それら、すべていとしき日々・・・

「思ったんだけどさ〜」
ひょろりとした長身のぼくの親友、片倉利久が見た目通りの、のほほんとした調子で切り出した。
が、瞳は微妙にキラキラとまるで悪戯思いついた子供みたいに見えなくもない?
「託生ってさ〜。ひょっとして、結構なスーパーウーマンってことになるんじゃないかな〜って」
「はぁ???」
「片倉、それはないだろ」
「ないな」
「ああ、ないない」
む。
そりゃ、ぼくだって、自分のことをスーパーウーマンだなんて全く思ってなんかいないけど、ここまでいっせいに全否定されるとなると、やっぱり、それはそれで面白くない訳で。
しかも、利久はぼくの親友で、この祠堂においては、一番付き合いも長く(なんといっても、ぼくの最初の同室者で入学式より前からの付き合いなのだから)ぼくのことをとてもよく解ってくれている人でもある…筈だ。


ぼくが男性でなく女性だったという事を、残り少ないとはいうものの、卒業までのその期間をつつがなく過ごす為にも、同室者であり前生徒会長でもある三洲新と、ギイの相棒であり、ぼくがこうなる前からの協力者でもある赤池章三や事情を打ち明けた利久と平沢伸行とも相談の上、各階段長の面々には話しておく方が得策だろうと、事情については説明してあった。
まぁ、同時に、彼らの恋人にも伝わるのだけど…だって、恋人にこんな事で隠し事をしているとか何とかって揉め事のタネになっても困るし…いずれにしても誰も面白半分に吹聴して回るような、そして、この話にたじろいでしまう様な人間はいないという事もあるということもあったけど。
以来、ぼくの事情を知っている面々が、時折こうしてギイの300番に集まっては気兼ねなく過ごせる時間を設けてくれていた。
ぼくが気を遣わなくて良い様にとの配慮だろう、だれもそうとは言わないで、受験の息抜きだと称してはいたけれど、きっと本当の所は多分そうで。
正直、受験で大変な時に申し訳ないとは思うのだけれど、やっぱり、何かと色々慣れなかったり、嘘や誤魔化しが苦手でヒヤヒヤ・ドキドキしてしまうのは、いかんせんともしがたいぼくとしては、偽らなくて良い、というのは有難いことだったりするので、甘んじて皆の好意に甘えさせてもらっている。


