永遠(とわ)の・・・

打ち明けたい。
大切な相手だから…。

卒業式を1ヵ月後に控え、ぼくは一大決心をしていた。


"大切な人"というのは、何も"恋人"だけではない訳で。
"相棒"だったり、"参謀"だったり、笑い合ったり怒り合ったりできる"親友"だったりもする。


ぼくの親友、片倉利久に、ぼくが本当は『女』だったという事実を打ち明けたい。
そうギイと赤池君に相談したぼくに
「気持ちは解るが…」
「ふむ、片倉に、ねぇ」
相棒っていうのは、やっぱり思考回路も似ているのか、二人揃って、なんともいえない表情でぼくを見た。
「親友、なんだ」
接触嫌悪症、全盛期の1年の時のぼくのルームメイトでもあった片倉利久は、何くれとなく、損得抜きでぼくを守ってくれた。
その後も、寮での部屋もクラスも分かれたとはいえ、ぼくの事を"親友"といって憚らない。
しかも、何故か今もって利久にとってぼくは"守る"対象であるらしくて、"託生のお兄さんな気分"なんだと云っている位だ。
そして、ぼくにとっても本当に大切な友人で、心から感謝もしていて、これからも、ずっと彼とは"親友"として繋がっていたいと思っている。

だから、ぼくとしては、ここ祠堂学院を卒業する前に利久にきちんと話して打ち明けたい。
そう思っているのだけれど…。

「片倉が、その現実を受け入れられるのかそれが、な…」
「どういう意味?」
「つまりさ、今の今まで男同士と信じていた元ルームメイトの親友に実は女でしたって云われる訳だろ」
「僕も、最初ギイから聞かされた時には、俄かには正直信じられなかったしな」
苦笑を浮かべながら章三が云う。
「それは、利久に拒否されるってこと?」
「と、いう可能性がなくはないってこと、かな?」
「それでも、いいのか?」
利久に拒否される。
考えてもみなかった。
「まぁ、な。片倉の事だから、否定って事はないと思うが、なんていうかさ。頭じゃ理解できるとして、心がな」
「無意識に、な」
そういう事か。
確かに、利久という男は、基本的には至極ノーマルな思考回路の持ち主で。
しかも、とてもシャイでもある。
そんな利久だから、ぼくを好きだとか、嫌いだとかという事じゃなく、"女の子"としてのぼくを受け入れるというのは、難しいことかもしれない。
きっと、わざと避けられるとか、そういう事じゃなくてただ、何となく微妙に距離をとってしまうというか、女の子のぼくに変に気を遣ってギクシャクしてしまう、という事になるのかもしれない。

でも、それでも。

「今、このタイミングで、なのか?」
「うん」
「卒業式当日、とかじゃ駄目なのか?」
「そんなの、云い逃げみたいで嫌なんだ」
「片倉、受験が終わって、もうずっとこっち、祠堂にいるんだよな?」
「うん」
「となると、最悪の場合、葉山。1ヶ月位の間、片倉と気まずくなるかも、だとしても?」
「うん、それは…そうなったら、仕方がないと思ってる」
「そこまでの覚悟が葉山にあるんじゃ、ギイ。反対しても無駄だ。第一、葉山の言い分が正しい」
「反対、してる訳じゃないが…」
心配なんだ、と言外にその瞳が語る。




