卒業 (2001.11)*Night*

ギイタクではなく”タクギイ”です。
リバが苦手な方は、バックしてください。
 
 

   
 
 
 ベッドサイドの明かりが点いただけの、薄暗い部屋の中。
 ギイはソファに座り、ストレートのウィスキーで喉を湿らせていた。水音の跳ねるバスルームを横目で伺い、また一口流しいれる。
 自分でもピッチが早い事には、気が付いていた。でも、これからしようとする事は、酒の勢いでもなければ、出来ない事なのだ。
 シャワーの音が止まると部屋は静けさに包まれ、アイスペールの氷がカチリと滑り落ちる。程なくしてカチャとドアが開き、微笑を浮べた託生が裸足で一歩を踏み出した。
 今日二十歳を迎えた託生は、高校時代よりも少し大人っぽく・・・。けれども昔と変わらぬ澄んだ瞳は、今でもギイの胸を熱く揺り動かす。
 真っ直ぐにソファに向かい、ストンとギイの隣に腰を降ろした。
「また飲んでたの?」
 チクリと非難した託生の言葉には応えず、ギイは意を決したように一つ息を吐き、託生に向き直った。
「誕生日おめでとう」
「どうも、ありがとう。って今日は何回も訊いてるよ。どうしたの、酔っ払っちゃのかい?」
 おかしそうに託生は笑って、ギイの肩に頭を乗せコロンの香りを楽しむ。
「あのな、託生」
「うん?」
 目を閉じて心地よい鼓動を訊きながら、託生は次の言葉を待った。
「託生は……童貞か?」
「…………は?」
 言われた意味が理解できずに、もたれかかっていた頭を上げ、まじまじとギイの瞳を探る。
「だから、託生は誰か抱いた事あるかって訊いたんだよ」
「そそそそんな事、あるわけないじゃないか!」
 恥かしさの余り俯いた託生は、首まで真っ赤になっている。
ギイが抱く側、託生が抱かれる側。このスタイルで始まって、それが当たり前で……。浮気など思いつかない託生には、抱くと言った行為には無縁であった。
「けど、お前も男だし、二十歳で童貞って余りいないじゃん」
「それは…そうだけど……。もしかして、ギイはぼくに浮気させたいのかい?!好きでもない女の子を抱けって言うの?!」
 ハッと気付いて怒鳴り返した託生は、半泣き状態である。
「誰が浮気しろって言った。託生の体に触っていいのは、オレだけだろ?」
「じゃあ、どうしてそんな事、訊くんだよ?」
 心細げに見上げた託生にドキリとしながら、今日はそうじゃないんだぞと自分を戒め、でも次の台詞を言うには自分で決めた事ではあったが、照れが交じって目を泳がせた。
「だから、今日は託生が抱けよ」
「え?」
「託生がオレを抱けよって言ったんだ」
「………えぇ?!」
 驚きの余り口をぱくぱくさせて、言葉が出ない託生に、
「童貞卒業できるだろ?」
 ニヤリと笑った。
「でも、でも、ぼく、そんな事、できないよ」
「お前、男だろ?持ってるだけじゃ宝の持ち腐れって言うもんだよ。きっと、できるさ」
「そうじゃなくって…、あの……えっと……」
「誕生日のプレゼントにギイ君をあげようって言ってるんだぜ」
「でも……やっぱりできないよ。そんな事、考えた事ないし……絶対下手だし……ギイ、怪我させちゃうかもしれないし……」
 内容が内容だけに、しどろもどろになりながら、託生が反論する。
「処女は痛いもんだと相場が決まってるんだ。それに今日だけだし。もしかしたらオレもハマルかもしれないし」
 ハマリたくない本心を隠して、にっこり笑う。
「な?」
 ギイの全開の笑顔に、相変わらず逆らえない託生は、嫌々ながらも小さく頷いた。

