瓦礫の下で(2010.12)

 ズズンと壁を背に座り込んだ床から地響きのような振動と、パラパラと小石が落ちるような音が耳に届いた。
 真っ暗な闇の中では何も見えないけれど、空気が埃に包まれているのは感覚でわかるものだと、他人事のように考えている自分に苦笑する。
「音楽堂に閉じ込められていた時のようだな」
「こんなに揺れてはなかったけどね」
 こんな状況なのに、のんびりとしていられるのは、ぼくの右側から肩を包み込むように抱いている男のせいだ。
「無事に出られるかな?」
「出られるさ。オレ達、世界最強の恋人同士だもんな」
「復縁したつもりはないけど?」
「オレは別れたつもりもなかったぞ」
 笑いを含んだ声が髪を揺らし、安堵とも呆れとも区別がつかない溜息が出る。
「楽しんでないかい?」
「託生と二人きりってのは久しぶりだからな。はしゃいでいるかも」
「………はしゃがないでよ、閉じ込められてるのに」
 しかも、このビルさっきの爆発で崩壊しそうなのに。
 ぼくのボヤキに小さく噴き出し、
「託生だって、そうだろ?」
 確信的な答えを持っているのに、今更ながら聞いてくる。
「なにが」
「オレと二人きりで嬉しくない?」
「どうせだったら、こんなところじゃない方がいいけどね」
「そうかそうか。こんなところより、柔らかなベッドの方がよかったか」
「あのね」
 命の危険が迫っているというのに、なにをのん気な事をと半ば呆れつつ、この場の空気を和らげるためにわざと茶化しているであろう配慮に感謝する。ぼく一人では、もうすでにパニックだ。
 しかし、本気が混じっているように聞こえるのは、気のせいなのだろうか。
「託生」
「な………んっ………」
 口唇が柔らかなもので塞がれた。懐かしい、ギイの口唇。何度も角度を変え口唇を啄ばんでいた舌先が口を開けろとノックする。誘われるがまま薄く開くと、熱い塊がぼくの舌に絡み付き、背中に回された腕がきしむような強さでぼくを抱きしめた。
 もう、ダメだ………。
 見て見ぬふりをしていた恋心が一気に胸に溢れかえり、無我夢中でギイを追う。
 口唇をずらして息を継ぐ間際「愛してる」と囁かれて「ぼくも」と夢見心地で返し、長いキスから開放されたときには、冷たいくらい濡れた感触を頬に感じた。
 そのまま広い胸に引き寄せられ、少し速い鼓動が耳に響く。
「絶対、帰るぞ」
 託生と二人で。
 力強いギイの言葉に、ぼくは深く頷いた。

「ということで」
「ん?」
 ギイは抱きしめる腕を緩め、胸元をゴソゴソと探った。ふわりとつく小さな灯り。
「ここはガス漏れもオイル漏れもないようだから。ちょっと託生持っててくれ」
 渡されたライターをぼくが手に取るのを見届けると、ギイはかがんで足元から何かを取り出した。
「それ………」
「まぁ、護身用?」
 威力はないが、このくらいのドアなら。
 言うなり、ギイはドアに向かって一発ピストルを発射した。
 金属のひしゃげた鋭い音がし、ギイがドアに近づき勢いをつけて蹴飛ばすと、使い物にならない鍵が弾けとんだ。
「あまり弾を使いたくないからな。一発で壊れてよかった」
 そう言いながらぼくの手を握り、ライターの火をフッと消す。またもや暗闇になった室内。
「引火する可能性があるから」
「わかった」
 それに、もう逃げてはいるだろうが、ぼく達を閉じ込めたヤツらがまだいるかもしれない。
「行くぞ」
 ギイの声を合図に、ぼくはギイの手を握り返した。



会話だけじゃないけど、唐突に始まって唐突に終わるということを考えれば、会話カテゴリーかなぁと入れてみたけれど。
会話カテゴリーじゃなくて脳内妄想カテゴリーに変えたほうがいいのかな?
んん?じゃ、日記の脳内妄想もここ?
とりあえず、背景は決まってないので、お好きなように妄想してくださいませ(笑)
(2010.12.31)
 
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