ashtray (2003.4)
「ギイ………?」
ゆっくりと注意深くベッドを降りたはずのオレの背後から、掠れた囁くような声。 無意識だろうか、うつ伏せになったまま伸ばした左手で、隣にいるはずのオレを探す。 その仕草が子供のようで、クスリと笑った。 「ちょっとシャワー浴びてくるよ」 伸ばされた手に口付けを落とすと、うっすらと目を開け 「……え…………」 先程と変わらない掠れた声で呟く。 「なに?」 「……がえ………左の………クロー…ゼットの………な………か…………」 最後まで言い終わらないうちに、眠りへ戻っていった託生を、不粋な質問で起こすのは忍びない。 「左のクローゼットが、どうしたって?」 ベッドと反対側の壁。作り付けのクローゼットを音を立てないように開けると、そこにはオレの鞄が置いてあった。 昔、まだ日本とNY、離れ離れで暮らしていた頃、託生の部屋にそのまま置いていったオレの荷物だ。 ゆっくりファスナーを開けて、中の物を取り出す。 きちんと畳んだ着替え一式。それと、黒いシンプルな灰皿。 「お前、灰皿をこの中に入れるなよ」 言いながら、託生らしい合理的な行為に笑みが浮かぶ。 「ギイ専用なんだよ」 と言いながら、来日したオレの前に出された灰皿。 もちろん、託生の部屋には別の灰皿があった。 でも、それは”友達用”だと、託生は笑いながら言ったもんだ。 ベッドに置ける事までは考えていなかっただろうが、幾分小さめのこの灰皿は、託生が選んだ事もあってオレのお気に入りだった。 「NYまで、わざわざ持ってこなくても………」 でも、その心が愛しい。 オレとの思い出を大切に持っていてくれた、最愛の恋人。 「もう一度、使わせてくれよな」 あどけない寝顔に囁き、煙草に火を灯した。 なんとなく、勢いだけで書いてしまいました(笑) 考えたら、ギイってすっぽんぽんのまま、煙草を吸ってたと言うことで(爆) ギイだから、いっか(なんで?!) (2004.4.21) |