Before It's Gone Too Far(2010.10)

 『秋モード突入の弁当を皆で試食する』
 そんな名目で屋上に集まった中には、託生がいた。
 いや同伴者一名のルールに、章三が託生を連れてくることは承知の上だ。
 しかし、物言いたげな託生の視線を感じつつ、完璧なポーカーフェイスを被り、友人達との会話を楽しむ振りをする。
 ………オレを見ている間は、託生の心がオレだけになっているのを、心の内で喜びながら。


「すまん、遅れた」
「いや、急な事だったから、かまわない」
 5時限目終了後、「………放課後、10分空けてくれ。屋上な」と有無を言わさぬ章三の言葉に、オレは用事をそこそこに屋上に来ていた。
 グラウンドの横の通路には、まだまばらに数人の生徒達が寮に向かっている。
 章三は内ポケットから何かを取り出し、
「ほら」
 と、オレに寄越した。
 その紙片を見て、眉が潜む。
「………またか」
「そう、今朝、朝食時に渡されたんだとさ。知らない1年に」
 第三者的な言いように、疑問が浮かぶ。
「章三が取り締まったわけじゃないのか?」
「………葉山だよ」
「託生?」
「ギイに、渡しといてくれって」
 昼食会の時に、渡せば早かったというものを。
 柵にもたれかけ、意味深に続けた言葉にオレは視線を反らした。
 そんなオレを見て、章三は一つ大きな溜息をつき、
「あのな、葉山が甘いのをいいことに、振り回すなよ」
「………何か、聞いたのか?」
「聞いてない。原因の見当は薄々ついてるがな、お前は、葉山に甘えすぎだ」
「………………」
「葉山が、僕やギイみたいに言われたことを額面どおり受け取らず、裏を考えて対処する人間じゃないのを知っているだろ?ギイが何を言ったのかは知らないが、どうせ葉山に理不尽な事を言ったに違いない」
 そうだな。
 オレに会えて嬉しいと全身で物語っていた託生を、受け入れたように見せかけ突き放した。そして、今日もわざと託生の視線を無視し、託生の心を振り回した。
 あまりに的確な章三の指摘に、返す言葉が見つからない。
「なにを焦ってるんだ、ギイは?」
「焦ってるように、見えるか?」
「あぁ、見える。まるで………二年前に戻ったかのようにな」
 章三の言葉に唇を噛む。
「葉山が口下手なのは、お前がよく知ってるんじゃないのか?それとも何か。なんでもかんでも今日一日あったことを話せ、なんて言ってるんじゃないだろうな?ギイの独占欲が生半可なもんじゃないのは知ってるが、行き過ぎると相手には重荷になるぞ」
「………わかってるさ」
 わかってはいるけれど、渡辺綱大の事はショックだったんだよ。
 まだオレは、あいつの兄貴を越えられない。超えているつもりだったのに、それが独りよがりの思い込みだったのに気づいて呆然としてしまったんだよ。
 託生の一番近くにいると思っていたのに、そうではない事実に………。
 オレの焦燥しきった顔を見て、
「とにかく、葉山と話をしろ。今日は温室にいると言っていたからな」
 僕の話はそれだけだと、章三は片手を挙げドアの向こうに消えていった。
 内ポケットから煙草とライターを取り出し、火をつけた。深く紫煙を吸い、白煙を目で追いながら心を落ち着かせる。


 なぁ、託生。
 どうしたら、お前の一番になれる?
 あの時、兄貴がライバルだと言ったが、もしかしたら、オレこそがライバルなんて位置に着いていないのかもしれない。
 でも、二度と離せないんだ。
 お前の温もりをこの手で知ってしまったときから、オレはお前を手放すことなどできやしない。
 短くなった煙草をもみ消し、これからのスケジュールを頭に浮かべ、全てをキャンセルする為に計算する。
 一刻も早く、託生をこの腕に抱く為に………。




原作を読んでいるときに、たまに頭の中で繋がらないときがありまして;
正直に言うと、3年夏休み編からちょくちょくありまして、そんなとき自分用に補完するんです。
で、これが、それでして。
『誘惑』の昼食会のその後です。
ってか、自分が理解する為なんで、基本テキストの中は会話だけなんですけどね;
これが、補完になるのかどうかは、本当の所わかりません。
タイトルはT-Squareより。話と違って、軽い曲ですけど(笑)
(2010.10.4)
【妄想BGM】
⇒Before It's Gone Too Far(動画サイト)
 
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