Stardust(2003.7)*Night*

 暗い闇………。
 ぼくの神経が研ぎ澄まされ、ギイの成すがままに落とされていく。
 肌を彷徨う冷たい指先。
 肌を粟立たせる熱い口唇。
 ………そして、触れ合う二人の欲望。
 どこまでが自分で、どこからがギイなのか………。
 もう、ぼくにはわからない。
 
「コテージに行かないか?」
 翌日から二連休を控えた週末。
 仕事から帰るなり、ギイが瞳を輝かせて言った。
 碌に休みも取れず、働き詰めの日々。
 疲れを取る為にも、家で休んだ方がいいんじゃないかと言ったぼくに、
「託生とゆっくり恋人気分を味わう方が、疲れも取れるんだよ」
 と、ウインクを決めた。
 そして、今。
 誰にも邪魔されない空間で、ぼくはギイの腕の中に捕らわれている。
 
 バスルームから出たぼくを迎えたのは、カランと氷の滑り落ちる音と、淡いベッドサイドの明かり。
「託生」
 窓際のソファに座り、ウィスキーを傾けていたギイがぼくを呼んだ。
 大きく胸を肌蹴て艶やかに微笑むギイは、大人の男を感じさせ、ぼくは視線を外した。
 テーブルに置いてあるボトルもグラスも、身を飾るアクセサリーのように、ギイを引き立たせる。そして、ぼくはそんなギイを見るたび、胸をときめかせてしまうのだ。
「託生?」
 低い声に吸い寄せられるように歩を進め、ギイの隣に腰を下ろすと、ギイは当然のようにぼくの肩を抱き寄せ口唇を重ねた。
「……お酒の味がする」
 ギイは軽く笑うと、薄めに作った水割りをぼくに手渡し、
「託生も飲めば、わからないさ」
 グラスをカチリと合わせた。
「久しぶりだな」
 休暇を指しているのか、二人の時間が取れた事を指しているのか、ぼくにはわからなかったけれど、ギイが側にいてくれる事が嬉しい。
 そんなぼくの顔を見て、ギイは困ったように微笑み、髪にキスを落とした。
「もう少し飲んでベッドに行くから……我慢できる?」
「………バカ」
 一瞬で熱くなった頬を隠すように、ギイの肩に顔を伏せる。
 肩を震わせ喉の奥で笑うギイに「笑いすぎ」と抗議した。
「あ、託生に言っておくことがあったんだ」
「え、なに?」
 思い出したように呟いたギイの声に、顔を上げると、
「こんな時に言うのもなんだけど、休暇明けに託生と話する時間があるかどうかわからないから」
「うん」
「来週から、一ヶ月ほど視察で出張なんだ」
「え、そんなに?!」
 ギイの出張はよくある事だったが、さすがにこれほど長い出張は初めてだった。
「何とかして早く終わらせるつもりだけど、くそっ、親父の奴」
「お仕事だったら、しょうがないよ」
 そんなに長い間、一人でマンションに居た事がなかったから寂しいだろうけど、外交というギイの仕事では、長期出張はいつかある事だ。
 あ、でも……。
「ギイ、出張って何日から?」
「19日から」
「そうなんだ……」
 ギイの誕生日の29日は、いないんだ。
「もしかして、何か、あったか?」
「ううん。ギイの誕生日にギイはいないんだなって思って……」
 だからと言ってなんて事はないのだけど、誕生日くらいは一緒にいたいなと思うのは、ぼくの我侭だろうか。
「誕生日か。すっかり、忘れてたな。でも、もう祝ってもらうような歳じゃないぞ」
「それは、そうだけど……」
「託生に限り、プレゼントは受付中だけどな」
 意味深に笑い、ぼくの顔を覗き込む。
「………もしかして『ぼく』とか言わない?」
「それだったら、オレいつでも誕生日かも」
「ギイ!」
 もう、どうしてこう恥ずかしい事を、素面で言えるんだろ。
「じゃあ、欲しいものってなに?」
「くれるのか?」
「物によるけど」
「じゃ、言わない」
 意地悪くそっぽを向いて、ウィスキーを流し込む。
 もう、気になるじゃないか。
「ねぇ、なに?」
「託生がくれるんだったら、言ってあげる」
 ぼくの口唇をゆうるりと指でなぞり妖しく笑うギイに、催眠術がかけられたように目が離せなくなる。
「ギイが欲しいもの、あげる……」
「本当に?」
「………うん」
 近づいてきたギイの顔に、目を伏せる。
 そしてキスをしたまま、ギイはぼくを抱き上げた。

