会長!」
「なにか?」
「あの……その、ご婚約者の方は、どちらかのご令嬢なのでしょうか……?」
「そんな情報が、君に必要なのかな?」
「ひ……必要というわけではありませんが、その……」
「じゃあ、別にかまわないじゃないか。では……」
「いや、ちょっとお待ちください!」
「………」
「ご婚約者の方は、噂されている義一さんが日本から連れてきた女性のことでしょうか?」
「そうだよ。それが、なにか?」
「恐れながら進言させていただきます。Fグループ次期総帥である義一さんの結婚は、慎重になっていただけねばなりません」
「意味がわからないね」
「ご実家の大きさがFグループの繁栄に繋がるものでなければ、我々としても納得できかねます」
「確かにFグループとしては、義一がどこぞのご令嬢と結婚すると、企業同士のパイプが太くなるだろうし、なにかあれば助けてもらうこともできるだろうね」
「でしたら」
「君達はメリットしか考えていないか?その反対のことも言えるとは、考えられないのか?」
「え……」
「もしも相手の実家が倒産寸前になれば、こちらが助けなければならない。それこそ共倒れになる可能性がある。働いてくれている社員を、トップの親族関係のいざこざに巻き込むわけにはいかないんじゃないかい?」
「そのときには離婚という手が……」
「義一の家族が崩壊するのを想定内で、結婚を決めろと言いたいのか?他人である君が、そこまでの決定権を持っているのか?」
「そ……それは………」
「私の子供は、Fグループの歯車じゃない」
「………」
「本来は義一の婚約を話す必要はないはずだ。崎家のことだからな。ただ、君達を通して入る見合い話が後を絶たないから、事情を話したまでのこと。将来結婚するはずの絵利子にしてもそうだ。君達の意見は必要ない。あぁ、それと義一の婚約者の女性は、崎家にとってこれ以上ないほど素晴らしい女性だ。もしも妨害するようなことがあれば、崎家当主として全力で叩き潰すから、そのつもりで」
2017年12月7日 Blogより転載
「なぁ、絵利子」
「なぁに?」
「ウェディングドレスを袖付きにしたのは、意味あるのか?今は、ビスチェタイプが多いだろ?」
「……ビスチェがよかったの?ギイは嫌がると思ったんだけど」
「いや、露出が多いから袖付きでオレは正解なんだけどな」
「うーん、託生さんもそうだと思ったのよ。私やお母様がデザインしたって言えば、なんでも着てくれたんだろうけど、胸元や肩を出すのって女性の体をさらけ出すような感じじゃない?それって、やっぱりまだ託生さんの気持ち的に無理だと思ったのよね」
「そうだな」
「それと教会式での正統派ウェディングドレスは肌を隠すものだし、それはそれで託生さんの清楚な印象にあってるんじゃないかって」
「ありがとな、絵利子」
「どういたしまして」
2017年6月1日(木) Blogより転載
わけもなく、むしゃくしゃしていた。
煌びやかな摩天楼の影に隠れ、闇に包まれた区域。人々が近づかないゾーン。どこからともなく下種な笑い声が聞こえ、埃臭い匂いが充満している狭く汚い路地裏。崎家の長男が立ち入るには向こうから拒否されるような場所ではあるが、俺が勝手に入り込むのは自由だ。
日中、燦々と照らされる日の光が今の俺には不釣り合いのように眩しくて、俺は夜な夜なペントハウスを抜け出し夜の闇に紛れ込んでいた。
多忙ではあるが子煩悩な父。降り注ぐような愛情で育ててくれた母。少々生意気だけど素直な弟。真っ直ぐな瞳で慕ってくれる可愛い妹。絵にかいたような仲のいい家族。
それなのに、いつ頃からか居心地が悪くなり自分を隠すようになった。
そして有り余る金に、崎家の長男、Fグループの次期後継者と、肩書きばかりが先行し、俺自身が自分を見失っていた。
本当の俺は、皆が思ってるほど聖人君子じゃない。
そんな憤りを心の底に持ちながら、今夜もふらりと月の見えない街中を歩いていた。
売られた喧嘩は買わなきゃ損。
そんなことを考えながら、どこの誰だかわからない奴を相手に、乱闘を繰り広げていた。どっちにしろ、暴れる口実ができればそれでよかったのだが。
相手が凶器を持っていなかったのはラッキーだった。ナイフくらいならなんとでもできるが、銃を持っていたらさすがに命がヤバい。
しかし色々と体術を習っていても多勢に無勢。結構やられたところに車のヘッドライトが飛び込み、親父のSPがバラバラと現れた。そして俺を取り囲んでいた三人は、あっという間にSPに捕らえられ、俺の前から消え去っていく。
残ったのは、無表情に俺を見下ろす親父と数人のSP。
GPS付きの携帯を置いて家を出てきたのに、どうしてここがわかったんだ?