「そっか。話してくれて、ありがとな。」
全てを聞いて、最初にかけられた言葉がこれだった。

流石に話し始めは、驚きすぎてあたふたした利久だったけど、少しづつ落ち着きを取り戻してからは、真面目な顔でぼくの話を聞いていてくれて。


余計な邪魔が入らないという事で、ギイから提供された300(ゼロ)番で、ぼくと利久はソファに並んで腰掛けて話していたのだけれど、唐突に利久がぼくから離れた。
やっぱり、なのか。
少し寂しい気持ちになりながらも、それも仕方がない事だと思っていると
「うん、変わらないな」
「え?」
「男とか、女とか、関係ないな〜って思って」
にこにこと他意のない笑顔で、ぼくを上から下まで見回しながら云う。
と、ふと真顔になって
「じゃあ、さ。託生、卒業したら、その…」
「うん、アメリカに行く。ギイと一緒に」
「そっか〜。ギイと一緒なら安心だなぁ」
「ど〜せね。ぼくだけだったら頼りないって云いたいんだろ」
「だって、託生、英語できないじゃん」
「う〜。それは、ね〜。云わないでって感じ?」
そう、そればっかりはギイがいようといまいとアメリカに行くという事は結局ついて回る事でもあって。
実は密かにぼくの目下、最大の不安要素の一つ、でもある。
「そう、四六時中、ギイと一緒って訳にもいかないだろうしなぁ。託生、頑張らないといけないんだ」
そう云いながら、ちっとも気の毒そうじゃないんだけど。
「でさ、えっと…ギイと、は、その。いや、なんていうか」
「あ〜、うん。利久には、ちゃんと云わないと、だね。うん、ぼく達、結婚する、つもり。あ、でも、直ぐって訳じゃ、ないけど。ぼくは、治療もあるし」
「そうなんだ。ギイと託生って…そっか、そうだったんだ」
納得がいったという様に、うんうんと頷いていたかと思うとスッと顔を上げ、真剣な顔付きで
「今、ギイって近くにいる?」
「あ〜、多分。赤池君の部屋にいるはずだけど…」
「呼んで来て貰っていい?」
「え?あ、いいけど」
「じゃあ、託生、使い立てして悪いけど、ギイの事呼んで来てくれるか?俺はここで待ってるからさ」
「わかった、行ってくる」
「あ、託生、赤池も、一緒に!」
「え?赤池君も?」
「うん、赤池も」
いつになく真面目な顔で利久に云われて、ぼくは急いで2人を呼びに向かった。


「で、僕まで何なんだ?片倉」
「や、ま、赤池は、なんていうか証人っていうか」
「証人?ってなんのだ?」
「まぁ、いいから、いいから」
そう云うと、ハタとギイを睨みつけ
「ギイ、託生から話は聴いた」
「ああ」
「アメリカ、連れて行くんだ?」
「ああ」
「結婚、も、するんだよな」
「そのつもりだ」
まさか、そこまで話していると思っていなかったらしく、驚きに目を見開きながらもギイが答える。
「そっか…」
そこで突然、利久がギイの胸倉を掴み上げた。
そして、そのまま拳を大きく振り上げた。
「利久っっ!?」
「片倉っっ!!」
慌ててぼくと章三が駆け寄ろうとしたのを、他でもない胸倉を掴み上げられているギイが視線で制した。
「ギイッ!絶対!絶対の絶対に!託生を幸せにするって誓えるかっ!!!」
「ああ、誓う。託生を絶対幸せにする!」
正面から利久の視線を受け止めてキッパリと答えたギイに
「絶対に大事にするって約束しろよっ!!!!!」
「わかってる」
「頼んだからなっ!」
「ああ、安心してくれ」
途端、振り上げていた拳を下げ、掴み上げていた腕も解いて利久が、ホッと息を吐いた。
「はぁぁぁ、よかったぁ。あ、赤池も、ちゃんと聴いてくれてたよな?」
「ああ、聴いた」
「そっか、良かった。本当に良かった」
そう云うと、今度は床に居住まいを正して正座をすると両手を突いてギイに頭を下げた!
「不束者ですが、託生をどうぞ宜しくお願いします」
「利久…」
と、ギイも同じく正座すると
「こちらこそ、至らないところも多々ある未熟者ですが、精一杯託生を大切にします。そして、託生と一緒に幸せになります」
そう云うと頭を下げた。
「うん、一緒に幸せに、なるから…」
慌てて、ぼくもギイと並んで一緒に頭を下げた。
「って、片倉。お前は花嫁の父か…」
ボソリと赤池君が呟いた。
「違うって。俺はね、花嫁の兄、の気分なの」
エヘンと胸を張って利久が云う。
「って、ね。大体、なんだよ"不束者ですが"って。利久に云われたくないんだけど」
照れくさくて、そんな悪態をつくと
「え〜。だってさ、定番じゃん。ああいう時のお約束っていうかさ。な、な?そうだよなぁ?赤池」
「まぁ、確かにお約束な台詞ではあるな」
ニヤリとしながら章三が答える。
「あ、けど。気持ちは本当っていうかさ。フツツカモノはともかくさ。他は、全部俺の本心だし。俺、託生の事、好きだし。って。そのそういう意味じゃなくて、さ。前にも云ったけど、託生とは一生友達でいたいって思ってるしさ。で、それって、託生が男でも女でもさ、関係ないなって思ってさ。でもって、そう思ったら、絶対、ギイにちゃんと云っとかなきゃって思ってさ。俺の大事な親友、預けるんだからなって。だから、絶対大事に幸せにって思ったからさ…って、俺なに云ってんだろ?や、その、さ…」
先程のギイを掴み上げた迫力はどこへやら、自分の言葉に
真っ赤になって照れる姿はいつもの利久で。
けど、そんな利久に胸の奥の方がじんわりと温かくなってきて、おまけに目の奥がツンとなって涙がこぼれた。
「としひさ、あり、が、と」
そういうのが、精一杯のぼくの頭をぽんぽんと叩きながら
「あ、赤池。証人なんだからな」
「ああ、わかってる」
そう云うと、2人で安心したように笑い合った。