 
 欲しいものをあげるとは言ったけど………。
「なに、託生?」
「これが、プレゼントなの?」
 布で目隠しをされ、ベッドサイドの明かりですら遮断された視界。
 五感の一部を失い、本能的に他の感覚が鋭くなる。
 見えない恐怖がぼくを包み込み、伸ばした指先でギイの肌を辿って助けを求めた。
「いや、これが欲しいものじゃないけどな」
「じゃあ、これ取っ……」
「しっ、もう、黙れ」
 言うなり重なった口唇だけが、唯一のようなものに思えて、自ら口を開けギイの舌を誘い込む。
 絡めては離れ、深くなっていく口付けに、ぼくの息が浅くなっていく。
 離れた口唇が頬を伝って耳に辿り着き、
「愛してる、託生………」
 囁かれて、全身に甘い衝撃が走った。
 ギイの声も臭いも、肌を辿る手も口唇も、かすかに掛かる髪の毛すら、ぼくを狂気の世界に引きずり落としていく。
 ギイの口唇が胸の突起に触れ、舌先で舐め転がすように口に含まれると、ぼくの体が揺れた。
「あ……ぁ………」
 いつもより熱い体。
 ギイの目に、どのようなぼくが映っているか考えるだけで、羞恥でおかしくなりそうだ。
「もう……やだ………あぅ!」
 ギイが前触れもなく、ぼくを飲み込んだ。
 衝撃に爪先が反り返り、足ががくがく震えている。
 意志に反し、ぼくの手はギイの髪を掴み、腰は強請るように揺れ、全身でギイに応える。
「ギイ……ギ……イ………!」
 駆け抜ける波に耐えようもなく、ぼくはギイの口中に欲望を放った。
 ぼくの荒い息だけが全てのようで、ギイの存在を確認したくて伸ばした指先にギイがキスをした。
「これ、取ってよ……イヤだ………」
「もう少し……な」
 そのまま額にキスを落とし、ギイがぼくから離れた。
「ギイ………?」
 心細さに名前を呼ぶと、ギイの暖かな手が頬に触れ、そしてぼくを抱き上げた。
「え……?!」
 ギイはそのまま大股に歩くと、窓を開けて、ソファらしきものの上にぼくを下ろした。
 夜風と背中にあたる感触から、ここがテラスだとわかる。
「ギ……ギイ?!やだ!やめてよ!!……んんっ」
 ぼくの抗議を無視して、ギイは口を塞ぐようにキスをし、内股に手を掛け大きく足を広げる。そして、声が上げられないように深く口唇を重ねたまま、ぼくの名残を蕾に落としやわやわとほぐしていく。
 こんな山奥に誰もいないのはわかっているけど、それでも恥ずかしさが消えるわけじゃない。
「ギイ……お願い……止めて………」
「………いやだ」
 舌を絡めたまま応えたギイの息が、荒く熱くなっている。ギイの欲望がぼくの内股を濡らす感触に、指を飲み込んだ蕾が条件反射のように蠢いた。
 ここがテラスでもどこでも構わなくなってくる。
 ギイが欲しい………!
 早く、ギイで一杯にして欲しい………!
「ギイ………!」
 瞬間、ギイがぼくに楔を突き刺した。
 突然の事に順応しきれず、ぼくの体が硬直する。
「託生……託生、愛してる………」
「う……ぁ………」
 甘い声に強張りが融け、ギイを包み込んでいく。首に廻した腕でギイを引き寄せ、キスを強請った。
 ゆっくりと味わうように行き来するギイに呼吸を合わせ、ぼくの腰が揺らめく。
 二人の熱い息が夜風に溶けて、どちらの物かもうわからない。
「託生……託生………」
 徐々に早くなるギイの動きに翻弄され、波が押し寄せ、必死に手に触れるギイにしがみつく。
「ギイ……もう……ダ……メ………」
 最後の訴えに、
「託生、目を開けて……」
 耳元に囁いてギイは目を覆っていた布を外した。
 圧迫感が解放され、思わず開けた視界には、眼前に迫ったような降り注ぐ星………!
「あ……あぁっ!!」
 そして、ぼくは星に包まれながら、奈落の底に落ちた。

 
「う……ん………」
「大丈夫か?」
 目を開けると、心配そうに覗き込んでいる茶色の瞳。
「ギイ……」
 ゆっくり起き上がると、掛けられていたナイトローブが肩から流れ落ちた。
「すごい星だね」
「あぁ……街では見れないからな」
 ソファに座ったぼくの肩に腕を廻し、ぼくを抱き寄せる。
 胸に耳を当て、聞こえてきた鼓動は規則正しい静かなものだった。
 二人を優しく包み込む夜風と瞬く星達に、この世にはぼくとギイしかいないような錯覚になる。
「そう言えば、欲しいものって……」
「有難く頂戴しました」
「なに、それ?一体、なんだったの?」
「内緒」
「もう!教えてくれるって言ったじゃないか!!」
「ははははは……」
 ギイは声を上げて笑い、ぼくの頬にキスをした。
「託生、流れ星!」
 ギイの声に慌てて空を見上げると、すーっと線を引くように、白い星が流れ消えていった。
「そろそろ部屋に戻るか。冷えてきただろう?」
「うん」
 ギイに手を取られ、部屋に戻るぼくの背後に、もう一つ星が流れた。
 
 
七夕ですね〜(おいっ)
って、考えたら、何故だかこんな話になってしまった;
半年振りにウラを書いたら、感覚がわからなくなってしまって、エロいのかエロくないのか、う〜ん、悩む所です(爆)
で、これは、ウラでよかったんですかね?(←既に、区別ついてない奴)
(2003.7.5)

っと、いったいプレゼントはなんだったのかと以前言われまして、そういや後書きにも書いてなかったと思い出しまして。
まぁ、星に包まれた託生くんが欲しかったと、そういうことです。
はい。
 
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