そんな疑問を頭に浮かべながら息を整えていると、
「立て」
無表情に見下ろす親父の有無を言わさない命令に、ガクガクする膝を叱咤しその場に立ち上がった。
とたん、
「副総帥!」
「大樹様!」
「………っ」
今まで殴り合いをしていて足元がおぼつかないところを、親父に本気で殴られ一瞬意識が飛ぶ。
少しくらい手加減してくれよ。
そして襟元を締め上げられ、壁に押し付けられる。親父の皺一つないオーダーメイドのスーツと、その背後にあるそぐあわない風景に、笑いそうになった。
崎家の長男で跡取りの自分が、こんな薄汚い場所で殴り合いの喧嘩なんて、マスコミにでも知られたら狂喜乱舞されるスキャンダルだろう。ま、親父の力なら揉み消せるだろうが。
……あぁ、そういう家だったな、俺の生まれた家は。
親父の怒りは当たり前だよな。面倒なことを起こした俺を、立場を考えずに行動した俺を……。
もう一発殴られる覚悟を決めて目を閉じたとき、
「お前、自分の姿見てみろ?それで、託生が泣かないわけないだろうが」
低い声色で告げられた言葉は、予想の遥か斜め上を行っていた。
「………え?」
言われて視線だけ動かして己の姿を見てみると、ボロ雑巾のような、いや、雑巾のほうがずっとマシだ。あっちもこっちも埃にまみれ、服は破れまくっている。
ではなく、お袋がなんだって?
俺の疑問の視線に、
「お前のその姿を見て、託生が泣かないと思うのか?」
再度、親父が俺に聞く。
怪我だらけでボロ雑巾の俺を見たら………あのお袋だったら泣くだろうな。幼いころ、転んでひざ小僧に怪我をしただけでも、目に涙をためて、自分のことのように悲しそうな顔をしていた。
「託生を泣かすやつは、我が子でも許さんからな。先に殴っただけだ」
「……………は?」
「なんだ?不満か?」
「いえ、ではなく、それが理由ですか?」
俺が殴られた理由は。
「それ以外に何がある?」
崎家の長男だとかFグループの跡取りだとか、そういうことは関係なく、お袋を泣かせるから?それだけの理由?
気力で踏ん張っていた体中の力が、一気に抜けたような気がする。いや、気がするだけじゃなくて、その場に崩れ落ちた。
周りにいるSPの、なにか哀れなものを見るような複雑な視線が痛い。
そんな理由かよ、親父……。
「さっさと来い。馬鹿息子。託生に泣かれて罪悪感にさいまみれろ」
なんだか、どこか違うよなと思いつつリムジンに投げ込まれ、座り心地のいいシートに座ったとたん意識を失った。
ひんやりとしたタオルの感触に、目を開ければ自分の部屋。
「大樹?」
「………母さん」
「まだ真夜中だから。傷は痛む?」
「いえ……母さん、俺………」
「小言は明日言わせてもらうから、今は寝なさい」
「うん……」
薬が効いているのか頭の中がぼんやりと弛み、前髪をかきあげるように撫でられる心地よさに促され、とろとろと睡魔に落ちていく瞬間、目の端に映り罪悪感が俺の中を占めていく。
あぁ、やっぱり泣かせてしまったかと。
**************
「だいたいさ。ぼく、お義母さんから聞いてたんだけど」
「なんだって?!」
「ギイと結婚したら、こういうことがあるから、もしも止めるんだったら今よって」
「それで、託生との結婚がなくなったら、どうするつもりだったんだ……」
「さぁ?」
「いったい、息子の幸せをどう考えてんだ、あの人は」
「なに言ってるんだよ。ギイの幸せを考えたから、ぼくに忠告したんじゃないか」
「え?」
「もしも、ぼくがなにも知らずにギイと結婚して、想定外のことが起こったりしてギクシャクするだけじゃなくて、離婚になるかもしれないじゃない」
「離婚ってお前?!」
「だから、例え話!そうなったら、ギイが傷つくだろうから、そうなる前に話したんじゃないかな。お義母さんも」
**************
「ギ……ギイ、ここ見える」
「どこから見るんだよ。それに窓は全て抜かりなくミラー加工だ」
それもそうかと頷きかけ、でも、こちら側からは広々とした景色が見えているわけで。というか、ここはギイのオフィス!
