約束 (2002.4)

「なぁ託生、大人になるって、どういう事かわかる?」
 突拍子もない話題に、宿題と格闘していたぼくは頭を上げた。
「大人になる事?」
「そう」
 う〜ん、そうだな。
「夢がなくなる事?」
「シビアだなぁ。託生くん」
 やれやれと言った体で、ギイがぼくを見る。
「じゃあ、何?」
「自分の思ったことを口に出さなくなる事。口実をつける事。隠し事をする事」
 あぁ、なるほど。
「それが、どうかしたの?」
「オレも託生も大人になるだろ?けど二人の間では、そういう事なしな」
 ギイは、机にひょいと腰掛け、ぼくの目を覗き込む。
「なしって?」
「お互い何でも素直に言い合おうって事さ」
 吸い込まれそうな薄茶色の瞳。この瞳に隠し事なんて出来ない。それは何年経っても変わらないだろう。
「うん」
「約束だぞ」
 ギイは指を絡ませ、チュッと口唇にキスを落とした。
「それはいいけど、どうして今そういう話をするんだい?」
「いや、この頃託生が素直に言ってくれないからさ」
「何を?」
 ギイはぼくの耳元に唇を寄せて、
「『抱いて』」
 囁いた。
 その直後、ぼくのパンチがギイのミゾオチにヒットしたのは、言うまでもない。
 

「………って約束したじゃん」
 確かに昔そういう約束したのは、覚えてはいるけど……。
「だからって、これは何だよ?!」
 出張から帰ってきたとたん玄関で抱き上げられ、ベッド直行は問題があるのじゃなかろうか。
「愛を確認したいって素直になっているだけじゃないか」
 涼しげな顔をしながら、ぼくの首に口唇を寄せ、両手はせわしなくパジャマを脱がす為に動いている。
「でも、まだ朝だよ!」
 チャイムの音で目が覚め、ぼくは起きたところなのだ。
「時間なんて関係ないね。第一託生もそうだろ?」
 すっと下着に手を入れニヤリと笑った。
「こ……これは、朝だから………」
「はいはい」
「ん……」
 触れる手の熱さに、体が目覚めていく。鼻を掠めるギイのコロンに、安堵の吐息が漏れてしまう。
「愛してるよ」
 優しく囁かれて、ぼくの体は波に飲み込まれていく。薄く開いた目にギイの笑顔が映り、近づいては消えていった。
「愛してるよ、託生……」
 ギイという海の中へ………。帰ってくる事が出来ない、快楽の海へ。
 
 
 
ふとした日常を書きたくて、考えてみました。
でも、根っからのスケベだからか(爆)物足りなくて………。
あぁ、エロ書きと言われても、反論できない。
(2002.9.4)
 
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