幕間(2010.11)

「ただいま、託生!」
「お帰り、ギイ」
 ノックもなしに鍵がカチリと解除され、子供のような表情で飛び込んできたギイに、ぼくはまるで305号室にいるような既視感を感じ反射的に返事をし振り返った。
 しかし、仕立ての良いスーツ姿のギイに現実を思い出す。
 ギイは嬉しそうに笑うと大股でぼくに近づき、ギュッとぼくを抱きしめる。
 ほのかに香る甘い花の香りと耳に響くギイの鼓動。懐かしさに目を閉じると、ただいまのキスが降ってきた。
 口唇を軽く吸って「愛してるよ、託生」ギイが愛おしげに呟き、ぼくの返事を待たずに今度は深く深く舌を絡め、抱きしめる腕に力を込めた。
 背中に廻した腕でギイを引き寄せ、求められるがままぼくも積極的に応えていたのだが、思考が掻き乱されるような危ういキスに、頭の中が白く霞んでくる。
 爪先立ちしていたぼくの足がカクンと落ちた時、ギイはやっとぼくを解放し肩口に額を押し付け溜息を吐いた。
「ギイ………?」
「なんだか305号室に帰ったみたいだなと思って………」
 少し震えた声。
 もしかして、ギイ、泣いてるの?
 ぼくだけに見せる、素顔のギイ。
 昔より完璧なポーカーフェイスを崩して、ありのままの自分を見せるギイが可愛く見えた。
「なぁ、もう一回『お帰り』と言ってくれないか?」
 甘えた声で強請るギイにクスリと笑い、
「お帰り、ギイ」
 ギイの耳に口を寄せて囁く。
「託生、もう一回」
「お帰り、ギイ」
「………………すっげ、嬉しい」
 ギイは頬を摺り寄せ、感動したように呟いた。


 ―――――――――――――そして、30分後。


「………ねぇ、ギイ。ぼくそろそろお腹が空いたんだけど」
「託生、もう一回だけ!」
「………………もう一回だけだよ?お帰り、ギイ」
「託生〜〜〜〜〜〜」



バカップル、万歳?
(2010.11.5)
 
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