Rainy Day (2003.1)*Night*
山の天気は変わりやすい。
だが……突然振り出した雨は、バケツの底が抜けたような土砂降りで、フロントガラスを容赦なく叩きつける。と同時に激しい稲光が空に走った。 久しぶりの休みに、託生と二人でドライブを楽しんだ帰路、こんな大雨に降られてしまうとはツイテナイ。 あっという間に視界が暗闇に包まれ、ヘッドライトの明かりも雨に反射して前方が見えなくなってしまった。 「ねぇ、ギイ。これ、ちょっとヤバイんじゃない?」 かすかに震えた託生の声が、助手席から小さく上がる。 「そうだな。スリップしちまっても、おかしくないよな」 のんびりとした口調のオレに、 「ヤダよ。そんな怖い事言わないでよ」 泣きそうな顔で、オレの右腕にしがみつく。 託生が抱きついてくれるのは、オレ的には嬉しい事だが、今はそうも言ってはいられない。 こんな所で、事故でも起こしたら大変だ。とにかく、車を止める場所を探さなければ。 見えない視界に目を凝らし、休める場所をと探すオレの目にちょっとした空き地が映った。 この辺りにホテルもレストランもないし……仕方がない。雨が止むまで、あそこで待とう。 オレはハンドルを切って、空き地の奥、木の陰に車を止め、サイドブレーキを引き、ほっと息を吐く。 「ギイ?」 右腕に抱きついたまま押し黙っていた託生が、車の振動が止まった違和感からか顔を上げた。 「この辺り、何もない所なんだ。雨が収まるまで、ここで我慢できるか?」 「うん……」 頷いた側から稲光が上がり、託生は音のない悲鳴でもう一度顔を伏せた。 「オレがいるだろ?怖くないから」 雷が特に苦手ではない託生だが、ここまでひどいとさすがに怖いのであろう。オレの右腕にしがみ付いたままだ。 子供をあやすように左手でぽんぽんと背中を叩いてやると、しがみついていた腕を解き、オレの胸に顔を伏せた。 しかし、生憎と運転席と助手席の間にはギアがある。抱き締めていても、託生の頭だけ抱いているに等しい。 ガラガラガッシャーン!! 地響きが鳴り響くような雷鳴に、託生が小さく悲鳴を上げた。 「託生、後ろに移動しよう」 オレの提案に潤んだ瞳で見上げる。 ………自覚がないんだろうな。そんな無防備な顔をするなんて、襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ。 「スモークが張ってあるから、窓から雷が見難いだろ?」 コクコクと頷き、素直に後ろの座席に移動した託生に続き、オレも狭い車中を移動する。 待っていたかのように胸に飛び込んできた託生を、両腕で包み込んだ。 「そんなに怖いか?」 「こ…怖くないよ」 腕の中で震えながら、託生は引きつった顔で反論した。 「ぷっ!」 「な……なんだよ?!」 「いやー、託生は可愛いなと思って」 笑い転げるオレを憮然とした表情で睨み返す託生に、更に笑いが込み上げてくる。 「もう!ギイなんて大っ嫌いだ!!」 ぷいっと横を向いたその時、大きな雷鳴。 「うわっ!」 「大丈夫だって」 「うん……」 ガチガチに震えながら縋りつく託生の甘い匂いに、不謹慎だがあらぬ妄想が横切っていく。 託生は嫌がるかもしれないが………一石二鳥かも。 「なぁ、託生。雷が聞えなくなる方法知ってるか?」 「何……?」 疑問符を浮かべた口唇に軽くキスをする。 「ちょ……ギイ………」 「託生は目を瞑ってればいいから」 オレの胸を押し返そうと突っ張る腕ごと抱き締めて、口唇を重ねた。優しく上口唇を啄ばみ輪郭に沿って舌でたどっていく。抵抗をしていた託生の体から徐々に力が抜けていった。 それを見計らって差し入れた舌先を、くすぐるようにゆっくり移動させて、託生の緊張をほぐしていく。 その時、大きな雷鳴が鳴り響き、託生の体がビクリと跳ねた。 「オレの声だけ訊いてろ」 優しく耳元で囁き、そのまま耳朶を啄ばんで、そっとシートに倒した。 