ある秋の日の一幕(2010.11)

 まだ高校生なのに、ギイはたまに仕事で外泊をする事がある。できる限り日帰りにしたいそうなのだけど、遠ければどうしようもない。
 そんな時、「留守番、お疲れさん」と必ず食べられるお土産を買ってきて、離れている間の話をしながら二人で食べるのだ。


 そして、今日も。
「託生、お土産」
「あ、ありがとう」
 渡された紙袋を開けて………ん?
「ギイ、これ、なに?」
「箕面名物、もみじの天ぷら」
「………もみじって、食べられるの?」
「食用だよ、これは」
 掌に乗る小さな紅葉型の天ぷら。
「食べてみろよ」
 言われて一口かじってみると、サクサクとした食感に混ざるほのかな甘さに驚いた。断面を覗き、少し膨らんだ衣の中に赤い紅葉の葉を見つける。
「あ、本当に、紅葉の葉っぱが入ってるんだ。………味はかりんとうみたい?」
「だろ?天ぷらっていうより、お菓子だよな」
 ネクタイと上着を自分のベッドに放り、ギイはぼくの持っている袋から一つ取り出し、口に放り込んだ。
 もう一つ食べようとして、ふと思いつき、半分に割って中の葉っぱを指で摘みちぎってみる。
「………なに、してんだ?」
「もみじの葉っぱって、どんな味がするんだろって思って」
「味するか?」
「うーーーーーん、わかんない」
 お前、子供みたいだな。
 ギイはクスクスと笑いながら、ぼくの隣に腰掛けた。
「でも、秋らしいよね」
 祠堂の敷地内も赤や黄に染まり、もうすぐ訪れる厳しい冬の前に、彩りもあざやかな優しい表情を見せてくれていた。
 絶え間なく落ちてくる葉っぱは、掃除の外当番の時にはうんざりするけれど、まるで絨毯のように敷き詰められ、歩くたびに足元から鳴る音は楽しい。
「来週、紅葉狩りに行かないか?」
「紅葉なら、祠堂にもあるよ?」
「所変われば品変わる、だよ」
 ウインクを決めて、ギイが誘う。
 ここの所、中間テストに、文化祭、体育祭と、ギイが忙しく走り回っていた為、なかなか二人きりで外出すことはできなかった。そして、今回の仕事。
 ギイなりの、フォローのつもりなのかもしれない。
 期待の篭った目に見詰められ「うん」と頷くと、
「んじゃ、約束のキスな」
 軽くキスを落とし、ギイは微笑んだ。
「楽しみだなぁ、紅葉狩り」
 鼻歌でも歌い始めそうなご機嫌なギイを横目に、もみじの天ぷらを口に入れる。
 ギイと二人で迎える初めての秋は、かりんとう風味の甘い時間。




短いし、オチないし、まぁ、たまたま紅葉のニュースを見たんで;
某番組で知られるようになったかもの、大阪箕面名物もみじの天ぷら。
特別美味しいわけではないけど、秋らしいアイテムだと思いまして使ってみました。
ただ、この時期に箕面(の滝)に行くのは大変なんですよ。渋滞して。
駐車場は狭いし、猿は凶暴だし。電車で行って歩くのが得策かも。
紅葉は、綺麗ですけどね。
(2010.11.20)
 
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