予定(2002.1)

 ここは二人で住むNYのマンション。
 早めに仕事から帰ってきたギイと、久しぶりに二人で夕食を食べ、後片付けをしてからリビングに戻ると、ギイはテレビを見て寛いでいた。
「何見てるの?」
 食後のコーヒーを差し出しながら、ギイの隣に腰掛ける。
「ん?街角のペアルックを取材しているらしい」
 見れば、男女のカップルが、それぞれ個性あるペアルックを着て、映っている。
「こんなの見て、おもしろい?」
 ぼくには、どうもペアルックという物は理解できない。第一、同じ物を着て歩くほど、恥かしいものはないと思うのである。
「そうだな。オレ達は愛しあってますって、公言してるようなものだからな。いいかもしれないな」
 ギイの台詞にギョッとして、
「え、本気でそんな事、思ってるの?」
 ぼくは、そんな恥かしい事はいやだよと暗に匂わせる。
「本気じゃないけど、いいよなって思ってさ。ま、現実にはどっちかの好みに合わせないといけないだろ?それがもう一人に合わなければ、魅力も半減するよな」
 いや、そういう意味じゃなくって。
 合っている合っていない以前に、恥かしいという感情はギイにはないのだろうか。
 長い付き合いだけど、未だにギイを理解出来ないときがある。
「それじゃ、もしも二人とも似合ってたら?」
「最高だろうな」
 ウソだろ〜〜?!
 開いた口が塞がらない。恥というものを知らないのだろうか、この男わ!!
「どうした?」
 不思議そうな顔をして、ギイがぼくの顔を覗き込む。
「ま……まさか、ギイ……ペアルック……着てみたい………とか?」
「は?オレと託生じゃ、好みも違うし、似合う色も違うじゃないか」
「じゃ…じゃあ、そんな事、考えてないよね」
「あぁ、考えてない」
 ホォ〜〜〜〜。
 心底安心して、胸を撫で下ろす。
 そんな恥知らずな事は、いくらギイが好きでもぼくには出来ない。
「そうだ!」
 突然叫んだギイに、
「な…なに……?」
 びっくりしてギイを見ると、悪戯っ子のようにニヤリと笑った。
 いやな予感がする。その予感は十中八九、外れた事はない。
「パジャマだったら、ペアルックできるな」
「はぁ?」
「ほら、パジャマだったら色違いでも、託生とペアルックできるだろ?」
 呆れてしまう……。
 そんなにしてまで、ペアルックが着たいか。
「託生、明日はパジャマを買いに行こう」
 嬉々として話を続けるギイに、釘を刺すようにぼくは言った。
「でも、ギイ。いつもパジャマ着ないじゃないか」
 仕事で帰宅が遅いギイは、シャワーを浴びるとバスローブを羽織り、結局そのままベッドに潜り込む。
 パジャマを着ているところなんて、祠堂を卒業して以来、見た記憶がない。
「あぁ、そうか」
 やけにあっさりと納得して頷いたギイは、ぼくの肩に腕を廻し抱き寄せた。そのまま頬に口唇を寄せる。
「じゃあ、明日は託生のパジャマを買いに行こう」
「どうして、そうなるんだよ」
 耳に掛かる吐息がくすぐったくて、身をよじりながらぼくが応える。
「オレ、毎日違う託生のパジャマ、脱がせてみたい」
 一瞬で血が上ったように、顔が熱くなる。きっと今のぼくはユデダコのように、赤くなっているに違いない。
「ななな、なにを言って……」
 そのまま口唇に触れるだけのキス。薄く瞳を開けると、瞳を細めて優しく見詰めているギイと視線が合う。
「全部のパジャマが見れるように、早く帰ってくるから、毎日違うパジャマ着て待っててくれ」
「………うん」
 いつも、申し訳なさそうに「遅くなる」と電話を掛けてくるギイ。全部見ることなんて、かなり先の話なのだろうけど、ギイのその気持ちが嬉しい。
「ギイ……」
「愛してるよ、託生」
 ぼくも愛してるよ、ギイ。昔と変わらない想い。ううん、あの時以上に、君のことを愛しているよ。
「とりあえず今日は、このパジャマ、脱がせてもいいかな?」
 お伺いをたてるように、ひそひそと耳に口を寄せてギイが訊く。
「寝室でね」
 答えが終わらないうちに、ギイはぼくを抱き上げキスを落とした。
 

 明日はパジャマを買いに行こう。
 だから、今日は早めに寝ようね、ギイ。
 
 
初めて「星屑のプラッツ」様に、投稿したお話です。
というか、もともと悪戯心を起こして書いたエロギャグ話(Nightの『remenber again』)が、管理人さんに渡り、
投稿が決まったものの、初めてのところにそんな壊れたSSじゃ失礼だろうと、
慌ててオモテ用を書きました。
でも、たぶん、いや絶対、その時に私のイメージ潰れてたんだろうなぁ。
今は、充分承知しているだろうけど(爆)
 
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