ハロウィンなんて大嫌い!(2007.10)

 勝手知ったる愛するアラタさんの部屋。
 ………の認識の中に、ぼくの部屋でもあるということが存在しているのだろうか。
「こんばんはー!」
 ノックと同時に今日も賑やかな真行寺が、270号室に入ってきた。
 いいかげん慣れたけどね、ぼくも。
 土曜日の午後10時、特に外出する予定もなかったぼくは、早めに夕食を食べ270号室で寛いでいた時だった。
「三洲くんなら、まだ帰ってないよ?」
「こんばんは、葉山サン。それは、知ってるっす」
「じゃあ、何で?」
 へへへと笑いながら、真行寺は抱えてきた紙袋からケーキ屋の箱を取り出して、
「お世話になっている葉山サンにお土産」
 と、かぼちゃのタルトを差し出した。
「外出してたんだ。でも、いいの?」
 三洲くんを差し置いて、ぼくが貰っても。
「ちゃんと、アラタさんの分も買ってきてあるから」
 どうぞ、どうぞ。
 ニコニコとタルトをぼくに渡し、真行寺はインスタントコーヒーを入れだした。
 もちろん、こちらも勝手知ったる………以下、略。
「じゃあ遠慮なく、いただきます」
 夕食を早めに食べたおかげで、少し小腹が空いていたのだ。
 この部屋にケーキ皿とフォークのような高尚なものはないので、行儀は悪いがアルミ部分を持ってパクリと噛り付く。
 サクッとした生地に、まったりとした甘さのかぼちゃが絶妙なタルトに、幸せな気分になってくる。
 甘いものが得意じゃないぼくだけど、さつまいもやかぼちゃのような自然の甘みは、大好きなのだ。
「美味しい。秋の味覚だね」
「そうでしょ?この時期はかぼちゃが美味しいですもんね。ってか、麓に下りたら、そこら中かぼちゃだらけで、絶対買わなきゃ!って義務感が出てきたんすよ」
「義務感って……」
 拳を握り締めて力説する真行寺に、笑ってしまう。
 そんな義務、ないだろ?
 笑ったぼくに、顔の前で人差し指を振って、
「だって街中、ハロウィンですから」
 当然のように言った。
「………あぁ、ハロウィンね」
 オレンジと黒の何となく不気味な色合いの、ぼくにはあまり馴染みのないイベントだ。
 ギイは、そうでもないのかな?
「でも言うほど、ハロウィンって日本に浸透してないよね」
 クリスマスやバレンタインはイベント化しているけど、ハロウィンは一部の人だけのような気がする。
「確かに、店側の策略で無理矢理やってるって感じっすよね」
「この時期イベントがないから、仕方ないんじゃないかな」
「だいたい、『Trick or Treat?』って家を回るような、治安の悪いことできませんって」
 そりゃ、そうだ。
「あ、葉山サン、これ見てくださいよ」
 言いながら真行寺は紙袋から、50pほどの長さの黒くて細い棒のようなもの出した。
 先には尖った鍵先みたいなものがついてある。
「なに、この漫画ちっくな矢印は?」
「小悪魔の尻尾っす。かわいいっしょ?」
 と言いながら、同じような矢印が2つ付いた、カチューシャも取り出した。
「どうしたの、これ?」
「雑貨屋の店先に置いてあって、買ってきたっす」
「ふ〜ん」
 ビニール素材でできているらしく、振ればビヨンビヨンと釣竿のようにしなるようになっている。
「これをですねぇ」
 と言いながら、真行寺はカチューシャを頭に付け、尻尾をズボンとベルトの間に挟みこんだ。
「じゃ〜〜〜〜ん!」
「ぶっ!似合う似合う!」
「そうっすか?!」
 真行寺はくるくる回りながらポーズを取り続け、王子様然とした顔とのあまりのギャップにぼくの笑いが止まらない。
「でも小悪魔っていうより、バイキンマンみたい」
「はっひふっへほ〜〜〜!!」
「あはははは!止めてよ!お腹が………!」
 大受けしたぼくに気を良くした真行寺は、お尻を振りつつ尻尾を揺らしながら、「俺、可愛い?」しなを作る。
 とたん、
「全然、可愛くない」
 ここにはいないはずの人間の声が響き、ぼくと真行寺は飛び上がらん位驚いた。
 そして恐る恐るドアを振り返ると、そこには呆れた表情の三洲とあからさまに憮然としたギイ。
「アラ………タさん………」
「ギイ………」
 笑い転げてドアが開いたのに、二人とも気付かなかったようだ。
 何故ギイがいるのかは不明だが、ギイに気付かなかったぼくに拗ねているのか、はたまたヤキモチを焼いているのか。
 ムスッとした表情をして腕を組み、ドアにもたれかかっている。
 この空気、怖すぎる………!
 三洲は固まっているぼく達にツカツカと近寄り、
「こういうのは」
「いてっ!」
 真行寺から乱暴に小悪魔グッズを取り上げ、優しい手つきでぼくの頭とベルトに取り付けた。
「葉山の方が似合う」
「へ?」
「そう思うだろ、崎?」
 そして、わざとらしくギイに向き直り、ぼくを前に押し出した。
「ギ……ギイ………?」
 ギイの目が、据わっている。
 なんか、とてつもなく嫌な予感がして怖いんですけど。
「三洲、貸しにしておいてくれ」
 言うなり、ギイはぼくの腕を掴みドアを開けた。
「ちょっ………ギイ!」
 こんな物つけたまま廊下に出るなんて、勘弁してくれよ!
 助けを求めるように三洲を振り返るも、
「了解〜」
 三洲はヒラヒラと手を振り、内側からドアが閉められ、無情にもカチリと鍵まで掛けられてしまった。
 三洲くん、ひどいよ〜〜。
 ドアを振り返るぼくの耳元に、
「明日は休みだし、今夜は一晩中オレの部屋で小悪魔になってもらおうか」
 世にも恐ろしい爆弾発言が落とされ、嫌な予感は現実になることが確定した。
 ゼロ番に付くまで、誰にも会わなかったことが、不幸中の幸いだったかもしれない。
 
 
ギイタクなのに、ギイが二言しか喋ってな〜〜い(笑)
託生くんと真行寺のコンビって、結構好きなんですよ。
出来はいいが、ヤキモチ焼きで我侭な恋人に振り回されている同志って感じ?
この後は、ご想像にお任せします。
(2007.10.6)
 
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