「神聖な仕事場で……ギ……んっ」
「ここがイヤなら、ベッドはあるぞ?」
「はぁ?」
「そこ、仮眠室」
と指差した奥のドア。
あぁ、あそこは仮眠室だったのか。………ではなく、ちらりと見上げた時計は、あれから二十分。
そろそろ島岡さんが来るはず。ギイが呼びに来てくれって言ったんだから。
「ギイ」
「うん?」
性懲りもなく口唇を寄せるギイの鼻を思いっきり摘まんで、
「………仕事しろ!」
ぼくの声とノックの音が、部屋に響き渡った。
**************
「託生のドレスなのに、なんで絵利子の部屋で保管なんだ?」
「ぼくの部屋だと、ギイが探すからじゃない?」
妹と言えど、女性の部屋に潜り込めることはできない。
「託生だったら、マーメイドラインかスレンダーラインか」
「うん?呼び方は知らないけど普通のだよ。あっ!」
「へぇ、普通のだったら、プリンセスラインかAラインだな」
「これ以上は、言わないからね」
「はいはい」
2017年5月27日(土) Blogより転載
「一颯、いってらっしゃい」
聞こえてきた母の声に玄関ロビーに顔を出すと、一颯が振り返りもせずドアの向こうに消えたところだった。
心配そうにドアを見つめて一つ溜息を吐き、体の向きを変えたとき母と目が合った。とたん、曇らせていた表情が穏やかに変わる。
「あれ、大樹?」
「一颯、追いかけましょうか?」
人のことを言えないような振る舞いをした過去があるけれど……当時、母に今と同じような表情をさせていたのだと考えると後悔するばかりだ。だからこそ、一颯の行動が己の過去と重なって胸が苦しくなる。
「ううん、いいよ。また帰ってくるだろうし」
なのに、軽く手を振って、先ほどの哀しげな表情なんて嘘だったように明るく母が笑う。
いつも、そうだ。
俺達子供に心配させないよう、母はいつも笑っている。だからと言って、無理に表情を作っているわけでもない。
「でも……」
「時間があるんだったら、コーヒーでも飲まない?」
「えぇ、いただきます」
てっきりリビングに行くのだと思ったら、両親のプライベートルームに招き入れられた。
幼かった頃はともかく、今ではこの部屋に入るのは滅多にない。
「咲未もいないし、たまにはね」
そう言って、俺にソファを勧め、母はコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
一颯は十三になり、親の付き添いがいらなくなった。学校があったときはマシだったが、卒業式を過ぎたあたりから家に寄り付かなくなった。
「大樹は、歯痒いんだろ?」
「まぁ、そうですね」
同じ道を歩いて、今考えれば、なんてバカなことをしていたんだろうと思えるからこそ、一颯の行動が腹立たしくもあり歯痒い。
どれだけ逃げたって、崎の人間であることには変わりはないのだから。
「一颯を理解できるのは、崎に生まれ育った人間だけだと思うんだ」
できあがったコーヒーをカップに注ぎながら軽い口調で言うも、裏を返せば母こそ歯痒いのだと思う。いつも、どんなときでも子供の気持ちに寄り添っていたのに、今、一颯の考えていることがわからなくて。
「まぁ、反抗期ってのがないのは問題らしいから、ごくごく普通に育ってるんだろうなぁって思ったら、嬉しいよね」
俺の前にカップを置き、正面に座りながら母が笑った。
「そういうものですか?」
あれだけ俺も心配をかけ、一颯に至っては現在進行形。
あまりにも前向きでのほほんとした母の台詞に呆れると、
「そういうもの」
クスリと笑ってコーヒーを一口飲んだ。
「母さんも、あったんですか、反抗期?」
「ぼく?」
首を捻り宙を睨んで、
「うーん、どうだったかなぁ。忘れちゃったよ」
「都合の悪いことは、記憶にない、と?」
「そういうこと」
笑いあって、
「大丈夫だよ。ギイとぼくの子だもん。あの子は、ここが帰ってくる場所なんだってわかってるから」
そう言って、ふと真顔に戻り、母は俺を見詰めた。
「大樹に寂しい思いをさせたんじゃないかなって」
「そんなことないですよ」
今ならわかる。
精一杯、両親がオレを愛してくれていたことを。
「そのときは、最善の選択をしたつもりだけど、後悔ばかりだよね」
溜息を吐きながら、カップに口をつける。
「大樹に頼っちゃうところ、たくさんあったし」
「それは、兄として弟妹の世話をするのは当たり前でしょ?」
「親としては、誰もが同じ子供なんだよ。一人に負担をかけさせたってのは、反省すべき点だと思うよ?」
「いいえ、なにも負担なんて感じてません」
「ありがとう。大樹は、優しいね」
「そんなこと………」
「照れるところは、ギイそっくり」
幼かった頃、父の書斎で偶然見つけたアルバム。男子校のはずなのに、母の姿が写っているのを見て驚いた。
だから父に聞いた。「どうして、母さんがここにいるの?」と。
