Call Me(2007.7)
授業が始まって第一日目。
託生を副級長に任命し、しかし託生だけ指名するわけにもいかず、全委員を独断で決め、とりあえず本日の級長としての仕事を終えたオレは、託生が待っている(であろう)305号室のドアを開けた。 「託生、ただいま!」 ベッドに腰掛けた託生は、ノックもなしに開けたドアにギョッとしつつ、 「お………かえり………」 と、言葉を返してくれた。 ジーーーーン。 託生に「おかえり」と言ってもらえる幸せを噛み締めながら、ポーカーフェイスを装い荷物を机に置く。 託生を見ると、風呂以外のすべての用事は終わらせたようだ。 「先に風呂使ってもいいぞ」 「え?あ、昨日先に入らせてもらったから、今日は崎君」 「ギ、イ!」 「!!ギ………ギイからどうぞ」 「なあ。そんなに呼びにくいか?」 「そういう………わけでは………」 「片倉んこと利久って呼んでるのに、オレは駄目なのかよ?利久は4文字だけど、ギイはたった2文字だぞ?」 「だって…………」 緊張するんだよ。 俯き加減でボソッと呟く託生に片目を瞑り、「うーん」と天井を見上げた。 まだまだオレと一緒にいるだけで緊張してしまう託生。 二人でいるのが当たり前の関係になってほしいが、名前すら呼んでもらえない今の状況からは、程遠い。 せめて名前だけでも、普通に呼んでもらいたい。 どうしたものかと考えていたオレは、ひらめいた。 「託生、じゃんけん!」 「…………は?」 目の前に出された拳とオレの顔を交互に見ながら、 「じゃんけん……」 掛け声に素直に反応して、慌てて右手を出した。 「ポン!」 よっし、オレの勝ち。 「あっち向いて、託生!」 そのままの勢いで左に向けたオレの人差し指に釣られて、託生が左を向く。 数秒そのまま固まり、呆然とオレに向き直って、 「………なに、今の?」 素朴な疑問をした。 「あっち向いてホイ」 「じゃなくて」 「………の、変形。『ホイ』を名前に変えるんだ。しかも別の奴の名前で首を動かすとNG」 ポカンと呆れた顔をしている託生に、押しが肝心とばかりに、 「よし、もう1回!じゃんけん、ポン!」 と声をかけると、じゃんけんをする必要もないのに、条件反射で右手を出した。 今度は、託生の勝ち。 「あ……あっち向いて………」 「おい、そこで止めるな」 「あ、ごめん」 「リズムのノリが大切なんだぞ」 クソ真面目な顔をして、まるで託生が悪いことをしたように畳み掛ける。 「ほら、続き続き」 「あ………あっちむいて、ギイ」 消極的な声と共に下に向けた。 「残念。託生の負け〜」 託生の指と反対に顔を向けたオレは、ニヤリと笑って挑発した。 本来負けず嫌いの託生が挑発に乗らないわけがない。 案の定、ムッとした顔をして、 「もう1回!」 と右手を出してくる。 「「じゃんけん、ポン!」」 「あっち向いて、ギイ!」 「「じゃんけん、ポン!」」 「あっち向いて、章三!」 「えぇぇぇぇぇっ?!」 「わはは、ひっかっかった」 『あっちむいてホイ』の変形と称して誘ったのは、正解だった。誘ったというより、勝手に始めたものだが。 一喜一憂しコロコロと変わる表情を楽しみつつ、オレも子供のようにはしゃいでみせた。 「25勝5敗か。まだまだだな、託生くん?」 「次は絶対、ギイに勝つんだからね!………あ」 咄嗟に口に手をあて、上目遣いに見やる様は、抱きしめたいくらい可愛い。 「さてと、風呂でも入ってくるとするか」 そんな託生にキスしたいのは山々なれど、自然体で「ギイ」と呼んでくれるこの空気を壊したくなかったオレは、ウインクをひとつ決めてバスルームのドアを開けた。 託生がオレの名前を呼んだ夜。 オレの願いがかなった、ひとつの夜。 「困っていたんです」カテゴリーの『実は困っていたんです』に続きます。 ただいま、ギイタクが頭ん中でマラソンをしております。 もう、なんかわけがわからないくらい、ドタバタと。 ということで(?)、閉鎖しているにもかかわらずまたもや更新しました。 「Call Me」はボサノバの名曲から。 ………って、よくありそうなタイトルだな。 ………と、実はアップして数時間後に少しゲームの内容を変えました。 こっちの方が、すんなり行くかなぁなんて思って。 (2007.7.31) |