今日は、珍しくフルメンバーが揃っていて、300番は飽和気味。
「片倉、お前が葉山の親友だってのは解るが、それは流石に贔屓目が過ぎるというか…」
矢倉が皆の意見を代表して云う。
ぼくには、めっきり評価の甘いギイでさえ、矢倉の意見に異を唱える事はしないくらいだ。
「え〜、だってさ。託生って、身長とか普通じゃん」
「ああ、普通だな」
「でも、それって男子の普通、だろ?」
「あ…」
「な〜!それって女子としたら、背、高いって事じゃんか。でも、全然太ったりはしてないし。っていうか、今までの悩みって筋肉がつかないとか何とかって体重も、だったろ?ようするに、モデル体型ってことじゃんか」
「そう、なるの、か?」
「あ〜、ナルホド」
いっせいに、視線が集まる。
で、上から下までジロジロと…
「コラ、お前ら。ジロジロ見過ぎだ」
憮然とした声でギイが抗議の声を上げる。
「いいだろ、減るもんじゃなし」
「減る!」
「っぷ。…葉山君、大変だね〜。この調子じゃあねぇ。矢倉も、その位にしておいた方が良いんじゃない?」
「けど、体型だけじゃん」
とそこへ情け容赦ない正直な高林泉の声が割って入る。
言外に、"顔は大した事ないじゃないか"と云われているようで何とも微妙な気持ちにならなくもないけれど、何せ美少女そのものな泉に云われると説得力がありすぎて…。
「違うって!」
うわ、利久、無謀だ。
「じゃなくて、顔はさ、そりゃ、まぁ、フツーって云うかあれだけど。あ、託生、ブサイクとかって云ってるんじゃないからな。だから、じゃなくて、見た目だけじゃなくてさ、託生、今まではさ、自分は走るのが苦手で、そんなに速くもないしって云ってたじゃん?」
「あ〜、そうか!そういうことか!!」
え?なに、なに?ぼく以外の全員が、いっせいに感嘆の目でぼくを見てる?
「葉山君って、持久走でも短距離でも、タイムって確か平均位だったよね」
「そうだけど。八津君、よくぼくのタイムなんて知ってたね〜」
「去年さ、学年全員のタイムの統計を取るのを、手伝ったんだよ。で、去年のスポーツテスト持久走でギイが走ってる時に君と赤池が伴走したろ?あれ結構な噂になってたから、気になって、葉山君のタイム、確認したから」
「そうか、男子の平均で走れるんだな」
「それって、スゴイじゃん!」
どうだ!って感じで自分の事のように利久が自慢げに胸を張って皆を見回した…ぼくの話だよね。
頑張って走ったの、ぼくなんだけどなぁ。
「云われてみれば…納得だね」
吉沢が頷けば、
「なるほどな」
「そうなるか」
三洲に章三までもが、うん、うんと頷く。
挙句、矢倉は
「そうか、となると。葉山、本当にスーパーウーマンだな」
とさも感心したかの様に云う。
「な〜、だろだろ」
「だね〜」
「嬉しくないからね」
完全冷やかしモードの面々に、なるべく素っ気なく云う。
「またまたまた〜」
「脱!平凡!じゃんか」
「いいんだよ、ぼくは平均・平凡でっ」
「けど好かったよね〜、葉山。ギイがこんなに育ってくれて」
泉の言葉に皆が、なんだ、なんだと振り向く。
「高林君、なんでギイが育ってるのが良い事なんだい?」
嫌な予感があするのか、恐る恐るといった風に吉沢が尋ねる。
そして、得てしてこういう時の予感って外れることは無く…
「えー、だって。ウェディングドレスとか着た時に葉山がヒール履いてもバランス取れていいじゃん。やっぱ、男の方が背が高い方がビジュアル的に格好いいだろ〜?」
ウ、ウ、ウ、ウェディングドレスーーー!!!!!!
だ、誰が!?
なんでっっ!?
驚愕のあまり声も出せずに口をパクパクさせるぼくに
「しっかり、葉山。気を確かに持て」
伸行が目の前で手を振りながら苦笑している。
「た、高林君っっ!それは、その、なんていうか…それは、そうなんだけど、でも、そんなことを、いま、こんなところで…っていうか、あの、葉山君、ごめんね。悪気とか、はないんだけど、その…」
しどろもどろながらも、泉をガードするように吉沢が、その華奢な姿を背にかばう。
「凄いな、サスガ!高林と云うべきか」
「超、爆弾発言だね〜」
「託生がウェディングドレス???…」
「託生のウェディングドレス…(うっとり)」
「まぁ、それなりに見栄え、しそうではあるな」
「み、三洲?」
「なんだ?赤池。別におかしくないだろう?」
「いや、まぁ、そりゃ、そうなんだが…ギイと葉山の、葉山が…?」
「あ〜、葉山君?大丈夫?」
八津にも心配気に顔を覗き込まれて、ようやく我に返る。
「ダイジョウブ、だ、けど…え、と、その…」
どう反応して良いものか判断できかねて、戸惑う。
「ま、なんにせよ。お前らの結婚式には招待しろよな」
と、矢倉がニンマリ笑うと
「あ、俺も俺も!」
「だよね〜。俺達にも祝福させてよね」
利久と野沢が加わる。
「ああ、当然だろう。あ、コラ、三洲、拒否るなよ。招ぶからな」
ギイが悠然と微笑んで答えると
「ま、葉山とは同室のよしみでもあるしな。崎、借りにしといてやる」
負けじと微笑んだ。
「葉山が、ドレス…はやまが…」
いまだイメージが湧かない…ぼくだってだ…らしい章三が何やらブツブツ呟いていると
「俺達がどういう格好してたとしても、だ章三」
ギイが呆れ声で云った。
そんなこんなを見ながら、矢倉が一際大きな声で、
「けど、この中じゃ、ダントツ!高林が似合いそうだな!去年の姫姿もバッチリ綺麗だったしな〜」
「その話、嫌な事思い出すからやめろよな!僕が綺麗なのは仕方が無いとして」
「ぶっ」
「そこは、否定しないんだな、高林」
「高林、サイコー」
「祠堂一の美女の座はダントツで高林のもんだ!」



こうして、祠堂学院の夜は今日も平和に更けていったとかいかなかったとか




遊奏舎の翔 拓実さまからいただきました、Life設定の『それら、すべていとしき日々・・・』です。
オールメンバー登場!
卒業間際の友人たちとの一時。
みんな離れ離れになるのがわかっているからこそ、残り少ない時間を楽しんでいるんですね。
特にギイと託生くんは、これから先なかなか会うことが叶わなくなくなりますし。
翔 拓実さま、楽しいお話をありがとうございました。
りか(2011.1.6)
 
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