「え……?」 「いいから。オレの声だけ訊いてくれ。……愛してる、託生」 深く口付けて託生のシャツの裾から、すっと手を忍び込ませた。 「や……ギイ……こんなとこで……んっ!」 「この雨じゃ誰にも見られないって」 狭い車内。身をよじろうにも逃げ場所はなく、二人の体を密着させる。ボタンを外し露になった肌にキスを落とすと、託生の口唇から甘い溜息が零れた。 「もう、やめ………」 そう言いながらも、託生の指がオレの髪に絡まり先を促す。 胸の突起を吸い上げると、喉元を反らせて甘い嬌声を上げた。 現実と切り離されたような豪雨の音と、暗闇に浮かぶ白い裸体が余りにも幻想的で、オレの喉がごくりと鳴る。 行為に溺れている託生には、自分の声が落雷に掻き消されて聞こえないのだろう。 赤く散っていく花を、あちこちらに落としながら、いつもより高い託生の声に煽られていく。 「はぁ……ぁ……ギ………イ………!」 上半身への愛撫だけに焦れたのだろう。託生が腰を押し付けた。 素早く託生のズボンと下着を剥ぎ取り運転席に放り、そして左足をシートに掛け、大きく足を広げる。 「や・・・・・」 羞恥に頬を染める託生のソレを握り締めると、先端から甘い蜜が零れオレの指を濡らしていった。 手を添えたまま託生の口唇にキスを落とすと、自らオレの舌に絡みつかせ、深く口唇を合わせる。 キスに応えながら、雷の遠ざかっていく様子に気づいたオレは、託生の理性が戻るうちに自分の物にするべく、ズボンのファスナーを下ろした。 託生のモノで濡れた指先を蕾に差し入れ、ゆっくり抜き差しすると、託生は首を振ってキスから逃れ、欲情に濡れた瞳で訴える。 「はやく……」 口唇がそう動いた瞬間、一気に押し入った。 「あぁ……!」 奥へと導くように、託生が柔らかくオレを包み込む。 快感が麻薬のようにオレの体を甘く駆け巡り、託生を全身で感じた。 自由に動くこともままならない狭い空間で、二人の荒い息遣いと雨の音だけが、辺りを包む。 「くぅ………あぁん!」 甲高い自分の声に気が付いたのか、託生は一瞬驚いた表情をし手で口を覆った。 とっさに手を外し、腕の下で固定する。 「ギイ……いや………」 「聞いているのは、オレだけだよ」 「やだ……ん………!」 溺れていく託生を見るのが好きだった。 もっと喘がせてもっともっとオレに溺れて欲しい。 「託生……愛している………!」 「ダメ……も………ぅ………」 限界を告げる託生に、より一層深く楔を打ち込む。 とたん託生の中がふっと緩んで、次の瞬間断続的な収縮がオレを包み込んだ。 「ギ……イ………」 「くっ……」 汗に濡れた顔がオレを魅了して止まない妖しい瞳の色を映し、オレは託生に飲み込まれるように最奥に放った。 「大丈夫か?」 「………足が痛い」 口唇を合わせたまま訊くと、託生は顔をしかめて苦情を言った。 「あ、スマン」 シートに掛けていた左足を戻してやると、ぷいっと横を向いてシャツの裾を引っ張って足元を隠した。 その仕草が可愛くて思わず腕を伸ばす。 「ギイ?!」 「そんなに恥ずかしがらなくても、いいじゃないか」 「嫌なものは、嫌なんだ!」 クスクス笑いながら託生を手伝い、雨足が弱くなった空を見上げ、 「そろそろ出発するか」 運転席に移動した。 のろのろと助手席に座ってシートベルトをした託生を振り返ると、憮然とした顔をして窓の外を見ている。 「怒ってるのか?」 「別に」 口ではそういいながらも、不満たっぷりの表情に気がついた。 な〜るほど。 「物足りなかったか?」 「なっ……!」 ガバッと振り返ってオレを睨みつける託生の顔は、キスをしたいくらい可愛らしい。 「帰ったら、ゆっくりしような」 「ギイの馬鹿―――――――――っ!!!」 託生の叫び声とオレの笑い声が、雨の中に木霊する。 たまには、こんなRainy Dayも悪くない。 託生の文句を訊きながら、オレはそう思っていた。 |