やっぱり困っていたんです(2010.9)

「あ、雨」
 窓際の席に座っていた託生の声に、オレは窓の外に視線を移した。
 今日の降水確率は30%。しかし、梅雨が近いこの時期は、いつ雨が降ってもおかしくはない。
「山の天気は変わりやすいからなぁ」
「これ以上、降らなきゃいいけどね」
 しかし願いは空しく、学院前のバス停に着いたときには、どしゃぶりの雨になってしまっていた。
「託生、走るぞ!」
「うん!」
 二人で桜並木の中を音を立てて走る。顔に容赦なく雨粒が当たり、雨量の激しさを物語っていた。
 寮の玄関に駆け込んだときには、案の定二人とも頭からずぶ濡れになってしまい、全身からポタポタと雫が落ちる。
「もう、ベタベタ」
 言いながら、託生は靴と靴下をその場で脱ぎ、ロビーに足を踏み出した。
 その時、目に飛び込んできたのは、雨を吸って肌に張り付いた白いポロシャツと………。
「託生、待て!」
「え?」
 思わず、自分の上着を託生にガバッと着せ掛けた。
「なに?」
「いいから着ておけって」
「これ重いし冷たいんだけど」
 そりゃ、雨を吸ってるんだから、重いし冷たいだろうな。でもな、ロビーには数人とは言え、他の人間がいるんだぞ。
 そんな格好を他人の目に晒すほど、心が広いわけがない。というか、オレでさえ、まともに見たことがないのに!!
「ギイ?」
 キョトンと小首を傾げてオレを見る託生の可愛らしさと鈍感さにクラリと眩暈を感じるが、それよりも、この場から一刻も早く託生を連れ出さなければ、オレの理性が危うい。
 オレは託生を急き立てて階段を上り、305号室のドアを開く。
「ほら、早くシャワー浴びて来い」
「ちょ………ちょっと、ギイ?」
「ほら、早く」
 託生をバスルームに追い立てると、オレは力なく椅子にどっかりと座った。心を落ち着けようと深呼吸するものの、先程見た光景が頭から離れない。
 白いポロシャツに透けて見える、託生の乳首。
 小さくてほんのりピンクで控えめに存在する、託生の乳首。
「託生の………乳首」
 思わず声に出てしまい、慌てて口を覆う。
「ダメだ。忘れろ忘れろ。忘れるんだ」
 自己暗示をかけたところで全くもって効果はない。こんな時ほど己の知能指数の高さを有難く………いや恨めしく感じることもない。
「託生、ごめん、当分おかずになるかも」
 シャワーの音が響くドアに向かって、オレはパンと手を合わせた。




ギイのキャラ、相変わらずヘタレてる;;
おまけを書いていたのですが、おまけでは収まらなかったので「とにかく困っていたんです」として、アップします。
笑って許していただければ、光栄です。
(2010.9.28)

《追記》
『困っていたんです』をカテゴリー分けしました。
(2010.9.29)
 
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