 
 いつもと違う展開。戸惑う託生をギイはベッドに寝転んだまま、抱き寄せて口唇を重ねた。
 年上のお姉様がリードするって言うのは、どこでもある話だ。たまにはこういうシチュエーションもいいかなと、ギイは密かに思っていたりもする。
「ほんとに、いいの?」
「いいよ。託生、オレを感じさせてくれよ」
 その一言に、託生は心を決めた。このまま流されて抱いてしまうよりは、出来る限りギイを気持ちよくしてあげたい。
 いつもは眠っている託生の男としての本能に、火がつけられた。
 自分から口唇を重ね、そっと舌を差し入れる。舌の付け根をくすぐると、ギイがふっと笑ったような気がした。
 ムッとしながらも、ぼくだって男なんだから、絶対ギイを気持ちよくさせるのだと、自分がされて気持ち良かった事を、実行に移した。
 耳朶に口唇を寄せ、下から上にゆっくり舐め上げる。次はわざと首筋から耳に移動しながら、きつく吸い上げて甘噛みをしていく。
 小さくピクリとギイが動くと、託生の心に少しばかり自信が生まれた。
 もっと色んなギイの顔を見てみたい。征服欲と言うのは、こういうものなのかなと、初めて芽生えた気持ちに、素直になってみる。
 触れる事しかなかった乳首を口に含み、片方の手をギイに添える。舌先で乳首の感触を楽しみながら、添えた手を上下に動かすと、肩に掛かったギイの手に力が入った。
「おい、託生……ちょっと、ストップ」
「やだ」
 ギイを喘がせている事実に、気を良くした託生は、胸から腹、そして下腹部へと口唇を降ろしていき……、
「うっ……!」
 ギイを柔らかな口内に誘い込んだ。
「託生……」
 参ったな……。ギイの心中は複雑だった。託生の童貞卒業の為、自分を抱けと言ったが、まさか託生がこんなに上手いとは思わなかったのである。
 託生のように甘い喘ぎ声など、出す事は不可能だが、歯を食いしばっておかないと、乱れた息が漏れてしまう。
 いつもリードしてきたギイにとって、感じているのを託生に知られてしまっては、これを機会に逆転されてしまうかもと、本気で心配になってきた。
 その間にも、託生は確実にギイを快楽に連れて行く。吸い上げながらも、喉の奥深くに咥え込み、敏感な裏側を丹念に舌で舐めていく。
「託生……離せ……」
 限界を感じ託生の頭を押しやろうと、腕を伸ばすが、理性に逆らって押し付けてしまう。
 不意に、託生の指が誰も触ったことのない、蕾を撫でた。
「本当にいいの?」
 口唇を離し、小さな声で訊く。
「いいよ」
 投げ出された欲望がズキズキと痛み、また託生の顔を自分に押し付けた。
 託生は素直に舌を這わせながら、唾液に濡れた指先をそっと蕾に差し込む。無意識に力の入るギイの体を慮り、ギイの意識がそこに向かないよう口唇に神経を集中させながら、指先で経験上、覚えのある一点を探す。
「くっ……!」
 髪に絡むギイの指に力が入り、口の中にギイが欲望を放った。コクリと飲み下し、顔を上げると、ギイは薄く目を開け幸せそうに微笑んだ。
「次は託生の番だよ」
 小さく頷いて、ギイの足に手を掛けて、止まった。
「あの……後ろからの方が……楽だと思うんだけど……」
「そうか。じゃ」
 くるりと反転して、ギイは自分でうつ伏せになった。
「ほんとに、いいの?」
 今夜、何度目の台詞だろう。ギイはクスリ笑って、
「遠慮せずに、挿れてくれ」
 内心不安で一杯なのを悟られないように、平然な声を出した。
 託生は戸惑いながらも、痛みが少ないように蕾に舌を這わせて、丹念に開いていく。そして、ギイに自分自身を押し当て、ゆっくりと身を静めた。
「うぁっ……!」
「ん…!」
 同時に上がった声は、全然種類の違う声色。ギイは余りの痛さに息をつめ、託生は余りの快感に動く事もできなくなっていた。
「やっぱり……できないよ……」
 じっとしたまま、ポツリと洩らす。託生が動かずにいてくれたのが幸いで、ギイはかなり痛みが薄れていた。
「どうして?オレのことなら気にするな」
「うん。でも、このままだったら、ぼくだけ気持ち良くなっちゃう」
 手探りで触ったギイは、すっかり萎えている。
「さっき託生にしてもらったからな」
「でも……」
「いいから。さっさと卒業してしまおうぜ」
 裏を返せば、やっぱり挿れる方がいいと暗に言っているのだが。
「じゃ……」
 ゆっくりと託生が動き出した。とたん、内臓を押し上げられるような不快感が、ギイの体に駆け巡る。
 どうやったら、これが快感に変わるのだろうか。痛みに耐えながら、意識を別な所に持っていく。そうでもしないと、この行為は耐えれそうになかった。
「ギイ……ギイ………」
 色めいた吐息を耳に吹きかけ、託生が腰を揺らす。ふいに、
「うっ……!」
 ギイが低く呻いた。とっさに手で口を抑える。ギイの体を電流が走りぬけたのだった。
「ギイ?」
 心配そうな瞳に、なんでもないと手を振り、これはヤバイぞと本気で思った。案の定、大人しかった部分は、あっと言う間に堅く変化している。
 おずおずと動きを再開した託生は、確実にツボを押さえてきた。歯を食いしばろうが、意識を反らそうが、一度知ってしまった快感はギイの体を熱く駆け巡る。
「託生!ストップ!」
「え?……でも、ぼく……もう………」
「イキそう?」
「……うん」
「実は、オレも、もう、ダメだ」
「へ?」
 託生の手を自分に導き、握らせると、託生は嬉しそうにぺとっと背中に抱きついた。
「ギイ、感じてるの?」
「つもりはなかったんだけどな。託生、どこかで練習してるんじゃないのか?」
 照れ隠しで言った台詞に、
「初めてだよ!」
 託生は怒鳴り返し、仕返しとばかりに腰を激しく揺らし始めた。
「託生……!待て……!」
「ダメ……もう……あ………」
「託…生……く………ぅ」
 ギイの最奥で託生が放つ。つられるように、ギイも手の中に放った。
「はぁ……」
 肩で息をして、託生はギイの背中に倒れ込んだ。ある程度呼吸が整ってきた頃、ゆっくりと体を離してギイの隣に寝転がると、
「ギイ、ありがとう」
 頬に軽くキスをした。
「どういたしまして。気持ち良かったか?」
「うん……でも……疲れた」
 顔を赤く染め、恥かしそうに目を伏せた託生に、愛しさが募る。感じる事はわかったが、やはりオレは託生を抱きたい。喘がせて、泣かせて、託生の温もりの中で、イキたい。
 心の声が聞こえたように、
「ぼく、やっぱり、いつもの方がいいな」
 ポツリと呟いた。
 破顔したギイは託生に圧し掛かり、
「では、お言葉に応えて」
 託生を熱いキスで翻弄させ、取り返した主導権を行使した。
 託生の男としての本能は、二度と日の目を見ることは、ないだろう。



キッチン赤池さまのイベントに参加させていただいたものです。
 
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