SKY (2006.7)
屋上のドアを開けたとたん、さぁっと頬をくすぐる様に風が吹き抜けた。
そろそろ梅雨が終わり本格的に夏の季節。 爽やかな緑の香りが風に乗り、ぼくの鼻孔をつく。 バイオリンの練習を忘れていたわけではないけれど、なんとなく一人になりたかったぼくは、第一校舎の屋上へ足を向けた。 雲一つない晴天。 澄み切った空をぼんやり眺めると、去年ギイと過ごした日の事が思い出された。 「よくこうして、二人で屋上にいたっけ」 去年の事を懐かしむなんて、ぼくも歳を取ったかな。 ふと下を見ると、栗色の髪が校舎から出てきた。 「ギイ………」 あっと言う間に待ち構えていた一年生に取り囲まれ、質問攻めにあっているようだ。 『一学期もあと少しだから夏休みの予定を聞き出そうと、あいつらも必死だからな』 章三が、気の毒そうに言っていたのを思い出す。 「相変わらず、大変だね」 クールに対応している横顔に、疲れの色が感じられる。 「少し休んだ方がいいよ、ギイ」 伝えることもままならない状況だけど、いつも君の心配をしているよ。 いつだって、君の事を想っている。 しばらく見ていると、一年生の相手をしていたギイが、また校舎に入っていく。その場に残された人間は、残念そうに視線を合わしバラバラと散っていった。 「忘れ物でもしたのかな?」 ギイの行動が気になりながらも、もう少し見ていたかったなと、呟いてみる。 誰の目も気にしないでギイを見ているなんて、なかなか出来ないことだから。 キィ………。 背後からドアが開く音が聞こえた。 何気無く振り返ると………。 「ギイ………?」 「やっぱり託生だ」 嬉しそうにぼくの側に寄ると、包み込むように確かめるように優しく抱き締めた。 「どうして?」 さっきギイは一度もぼくを見なかったはずだ。それなのに………。 「託生の視線を感じたんだよ」 「え?」 「なんとなく託生が屋上から見ているような気がして、慌てて来てみたらやっぱり託生がいてさ」 弾む息を整えるように、腕にぼくを閉じ込めたまま深呼吸する。 「あぁ、託生の匂いだ」 急な展開に跳ね上がる鼓動を抑えつつ、抱きしめられるままギイの広い胸に体を預けた。 懐かしい花の香りが、ぼくを包み込む。 「託生………」 呼ばれるまま顔を上げると、眼鏡を外した素顔で近づくギイの唇。 「ん………」 目を閉じ、軽く啄ばむように二度三度、そして濡れた舌先に促され薄く唇を開くと、腰に回った腕に力が込められ、熱い塊が誘い出すように絡みつく。 「ギ………イ…………」 キスの合間に呼ぶと、一層深く奪われ頭の中が霞んでいった。 「託生………愛してる………」 そう呟いて、名残惜しそうに離れた二人の間には、透明な糸。二人の熱くなった体を冷ます術は、思いつかなかった。 ギイの手が愛しそうにぼくの髪をかき上げ、愛撫するように頬を滑る。 「今夜、いいか?」 「………うん」 もう一度見つめあい、約束のキス。 ぎゅっと抱きしめられ「また、あとでな」と、ギイは離れていった。 ドアが閉まるのを見届けて、その場にズルズルと座り込む。 「重症だよ、ギイ」 歩けるようになるには、もう少し時間がかかりそうだ。 ギイとの距離は離れても、二人の気持ちは変わらない。 抱きしめあう回数が少なくなった分、ギイへの想いが大きく膨らんでいく。 「好きだよ」 ギイの笑顔のような空に、そっと呟いた。 閉鎖しているにも関わらず、遊びに来てくださりありがとうございます。 おかげさまで、10万HITになっていたようです(汗) お礼と言ってはなんですが、キスしかしてないギイタク(汗)をお送りしました。 1年ぶりくらいに書いたので、試行錯誤です………。 (H18.7.9) |