タダより高いものはない? (2003.5)
夕食もお風呂も済み、只今夜の10時。
後は寝るだけと明日の用意をしていて気が付いた。 「英語の宿題、忘れてた………」 ベッドに寝転がって液晶テレビを見ていたギイが、あんぐり口を開ける。 「お前、あれだけ時間があったのに、何やってたんだ?」 委員会も元から予定なんて入っていなくて、今日一日ぼくは部屋でうだうだと過ごしていたのだ。 ギイはと言えば、松本先生の用事やら何やら、一日中学校内を走り回ってついさっき帰ってきたところ。 心配だからといつもぼくを連れ回していたが、珍しく今日の行動は別々だった。 ギイの言い分は尤である。 「だって、忘れてたんだから、しょうがないだろ?」 でも、そう言われれば、反論したくなるのが世の常で。 翻訳5ページ分の宿題を手に、思わず口調が強くなってしまった。 「ほぉ、託生は一人で宿題がしたいんだな」 「え?」 「そうか。せっかく、オレが見てやろうと思ったのに、残念だな」 「あ……いや………その………」 「頑張れよ」 「ギイ!」 液晶テレビに視線を戻したギイのパジャマの裾を、遠慮がちに引っ張る。 「なんだ?」 「ぼくが悪かったです。ごめんなさい。教え下さい」 消灯まで1時間。英語が苦手なぼくとしては、頑張っても2ページが限界だ。 と、百も承知のギイはチラリとぼくを見て、 「タダより高いものはないんだよ、託生くん」 ぼそりと呟き体を起こした。 「え?」 「ま、託生のお願いだからな、仕方がない。見てあげよう」 素直に謝ったぼくに満足したのか、やれやれとスリッパを履いた。 「だから、ここがこうなって、助動詞が………」 「あ………あのね、ギイ」 「なんだ?」 「教えてくれるのは嬉しいんだけど、普通に教えてくれない?」 「普通に教えているじゃないか。どこか不満か?」 「不満じゃなくて………」 ギイはぼくの背後に立ち、背中に覆い被さって、教えてくれていた。 ギイが喋るたび、わざと寄せられた頬に熱い息がかかり、心臓がドキドキと跳ね上がって英語どころではない。 「あの、だから、ギイも椅子に座って………」 「ヤダ」 「はぁ?」 間髪いれずに即答したギイを振り返り、マジマジと見詰めてしまった。 ギイは屈めていた体を伸ばし、腰に手を当て上から拗ねた表情でぼくを見下ろす。 「椅子に座るって事は、託生から離れろって事だろ?」 「離れろ………って、数センチの距離じゃないか」 「例え何ミリでも、離れたくない。それが空気でも託生との間を邪魔する奴は、許さない」 …………呆れてしまう。単なる、駄々っ子じゃないか。 「ギイ、もしかして子供?」 頬を膨らませても可笑しくないギイの態度にクスリと笑うと、ギイはじろりと睨んだ。 その表情が、いつもの超然とした態度から余りにもかけ離れていて、笑いが止まらない。 ギイってば、可愛い。 不服な顔でぼくを見ていたギイが、何かを思いついたように不敵な笑みを浮かべた。 「オレ、子供か?」 え………? 「ギ………ギイ?」 身動きが出来ないようぼくを椅子ごと抱き締め、そのままぼくの首筋をきつく吸って、ゆっくりと舐め上げる。 「ちょっと、待っ………んっ!」 背筋にゾクリと電流が流れ、仰け反って露わになった喉元にキスを落としながらギイはシャツのボタンに手を掛けた。 「子供はこんな事しないよな、託生」 「わかった!わかったから!……ぁ………」 「だから、なに?」 シャツに滑り込んだ悪戯な指先が、ぼくの乳首を掠める。 ぼくの思考に霧が掛かっていく。 「愛してるよ、託生」 「ん………」 ぼくの顎に手を掛け、真上から口唇を重ねる。 いつもとは違うキスの角度に、戸惑うぼくの下唇を舐め、上唇を啄ばみ、ゆるくなった隙間から熱い塊が遠慮なく入ってきた。 くすぐる様に舌先を玩び、徐々に息が出来ないくらい深く絡め、ぼくの口唇から甘い雫が零れ落ち喉元を濡らしていく。 「ギ………イ………」 それを追って頬を口唇で辿りながら、シャツのボタンを全部外し、パジャマのズボンに手を入れた。 「あ……ダメ………」 「ダメじゃないだろ?………託生、こんなになってる」 少し息の乱れたギイの言葉に、体が熱くなっていく。 ゆうるりとなぞられビクリと跳ねた瞬間、机からバラバラと音を立ててペンが転がり落ちた。 今までの甘い空気に似つかわしくない大きな音に、一気に頭が覚醒する。 「ギイ!まだ宿題終わってない!」 突然叫んで腕を振り解いたぼくを、あっけに取られたようにギイが見下ろす。 「お前、ここまできてお預けかよ?!」 「明日、ぼくが当たったら、どう責任取ってくれるんだよ?!」 「お前なぁ………」 宿題を忘れていたのはぼくの責任で、ギイには何の責任もありません。わかってはいるけど、このまま流されると明日地獄を見るかもしれない。 呆れ返って眺めるギイを他所に、乱れたシャツを調え椅子を引く。 「自分でするから、もういい!」 「はいはい、わかりました。でも、託生一人じゃ明日の朝になっても終わらないだろうから、手伝ってやるよ」 言いながら自分の椅子を引っ張ってくると、ぼくの横にすとんと座る。 散々文句を言いながらも、相変わらずぼくに甘いんだから。 「ありがとう、ギ………」 「その代わり、今日は5回な」 「へ?」 ボソリと呟かれた言葉に、ぼくはシャーペンをぽろりと落とした。 「タダより、高いものはないんだよ」 ニヤリと笑ったギイの横顔に、 「悪魔!!!」 と叫んだのは、無意識のことであった………。 タダより、高いものはない。 どうせ身を持って経験するなら、別の事柄で知りたかった。 次からは、宿題忘れないぞ!!! なんとな〜く、椅子ごと抱き締めている状態が思い浮かびまして、こんなギャグになってしまいました(笑) って、これくらいなら、充分オモテだよね? キスしかしてないし。あ、ちょっとお触りもしてるか(爆) さて、この夜、託生くんは眠ることが出来たのか、否か………。 一度、訊いてみたい(爆) (2003.5.7) |