FILE (2001.9)
夏休みが始まって二週間。オレは毎朝託生の家に、国際電話を入れていた。
日本時間で午後十一時というところであろう。 「そろそろ寝ないと、明日起きれないだろ?」 "うん、そうだね" 「じゃ、オレの夢でも見て、ゆっくり休めよ」 "うん" 「愛してるよ、託生」 受話器越しに、軽いキスを送る。 "うん、ぼくも………愛してる" 「じゃな、おやすみ」 "うん、おやすみなさい" 託生が受話器を置くのを確認して、ラインを切る。 託生はこの頃、ためらいなく受話器を置くようになった。オレが心配するのがわかっているからだ。でも、それはそれで、少し寂しい気分になる複雑な男心。 仕方ないよな。託生を愛してるのだから。 「しかし、託生の声で一日が始まるのは、気分がいいよな」 オレはメールチェックをする為に、パソコンの電源を入れた。程なくアウトルックがUPされ、何通かのメールが届く。 「あれ?」 見覚えのある、アドレス。確かこれは………。 『いい物を見つけたので、送ってやるよ。 三洲』 やはりな。………しかし。一体何を送ってきたと言うんだ。 興味津々、添付ファイルを開ける。そこには………。 「………………何考えてるんだ、奴は?」 デスクトップ一面に広がる、男のヌード。それも、裏ときた。 「………ったく。オレはゲイじゃないんだぞ!」 口では文句を言いながら、しかし目の前の画像から目が離せない。なぜなら………。 「………託生に似てるよな………」 そうなのだ。雰囲気が託生に瓜二つなのだ。溜まりに溜まりまくってるオレには、生唾物の一品だった。 「託生の方がもっと色っぽくて可愛いくて、肩がもう少し撫でやかで………」 オレはじっと画像を見詰めると、もう一度受話器を取った。リダイヤルを押し、ラインが繋がるのを待つ。コール五回。 "はい、葉山です" 「あ、託生?」 "………ギイ?" 「すまん。寝てたか?」 "ううん。まだ起きてたけど、どうしたんだい?" 「今度、写真撮らせてくれ!」 "………は?" 勢い込んで言うオレに、託生は拍子抜けしたような声で応えた。 「だから!今度写真撮らせてくれって言ってるんだよ」 "急にそんな事言われても………" 「ダメなのか?」 "いや、別にそういうわけじゃなくて" 「じゃ、いいよな?」 "いいけど………ぼくも欲しいなって思って………" 「何が?」 "ギイの写真" 「オレの?」 "うん。だって文化祭の写真と集合写真しかないから、あの………" なるほど。交換条件には使えるよな。 「いいぜ、幾らでも撮ってくれ」 "え、ほんとに?" 「あぁ、オレの写真、託生にやるから、写真撮らせてくれよ、な?」 "うん。いいよ" ヤリッ!オレは心の内で、両手を挙げて叫んだ。 「じゃあ、今度デートする時にな」 "わかった" 「じゃ、今度こそおやすみ」 "うん。おやすみなさい" 受話器を置いて、ニヤリと笑う。 オレは、どんな………とまでは言ってないからな。一筋縄では行かないだろうが、男に二言はないもんな、託生? 「そうそう、これはその時までの代用品と言う事で」 もう一度パソコンに向かい、画像を隠しファイルに保存する。 そうだ。ノートにもあとで送っておく事にしよう。世界中どこでも見れるもんな。 もう、オレの頭の中は、託生のヌードで一杯だった。 あぁ、もうそろそろ島岡が来る時間だ。今日は、途中でデジカメ買いに寄ってもらう事にしよう。 「おっと、忘れ物」 オレは終了しようとして、手を止めた。 三洲への返信。 『Thank you』 しかし、あいつどこでこの写真手に入れたんだ?やはり三洲は謎に包まれた男だ。 パソコンを終了させて、スーツの上着を取る。 どう託生を説き伏せようか。オレは楽しい算段に頬を緩め、部屋のドアを開けた。 |