副社長、始動

「ほら」
 差し出された徳利に、仕方なく猪口を手に取った。
 有無を言わさず連れ込まれたのは、ちょっと古い小料理屋。
「やっぱり冬は熱燗に限るな」
 一気に飲み干して手酌しようとしているのを見て、慌ててお酒を注いだ。
「似合わないですね」
「何が?」
「何もかも」
 このお店も、ぼくが隣に座っているのも。
「そうか?オレが和食が好きなのは知ってるだろ?」
 心外だと言うように片眉を上げ、「飲め」とぼくに目で勧めてくる。
「それで、お話というのは何でしょう、副社長?」
 連日残業続きで、やっと今日は早く帰れると思ったのに、
「晩飯付き合え」
 どこから出現したのか、さっさとぼくの腕を取り送迎の車に押し込まれた。
「とりあえず、オレと託生のこれからについて…かな?」
 ……この男、殴っていいですか?

(2011.3.27 小話ついったー)
 
PAGE TOP ▲