がんばれ桜井さん 番外編?

「しまった!」
慌ててオフィスを出ると、右手一つ目の角辺りに副社長と託生さんが並んで歩いているのが目に入り安堵の溜息を吐いた。
副社長のガードもその辺りにいるのでしょうが、託生さんのガードは私の仕事ですから。
この5年託生さんの側にいて仕事をしてきましたが、あんな嬉しそうな笑顔を見たのは初めてかもしれません。それに、いつも気難しい顔をしていた副社長が歳相応に見える事も。
「本当に仲良さそうなお二人ですね」
少し離れた位置から二人の後を追っていると、
「だって10年ぶりですもの!」
「そうらしいですね……え?」
私の独り言に背後から答えが返ってきました。

「あれでも、ギイ、我慢してるのよね〜」
「託生君だって満更じゃないし」
「「ねーっ」」
いつの間に、背後を取られたのでしょうか。桜井、一生の不覚……。
ところで、この方達はどなたなのでしょうか?
「あの……?」
お二人のご友人?
「桜井さんと一緒にお買い物ツアーでぇす♪」
「え、どうして私の名前を?!」
「あ!二人が行っちゃいますよ!桜井さん、急がなきゃ!」
「は、はいっ!」
両腕を取られ、お二人が入られたスーパーの入り口を目指して言われるがままに走りこんだのですが、これは両手に花と言うよりは連行という言葉が似合うような……。
しかし、どなたなんでしょうか?

「ギイってば一泊なのに、あんなに籠に入れちゃって」
「でも、夜食がいるでしょ?」
「そうよね。お腹空いちゃうわよね。『今夜は寝かせてやらない』って」
「キャーーーッ!」
あの、お嬢様方。
ものすごくスーパーで目立っているんですけど。
「お二人は、副社長と託生さんのお知り合いですか?」
「二人が高校生の時から、よく知ってますよ」
「「ねーっ」」
そうですか。お二人の古いお知り合いですか。
……副社長と託生さんの出身校は男子校だったような。

引きずられるようにスーパーに入ったところまではよかったのですが、副社長と託生さんが購入した品物を全てチェックしつつ、同じ物を私の持っている籠の中に放り込み、尚且つお二人の後を素早く追っている姿は手馴れているとさえ言えます。
しかし、別にお鍋の材料を私まで買う必要はないと思うのですが。独り者に、この大量の食料は空しいだけです。
会計を終え、また二人の後をつけ、託生さんのマンションに入ったところで本日の業務は終了…なのですが。
「あー、楽しかった」
「桜井さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様…でした?」
だから、このお二人は何なんでしょうか。

「じゃ、行きましょうか」
「はい?」
行くって、どこへ?
「ギイと託生君が食べるのと同じお鍋、私達が作りますので、桜井さん一緒に食べましょ♪」
「いえ、そんな事は…」
「遠慮しなくていいんですってば。これから先、絶対!!桜井さん苦労するんですから。私達からの壮行会ですよ」
「いえ、そんな、見ず知らずの方にご迷惑をお掛けするわけには…」
「どうせギイも託生君も、今夜は一歩も部屋から出ませんから。ガードのお仕事は終わり!桜井さん、行きましょ♪」
「いえ、あの…」
それよりも、これから私が苦労するのは決められているのですか?どうして、この方達が、そんな事を知っているのでしょうか?
「桜井さん、早く早く」
……お願いですから、引っ張らないでください。
END
 
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