階段長の秘密会談(2010.10)

 毎週恒例の階段長会議。
 ギイの機嫌もそこそこの今夜は、俺こと矢倉、ギイ、吉沢、野沢、赤池のベーシックメンバーで開催されていた。
「そういえば、ギイ、明日の土曜日、麓のドラッグストアで、ローションティッシュが特売だって」
 温室手前のベンチに腰掛け、野沢が隣に座るギイに話しかけた。
「どうする?」
「うーん、他の日用品の買い置きもしておきたいから、自分で行くよ。サンキュ、政貴」
 そして。
「吉沢は?確か、弓道部、試合前の練習だよね?」
「あ………野沢君、頼んでいいかい?」
「いいよ。どうせ駒澤が荷物持ちについてくるし」
「政貴、それは荷物持ちじゃなくて、デートだろ?」
「そうとも言う。吉沢、1箱?2箱?」
「1箱で」
 ギイの突込みを軽く流し、野沢は吉沢から千円札一枚を受け取った。
 当たり前のようなやり取りに、素朴な疑問。
「お前ら、ティッシュに拘りがあるのか?」
「柔らかいからね」
 と、微笑む野沢。
「てか、ギイも、それ使ってるのか?5箱198円のティッシュ探してたケチケチの男が?」
「柔らかいからな」
 今更何を言う?と顔に書いたギイ。
「吉沢も?」
「うん」
 二人に同意し、何故か真っ赤になる吉沢。
 む、もしかしてローションティッシュを使わない俺が、時流に乗っていないのか?
 胸に手を当てて考えてみる。そして、ハッとして、赤池を振り返った。
「もしかして、赤池もそうなのか?!」
「僕は、普通のティッシュだよ」
「と言いつつ、実家ではローションティッシュ使ってるだろ?」
 赤池はうーんと嫌そうに応え、「んなわけないだろ?!」ギイを睨んだ。
 いったい、何なんだこいつら。
「矢倉、珍しく鈍いなぁ」
「ギイ先生、俺にもわかりやすく説明してくれ」
「肌に優しいのが一番だってことだよ」
 ニヤニヤと笑うギイ、仏様のような微笑を浮かべた野沢、耳まで真っ赤になった吉沢。
 三人の顔を順番に見て………やっと読めてきた。
 あー、鼻をかむ用じゃなくて、あっち用だな。
 ギイと吉沢は最愛の恋人の為の気遣いだろうが、野沢は………。
 まじまじと見詰めてしまった俺の視線に、
「俺、痛いの嫌いだから」
 野沢は、にっこり微笑んだ。
 ………そうだ。こいつは、こういう奴だった。駒澤も苦労するなぁ。
「それで、矢倉も買う?」
「頼んでいいか?」
「もちろん」
 たかが、ティッシュ。されど、ティッシュ。
 そうだよな。八津も柔らかい方がいいよな。
 財布から千円札を出して「よろしく」と、野沢に渡した。
 あー、恋人との付き合いの長い分、こいつら色々と勉強しているなぁ。後で、ギイにジェルの種類、こっそり教えてもらうことにするか。



 俺達階段長4人がローションティッシュを使っているという噂は、瞬く間に祠堂中を駆け巡り、生徒達の要望を受けて購買部が取り扱いを始めたのはそれからまもなくの事。
 わざわざ麓まで降りなくとも買えるようになったのは有難いが、やっぱり消費量が半端ない俺達は、野沢の特売情報を心待ちにしている。




ティッシュがなくなりクローゼットからストックを出した事から始まりました。
ふと305号室のティッシュの消費量が気になり、やっぱり買ってくるのはギイだろうな。ん?5箱1セットを麓から買ってくるのか?でもティッシュって何度も使うと痛いよな………って事は、鼻セ●ブ?
とグルグルしていたら、野沢君が「当たり前だよ」と微笑み、こうなりました。
自分の頭ん中を考えると、何故か、すごく哀しくなりました。
(2010.10.29)
 
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