オレの腕は君の為にある(2010.9)

 珍しく託生から「今夜行ってもいい?」とメールが入り、喜び勇んで「もちろん!」と返信し待っていたのだが、部屋に入ってきた託生は可愛い顔を曇らせ、どことなく怒りを漂わせていた。
 オレ、何か怒らせるようなことしたか?
 あれこれ思い出してはみるが思い当たるフシはない。
 あらかじめ用意してあったコーヒーをテーブルに置いて託生の横に座り、当たり前のように唇を寄せると、
「ギイ、上着脱いで」
 唐突に命令された。
「たっくみくん、大胆だなぁ」
「はぁ?」
「遠慮すんなよ。上着だけじゃなく全部脱いでもいいぜ」
 これ見よがしに緩めていたネクタイをスルリと抜くと、曇らせていた顔を赤く染め、両腕を振って必死に否定した。
「バ………バカッ!上着だけでいい!上着だけで!」
「残念」
 上着を脱ぐと、託生はオレの右袖のボタンを外しシャツを捲り上げ、
「ギイ、こうやって」
 自分の右腕を直角に折り曲げる。
「こうか?」
 託生は硬くなった上腕筋をペタペタと両手で触ると、ガックリ肩を落とした。
「どうしたんだよ?」
「今日、クラスで机に誰か座ったまま持ち上げられるか?ってのをやっててさ」
「は?」
「持ち上がらなくても、みんな手前が浮いたり奥が浮いたりしてたんだけど、ぼくだけうんともすんとも言わなかったんだよ」
 歯を食いしばって一生懸命踏ん張ってる託生の可愛い姿が思い浮かんで、思わず微笑が浮かびそうになって顔を引き締めた。
 ………つもりだったのだが、潤んだ瞳に赤い顔で「なんだよ」と睨まれているところを見ると失敗したらしい。
 わざとらしく「コホン」と咳払いをし、
「それで託生は、オレの上腕筋が気になったのか?」
 コーヒーを一口飲む。
「気になったっていうか、ギイが力持ちなのは知ってるし、筋肉があるのも知ってるんだけど、どうやって鍛えてるんだろうと思って」
「オレは特になにもしてないぞ」
「そうだよねぇ。ギイが運動しているところなんて、体育の時間しかみたことないもんね」
 そう言いながらも、納得がいかないと託生は顔に書いた。
 オレとしては、早く甘い時間を楽しみたいのだが、託生がこうなると納得するまで話は終わりそうにない。
 渋々ながら、お付き合いすることにした。
「別にいいじゃん。託生は前腕屈筋群が人より鍛えられてるんだし」
「ぜんわ………なに、それ?」
「ぜんわんくっきんぐん。ここだよ。腕の肘に近いとこ」
 カップをテーブルに置き、託生の腕を取って、肘を挟んだ上腕の丁度反対側を撫でた。
「ここ?」
「そうそう。ちょっと上着脱いで袖を捲ってみろよ」
「うん」
 素直に上着を脱ぐ託生に、いつもこうなら時間が短縮できるのにと、少しばかりイケナイことを考えつつ託生の腕を掴んだ。
「んで、掌を下に向けて腕を伸ばして………グッと拳を作って」
 拳を作った託生の腕に、くっきりとした筋肉の筋が入る。
「わっ!」
「だろ?楽器やってる人間は、ここが鍛えられるんだよな。ついでに託生はバイオリンだから、もれなく右側の三角筋も鍛えられてる。ちなみにここな」
 右肩の前面をポンポンと叩いた。
「そうだったんだぁ」
 託生は掌を握ったり開いたりしながら、嬉しそうに自分の腕を見る。
「だから、持ち上げる力がなくても、持ち上がった状態を維持する力は強いと思うぜ」
「そういうことか」
「そういうことなんです。納得したか?」
「うん!」
 にっこり笑った託生に今度こそと肩を抱き寄せ唇を近づけると、急に真剣な表情を浮かべ、
「じゃあバイオリンの為に、筋トレしたほうがいいのかな?」
 呟いた。
 ヤメてくれ!マッチョな託生でも愛せるけど、今の託生が丁度いい!抱き心地が悪くなるだろ!
 と言えば、託生の機嫌が確実に悪くなるのは必至。
「別にそこまでしなくてもいいだろ?佐智だって筋トレなんかしてないぞ」
 平静を装って当たり障りのないことを言っておく。
 託生、もう筋肉話はいいだろ?オレは早く甘い恋人の時間に突入したいんだよ。
「このままでいいのかな?」
「そのままでいいって」
 納得していない顔をした託生の両膝に腕を差し入れ、ふわりと持ち上げる。そして文句を言いかけた唇を塞ぎ、大股でベッドに移動した。
 オレの上腕筋は、この為にあるんだよな。
 託生をベッドに押し倒しながら、ニンマリと笑った。



筋肉筋肉って………(汗)
昨日の勢いで書いたものの、なんでこんな話になってしまったのでしょうか。
まぁリハビリがてらに。
困ったおもちゃ箱行きのような気もしますが、一応3年生なんで;
珍しくタイトルが後付です。
(2010.9.8)
 
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