Station 補完の補完
またもや、書いてしまいました。
こうであってほしいシリーズ第二弾(違) 補完の続きです。 OKなかたのみ、ずずずいっと下に進んでください。 顎を伝って落ちた汗が、託生の頬を濡らした。気付いて託生が目を開け、幸せそうに微笑む。 「託生……託生………」 この部屋のドアを開けた瞬間から何度も重ねた口唇は赤く色づき、甘い吐息が途切れることなく耳に届いて、オレの脳内をかき回す。 欲望のまま何度も突き上げ、夢ではないことを確かめた。この腕の中にいる託生が、幻のように消えてしまいそうで。 倒れこむように横たわったベッドの下には、邪魔だとばかりに脱ぎ捨てた服が、そのままの状態で存在しているだろう。 「ギイ…っ……あいた…か………」 涙の膜を張りながらも健気に微笑みを浮かべる託生に、胸が痛む。 突然消えたオレに、どれだけ悲しませたことだろう。バイオリンもなく、八方塞がりの中、託生自身の力でひとつひとつ解決していき、音大に入学後も努力して交換留学生の切符を手に入れたかを想像すれば、感謝の言葉しか出ない。 「オレも託生に会いたかった。ずっと託生のことを想っていたよ。………ありがとう。ありがとう、託生」 オレを追いかけてきてくれて。 もう力も入らないだろうに、肩に回した腕がオレを引き寄せた。 「ギイ……ギイ………愛してる」 「あぁ、オレも、愛してるよ」 摺り寄せた頬。お互いの輪郭さえ曖昧になるくらい、ぴったりと重なっているはずなのに、まだまだ足りない。オレの全てが託生を求めていた。 それは託生も同じらしく、口唇を耳に触れさせ、 「………ギイが……欲しい………」 消え入りそうな小さな声でオレを強請ったのと、オレが深く託生の体に分け入ったのは同じタイミングだった。 「あー、すまん、託生」 無茶をしすぎたせいで、ベッドから起き上がることも困難な状態になってしまった託生に頭を下げた。 自分でも途中からヤバイと思っていたのだが、どうしても止まらなかったのだ。 「別にいいよ。明日は日曜日だし、ぼくだって……ギイが欲しかったんだし」 赤くなった頬を隠すようにシーツをずり上げた託生の仕草に懐かしさを感じ、額にキスを落とす。 2年会わない間に、やけに色っぽくなって、さぞ日本ではモテただろうと簡単に想像できるのだが、シャイなところは相変わらずのようだ。 汗に湿った黒髪を指で梳いていると、うっとりとオレに身を任せていた託生がパチリと目を開け、なにか言いたげにオレを仰ぎ見た。 「どうした?」 「あのさ、ギイ」 「うん?」 「付き合ってる人、いないの?」 「…………はぁっ?!」 オレ達、今、なにしてた?2年ぶりに再会して、愛を確かめ合ったんじゃないのか? なぜか、頭痛を感じる。 これが、ピロートークだと考えたくないのだが、相手は託生だ。そういうことは、関係ないのだろう。 「オレ、愛してるって言わなかったか?」 「聞いた。でも、ぼくが初恋だと言うわりには海千山千だったんだろ?」 不思議そうに痛いところを突かれ、ウッと絶句したオレを見上げ、 「今、そういう仲の人がいるんだったら、どうしたらいいのかなぁと思って」 恨み節を言うつもりはなく、単純に状況を把握しておこうという託生に深い溜息を吐いた。 口調に、これっぽちもジェラシーが混じっていないのは、信じてくれているのか、それとも、本当に気にしていないのか。 ジェラシーも恋のスパイスだと、いつ気付いてくれるのだろう。 「そういうヤツはいないよ」 「一人も?」 おい、そこに突っ込むか? 「誰も、いない。NYに帰ってきてからは、誰とも付き合ってない」 「別に体だけの関係でも、ぼくは怒らないけど」 だーかーらーっ! 託生の言葉にガックリ肩を落とし、力なく託生を見た。 お前、自分の恋人をどう思ってるんだ?昔はともかくとして、託生を抱いた現実があるのに、他の人間でオレが満足できるわけがないだろうが。好きでもない相手を抱くほど、空しいことはないからな。 「あのな。オレは、この2年、誰ともSEXしてない。する気も起こらなかった。託生じゃないとダメなんだよ」 「そ……そう、なん、だ」 昔からSEXという言葉を、はっきり口にすると必ずうろたえていたが、納得させるためには仕方ない。それに事実だしな。 「託生、自分の恋人にひどくないか?」 「ごめん。そうだとばかり……」 「おい、フォローになってない」 「あ、いや、うん、ごめん」 ウロウロと視線を巡らし、自分の失言にわたわたしている託生に悪戯心が沸き起こり、素早く託生の体を組み敷いた。 「おしおき決定」 「うわっ、ギイ、もう無理!今日はダメ!ギイっ!……んっ」 抵抗に固くなった体を抱きしめ、ついばむように何度も角度を変えて口唇を重ねて、癒すようにゆっくりと体を撫でさする。 さすがに、託生は体力の限界だろう。今夜は、オレの腕の中で眠ってほしい。 とろんとした託生の瞼にキスを落とし、頭の下に腕を通して抱きしめる。 「ギイ……」 「眠いんだろ?ここにいるから寝ろよ」 「う……ん………」 「おやすみ、託生」 オレの腕の中で。 聞こえてきた静かな寝息に誘われるように、オレも目を閉じて託生の香りを吸い込んだ。 夢の時間の再来じゃない。 託生は、オレの腕の中にいる。 (2014.2.1) |