Resetボツ

2011年05月2日 Blogから転載

 
 他の社員を守るためには、時には切り捨てなければいけないときもある。ピラミッドの頂点に立つ人間は、それだけ非情な判断力がなければやっていけない。 
だからと言って、ギイの胸が痛まないわけがない。
「どうして、残しておきたかったの?」
「なにを?」
「ミシェルに聞いたんだ。人手に渡ったら、ここ潰されるだろうからって」
「おしゃべりなヤツめ」
 遠い目をして、
「自分の諌めのため、自分の決めた事を再確認するため。………もう、必要ないけどな」
「ギイ………?」
「過去の話だ」
 それって、どういう意味?もう、ここは必要ない?
「一週間も付き合わせて悪かった。明日、パリまで送るよ」
 明日?
「………その後は?」
「託生は日本。オレはアメリカだろ?」
「そうじゃない!」
 茶化してうやむやにしようとするギイに、噛み付いた。
「託生?」
「もう、ぼくの事、愛してない?」
「託生………」
 絶句したギイに畳み掛けるように、自分の思いを訴える。
 ぼくの自惚れかもしれない。じゃあ、あのキスは?車の中で感じた、左頬の温もりは?
 ぼくに触れる手は、いつも暖かかった。
「ギイ………!」
「オレといると、また託生を巻き込んでしまう」
 目を逸らせて苦しそうに吐き出す。
「ぼくなら、大丈夫だよ」
「馬鹿を言え!誰が、大切な人間を危険な目に合わせたいと思うんだよ!」
「愛してる、ギイ」
 ぼくの言葉に、言葉を飲み込んで視線をそらす。
「オレと託生は、会ってはいけなかったんだ」
「そんなことない!」
 あの幸せだった日を、否定しないで。
「ね、ギイ」
 ギイの首に腕を廻し、口唇を重ねた。
 ギイは、ぼくを引き離すことも抱きしめることもせず、されるがままキスを受け止めている。
 啄ばむようなふれるだけの優しいキスから、徐々に深く侵入し舌を絡ませる。昔のぼくからは到底考えられないような深いキス。
 触れている掌から移る体温。
「愛してる、ギイ」
 耳に口を寄せ囁いた瞬間、、かき抱くように抱きしめられ、
「オレは!もう二度とお前を巻き込みたくないと!」
 頬を摺り寄せ、吐き出すようにギイが叫んだ。
「そんなの無理だから。巻き込まれることなんて、昔から決まってるんだから」
「託生………」
「愛してる、ギイ」
 気がつけば、ぼく達は床の上に転がっていた。
 背中の痛みが、これが現実なのだとぼくに教え、幸せにうっとりと頬が緩む。
「託生………ここでは………部屋に戻って」
「イヤだ。ギイ、抱いて………」
 一秒でもこの愛しい人を離したくない。そして、確かめたい。
 ギイのシャツのボタンに手をかけ、襟元から手を差し入れ、熱い肌に手を添えた。
 しっとりと手に馴染む。
「止まれないぞ、もう」
 苦しげに吐き出された台詞に、うっとりと目を閉じる。
「愛してる、託生………」
 口唇が重なる直前、耳に届いた言葉に、ぼくの目から一筋の涙がこぼれた。
 
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