「大樹が大人になったら話してやるよ。今、託生はここにいるんだ。それだけじゃ、ダメか?」
そう言って頭を撫でた父の手の大きさに、子供ながらにこれは聞いてはいけないことなのだと思った。父の手と変わらないほど大きくならないと、自分には理解できない難しいことなのだろうと。
父が留学を終えたと同時に、母をアメリカに連れ帰ってきたというのは聞いた。そして、二十歳で結婚し三人の子供を産み、今は国際的バイオリニストとして活躍している。
アルバムに残っているのだから、母が男子校にいたのは事実なのだろう。
たまに訪ねてくる両親の友人を見ても、父を介して知り合ったのではなく、母個人の友人でもあることがわかる。
けれども、アメリカに来る前の話は、一切聞いたことがない。
、両親共、故意に隠しているらしいことを聞くのは、ずかずかと土足で上がりこむような行為に思えて、今でも聞けずにいた。
「大樹はさ、普段と変わりなく一颯に接してほしいんだ」
「それで、いいのですか?」
「うん。一颯を理解できるのは大樹だと思うから」
「わかりました」
母がそう言うのなら、昔の自分を見ているような苛立ちを、今のところ胸の奥底に置いておくことにしよう。
2017年5月25日(木) Blogより転載
咲未「初めてのホワイトデーに、なにをあげたの?」
託生「……ミンティア」
咲未「ミンティアってなに?」
託生「小さな錠剤のお菓子?薄いプラスチックの入れ物に入ってたよ」
一颯「あ!それって、このくらいのプラスチックケース?」
託生「一颯。それ、もう売ってないはずなのに、どこで見たの?」
一颯「父さんの部屋。まだ中身入ってた」
託生「入ってた?!」
一颯「うん。カラカラ音がしたし」
託生「………賞味期限過ぎてるよね」
一颯「どっぷり20年くらい……」
咲未「お母様、大丈夫だって。お父様のお腹頑丈だから」
**************
地響きのような音が近づいてきて、
「託生っ!」
「へ、なに……え……ぎーーいーーーー………」
目の前にいたはずのお袋の姿が一瞬の内に消え、ドアの向こうでドップラー現象のようにお袋の声と親父の靴音が遠ざかっていく。
「いったい、なんなんだ……」
「とうとう、父さん、ブチ切れた?」
「お母様不足だったのかしら?」
動じず、咲未が手元にあるミカンを一粒食べた。
「お兄様も食べる?」
「あぁ」
兄貴と二人、居間のボードの上に、大きく「みかん」と書いたダンボールを覗き込んで……。
「咲未………」
「なぁに?」
「この、みかんが届いたのって、いつだ?」
「んとね、昨日」
昨日……。たった一日で、箱の半分までなくなるものなのか?
「食べたのは、母さんと咲未なんだよな?」
「うん、そうだけど、お母様が食事代わりに食べてたから」
とたん、兄貴の顔が引きつった。
「兄さん?」
「もしかして……いや、赤でも緑でもないな……じゃあ、違うのか?……でもなぁ……」
赤?緑?なんの話だ?
2015年5月9日(日) Blogより転載
「なにカレンダーを睨んでるんだ、一颯?」
どうもなにかしら引っかかるものがあり、5月のカレンダーを見ながら記憶の引き出しを片っ端から開けていたオレに、兄貴が不思議そうに声をかけてきた。
「あのさぁ、今、日本ではゴールデンウィークだよね。端午の節句以外に、なにかイベントなかったっけ?」
そうなのだ。お袋が新聞紙で兜を折ってくれたり、小さなこいのぼりをみんなで作ったりと、子供の頃のオレ達にとって一大イベントであった端午の節句は、今でもお袋が玄関ロビーに菖蒲を飾りシェフがちまきと柏餅を作るおかげで、印象が強く、我が家の年間行事の一つを認識しているが、それとは別になにかを忘れているような気がする。
「昭和の日、憲法記念日、みどりの日、こどもの日だろ?それ以外の休みは土日が続いてたりするだけだから、これと言ってイベントはなかったと思うが?」
オレと同じようにカレンダーを覗き込みながら、すらすらと日本の祝日の名前を読み上げた兄貴はあっさり否定した。
ついでに言うと、このカレンダーは当たり前だけどアメリカ製なのだから、日本の休日なんてものはどこにもない。
「それはそうなんだけど………」
喉元まで出かかっているのに形にしようとすると霧の中に溶けていくような、あー、気持ち悪い!
口ごもったオレに頓着せず兄貴が顎に手をやりながら、
「5月1日……5月2日……」
確認するように日にちを口に出し、
「5月5日……5月6日………あぁ、思い出した、ゴムの日だ」
うんざりしたような表情で答えをくれた。
「ゴムの日?」
「5月6日のごろ合わせのゴムの日。咲未が産まれる直前の5月6日に、お前とゴム鉄砲を作って遊んだことがあったよ。翌年からはなくなったけど」
「へぇ。そんなことがあったんだ」
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