Station 補完

Stationネタバレ、含んでます。
というか、あの終わり方は、原作として納得はしてるんですが、私としては、もう少し先まで読みたい!
ということで、勝手に補完しました。
すみません。やなんです。ずっとラブラブでいてほしいんです。
なので、読了後すぐ一気に書き上げたので、話としてどうかな?とか、文章おかしいぞというところがあると思いますが、目をつむっていただければと思います。
Stationを読まれていない方は、読まれたあとに、お越しください。
OKなかたは、ずずずずいっと、下に進んでください。




















 リムジンの窓から見える景色は、変わり映えのないNYの街並みだ。
 あの日から2年。常に監視の者がつき、意図的に日本へ渡る時間を削られ、オレはFグループ後継者の道に戻り、忙しい日々を送っていた。
 これが、リアル。本当のオレ。少しばかり寄り道をしても、必ず戻ることが決められていたんだ。
 祠堂に留学したのは、幼い頃、この胸に芽生えた初恋に終止符を打つためだった。
 苦い顔をした両親を説得し、2年生が終わったと同時にNYに戻ることを条件に日本に渡り、確かにオレはそれに納得していた。2年間、同じ学校で過ごし、この恋を諦めることに。
 まさかオレの気持ちを託生が受け取ってくれるとは思っていなかったから、そんな条件に頷いたんだ。そして、後悔した。
 いつか来るタイムリミットを忘れるように託生を求め、日に日に増す愛しさに心を震わせ、永遠に続いてほしいと願ったあの楽園の日々。
 伸ばしに伸ばした夢の時間の終わりは、あっけないものだ。
 文化祭のあの日、寮の屋上から階段へと続くドアから朝比奈が覗き見ているのに気付いたオレは、託生にキスをした。お前の入る隙間は、これっぽちもないんだとわからせるために。
 何度も好きだと言われ、そのたびに拒否し、ついには託生の身にまで危害が及ぶようになっていたから、いい加減オレもイラついていたのだ。
 しかし、オレ達のキスシーンを見た朝比奈は、引き下がるどころか逆上し、オレに殴り掛かってきた。
 人ひとりくらい、どうってことはない。
 あまり面倒を起こしたくない時期ではあったが、ここで終わらせてやると、殴り返そうとしたとき、運悪く、島岡に『屋上にいる』と聞いて階段を上ってきた絵利子が悲鳴を上げた。
 愛憎にまみれた朝比奈には、オレが大切にしている人間なのだとすぐにわかったのだろう。
 瞬間、矛先を変えた朝比奈が絵利子に走り寄ったのを見て託生が二人の間に滑り込み、朝比奈に背を向け絵利子を抱きしめ、
「託生っ!」
 そして、託生は朝比奈の拳を受け絵利子を抱きかかえたまま、階段の下に落ちていった。
 呆然とドアの前に立ち尽くした朝比奈には目を向けず、
「託生!しっかりしろ、託生!」
 駆け下りて呼びかけるも、託生は意識を失ったままだ。頭を打っている可能性もあるから、抱き上げることもできない。
 しかし、絵利子を追いかけてきた島岡が教師の数人を呼んできて、託生の側に付き添うこともできずに、その日のうちにジェットに乗せらて絵利子共々NYに連れ戻された。
「島岡、託生は?」
「意識は戻られたようです」
「そうか………」
 その後、あの賑やかな文化祭とは天と地ほど差がある静かな自室で、オレはぼんやりと島岡の報告を聞いた。
 夢の時間の終わり。
 後日、送られてきた寮の部屋にあった私物の中にストラディバリがあるのを見て、あの日預かっていたのを思い出し慌てた。
 このままでは、託生は音大に受験できない。
 しかし、託生に送りたくても、交友関係の一切の連絡を断ち切られ軟禁状態になったオレには、どうすることもできなかった。
「託生………」
 幸せだった。幸せな日々だった。
 託生がオレに笑いかけ、キスをし、抱き合い、愛の言葉を囁いた。
 まるで、あの日々が幻だったかのように、遠くかけ離れた異空間に、一人で立っているようだ。


 リムジンが本社ビルのロータリーへと侵入する間際、角に立っていた人影が視界に入った瞬間、ざわりと心が揺れたような気がした。
 まさか……!
 咄嗟に振り向き、リアウィンドウのカーテンの隙間から遠くなるその姿に、
「止めろ!」
 心が叫んだ。
 オレが間違えるわけがない。オレがお前を間違えるわけがない。
 急停止したリムジンのドアを乱暴に開け、その小柄な姿に駆け寄った。
「た………」
「追いかけてきたよ」
 託生が笑う。あの日と変わらぬ笑顔で。
 オレの脳裏を、あの愛しい祠堂の日々が走馬灯のように駆け巡る。
 もう、二度と会えないと思っていた。託生が追いかけてきてくれるとは、夢にも思わなかった。
 震える指先が、託生の頬にたどり着く。温かい体温に幻ではないのだと、これは現実なのだと、回転の鈍い頭で理解する。
「託生……」
「ギイ、ぼくのこと好き?」
 あの日『ひとつだけ、どんな質問にも答えるよ』と言ったオレに、託生は同じことを聞いた。
 答えは、いつだって一つしかないのに。
 頬に当てた手を滑らせ、さらりとした黒髪に差し込んだ。


「オレは、託生を、愛してます」


 囁いた答えは、抱き寄せて重なった口唇に消えた。


(2014.1.31)
 
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