その夜。
ギイのゼロ番でソファにギイと二人並んで座って。
今夜のぼくの好みにピッタリな少し甘めのコーヒーを淹れてくれたギイは、ぼくの頭を胸元に引き寄せながら
「託生、本当に良い親友だな」
「ぼくの自慢の親友なんだ」
「俺も章三も、まだまだ、だなぁ」
「だったら、ぼくも、かも」
「そうなのか?」
「ん。ちょっと、だけだけどさ。やっぱり、微妙に距離ができるのかなって、考えたんだよね」
「俺、本当に殴られるかと思ったよ」
「ぼくも、ビックリした。利久って、絶対に手とかさ、上げたりしないって思ってたし。けど、後で聞いたら、ギイの返事に一瞬でも迷いとかあったら、殴ってたってさ」
「へぇ、そうだったんだ。良かった、殴られなくて」
「だね」
「で、その後が、な〜」
「うん、だね」
「けど、オレ、嬉しかったなぁ、アレ」
「そうなのかい?」
「ああ。その、つまりさ。オレ、ちゃんとって云うかさ。そういう挨拶ってしてないっていうかさ。出来ないもんだと思ってた…からさ」
「あ…う、ん。それは、そう、だね」
ぼくの両親にギイがああいう挨拶をする事は、決してないから…。
「けどさ〜、なんかケジメっぽくて、日本の文化としてななんか、良いな〜ってアメリカ人のオレとしては、憧れたりとかする訳だ」
殊更に明るく茶化すようにギイが云うから、ぼくも
「Cool Japanな感じ?」
「そ、Cool!」
「いいね、確かに」
「だろ?」
「じゃ、利久に、感謝、だね」
「ああ、片倉に感謝、だな」

言葉の上では茶化しながらも、ギイが本心から感謝しているのが伝わってきて。
そして、それは、勿論ぼくもで。

「なぁ、託生」
「なに?ギイ」
「誓いのキス、しよう?」
「誓いの?」
「そう。2人で一緒に幸せになるって誓い」
「うん、一緒に、ね」
「ああ、一緒に、だ」
そう囁くと、優しくそぅっとキスをした。


ねぇ、利久。
本当に、利久には感謝している。
1年の時も、今までも。
そして、これからも…。


ぼくにとっても、利久は掛け替えのない大切な親友だから、だから、ぼくも。
利久にもぼくに負けないほどの幸せが訪れる事を願いながら。
そして、その為にぼくに出来る事は何でも協力すると心に誓った。


大切な君へ。
永遠(とわ)の友情に…

〜Fin〜




遊奏舎の翔 拓実さまからいただきました、Life設定の『永遠(とわ)の・・・』です。
あぁ、友情物〜。
ギイや章三の心配もわかるけれども、やっぱり付き合いの濃い分、託生くんのほうが利久をわかっていたようですね。
託生くんを泣かせた時には、利久お兄ちゃんの鉄拳が飛んでくるってことで(笑)
結婚時の挨拶ができた事、ギイは、とても感謝していると思います。
翔 拓実さま、素敵なお話をありがとうございました。
りか(2010.12.17)
 
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