指先の軌跡(2010.9)

 愛を交換し、気だるく満ち足りたアフタータイム。
 秒針とシーツの衣擦れの音だけが響く深閑とした空気に、異空間に二人で閉じ込められたような錯覚に陥る。
 託生の肌の温もりだけがリアルに浮かび、これが夢ではないとオレに知らしめた。


「ギイの指、好きだな」
 託生の少し湿った前髪を弄ぶようにかきあげた時、託生が言った。
「暖かくて力強くて優しくて………」
 頬に移動させたオレの右手に左手を重ね、託生は夢見るような表情でうっとりと呟く。
 綺麗だな。
 カーテンから漏れた月の光が、託生の顔を浮かび上がらせ、乾ききっていない汗を反射した。
 「指だけか?」からかうと「指だけじゃないけど」と恥ずかしげに目を伏せる。
 誘ってるつもりはないんだろうな。
 わかってはいても、甘い疼きが体を支配し始めたのを感じ苦笑する。
「オレも託生の指、好きだよ」
 託生は閉じていた目をぼんやりと開き、答えを促した。
「背中に託生の存在を残してくれるから」
 クスリと笑いながら、託生の指先にキスを送る。
 ポカンとしていた顔が徐々に赤く染まり、
「ギイのバカ!!」
 殴られる寸前、笑いながら託生を抱きしめた。


 お前は知らないだろう。
 背中に痛みを感じるたび、腕の中に託生がいる幸せを噛み締めているのか。
 背中に残る指の痕を見るたび、至高の喜びに打ち震えているのか。
そして、己の運命の奇跡に感謝しているのか。


「愛してる。心も体も、託生の存在全てが………」
 耳元で囁いてそっと腕を放す。
「ぼくも………愛してる、ギイ」
 指を絡め、赤く染まった唇にキスを落とす。


「もう一度………託生………」


 二人の吐息が、月明かりに溶けていった。



まだフォルダ整理中であります。
纏まりが悪いような気もするけれども、気力がないので、以前に書いたのをそのままアップ。
ギイってM?と思いつつ書いた記憶が………;
(2010.9.10)
 
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