月に捕らわれた君(2002.8)*Night*

上記『蒼い月』の続編です。
ギイ×タクではありますが、設定がオリジナルですので、苦手な方はご遠慮ください。
 
 
 
「………き」
 夢と現の狭間でゆったりと身を投げ出していたぼくの耳に、小さな呟きが聞こえた。
 うっすらと瞳を開けると、月明かりの中に佇む君の裸体が、透き通るガラス細工のようにキラキラと映った。
 窓の外に浮かぶのは、蒼い月。
 あぁ、今夜も君は誰かを想い出しているんだね。
 何時、気が付いたのだろうか。
 汗に濡れ、熱く激しく求め合ったあと、ぼくが寝入ったのを確かめて君は窓辺に寄る。そして蒼い月を、切ない瞳で見つめるんだね。
 誰かと重ねている………。
 何事にも鈍いぼくだけど、それだけは直感でわかったんだよ。
 ねぇ、ギイ。
 捕われるほど、愛しい恋人だったの?どれだけぼくが君を想っても、忘れられない人なの?
 パサッ………。
 ぼくの肩からシーツが流れ落ち、ハッと我に帰ったようにギイはベッドを凝視した。
「起きていたのか?」
 何も答えずベッドから抜け出し、窓辺へと寄る。
 シーツで体を隠すこともなく近づくぼくを、ギイは不安そうな瞳で見ていた。
「託生………?」
 蒼い月とギイの間に割り込むように窓へ背を向け、ギイと向かい合わせに立つ。
「愛してる、ギイ」
 ぼくだけを、見てよ。
 誰よりも君を愛してる、ぼくを見て。
 熱く絡む視線が近づき、口唇にギイの吐息を感じた。
 何度も重ねたキスがしだいに深く入り込み、体中の力が抜けていく。
 片手でぼくを抱きながら、ギイはカーテンを閉めた。
「愛してる、託生。お前だけだ………」
 自分に言い聞かせるように囁くギイに、「もっと!」とキスをせがんだ。広い背中に廻した腕で、ギイを引き寄せる。
 そんなぼくに煽られて、唾液に濡れた口唇を荒い吐息で犯していたギイの手が、すっと腰へと移り、そしてその奥に隠されている秘所を指先で撫でた。
「は………ぁ………」
 ぼくを覗き込み同じ高みに向かっていることを悟ったギイが、片足を抱え上げ一気にぼくを貫く。
「あぁ!」
 立ったままの不安定な状態で、でも数時間前にギイを受け入れていたぼくの入り口は、いとも簡単にギイを飲み込む。
「託生………託生………」
 ぼくの背中を支えながら激しく揺さぶるギイに、快感とも違う安堵のため息が零れる。
 ぼくが温めてあげるよ。
 例えぼくの体温が奪われようとも、君を守ってあげる。
 蒼い月の凍えた光に、君を奪われたりはしない。
 今、愛しているのはぼくなのだから………。
「あ………っ!」
 熱いモノが、より一層ぼくの中を深くえぐる。
「もう………ギ………ギイ…………!」
「くっ………託生………」
 迸る君の精を体の奥に受け止め、ぼくも自ら上り詰めた。
 
 
  
「託生………ごめんな」
 もう立ってはいられないぼくを支え、髪にキスを埋めてギイが呟いた。
 謝らなくていい。
 ぼくだけを見てくれるように、もっと深く君を愛すから。
 静かに微笑んだぼくに一瞬驚いた表情を浮かべたギイは、ふっと優しく目を細め、
「誘うなよ、託生」
 囁きながらぼくを抱き上げ、もう一度想いを確かめるためにベッドに向かった。
 
  
 ぼくが、ずっと君を温めてあげる………。
 
   
 その夜、ぼくは蒼い月から愛しい人を奪い返した。
 
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