地下倉庫は危険な香り?

「ペーパーレスの時代だなんて言ったくせに!もう、どこにあるんだよ?!」
 巨大な地下倉庫。
 過去の遺物……否、資料の山を前に、ぼくは頼まれた物を探していた。
「このあたりかな…。八年前、九年前……あった!」
 やっと見つけた十年前の資料。
 しかし。
「どうして、あんな上に置いてあるかな」
 全く手の届かない棚の一番上に、その資料の箱はあった。
 これは梯子を使うしかないな。
 ずりずりと奥から梯子を持ってきて棚に立てかけ、一段ずつ上る。ようやく資料に手が届いたとき、
「おい、見つかったか?」
「うわっ!」
 突然かけられた声に悲鳴が上がった。
「なんだよ、それ。心配して見にきてやったのに」
「すみません。突然で驚いてしまって」
 誰もいないと思ってたのに、こっちだって驚くに決まってるじゃないか。
 ムッとしたままぼくを見上げている副社長に、
「会議は終わったんですか?」
 と声をかける。
「終わった、終わった。部屋に戻ったら、お前いないんだもんな」
 そりゃ、ぼくにだってやる事があるんだから、ずっと部屋にいるわけじゃない。と、言い返したって口で勝てないのはわかっているので、
「すみません」
 おざなりに謝罪しておいた。
 片眉をあげ、
「資料、それだろ?貸せよ」
 素直に上から箱を渡すと、副社長は箱を受け取り足元に置いた。
 そして。
「あの……」
「うん?」
「その手はなんですか?」
「いや、降りるの手伝ってやろうと思って」
「結構です」
「遠慮すんなよ」
「してません!」
 ってか、どけよ、そこ!!
 差し伸ばされた手を無視して、二段降りたところでペロンと尻を撫でられた。
「うぎゃ!」
「んー、感度ばつぐん」
「なに、してるんですか?!」
「託生くんのお尻を愛でてるところ」
「愛でなくていいです!ってか、降りるから、そこ……ぎゃーーー!」
 まだ数段残っているのに、背後から両手を廻し、あちらこちらを遠慮なく撫で回す。
「やめてくださいってば!」
 ちょ…ネクタイ外すな!ボタンボタン!!
 こんのぉ、セクハラ上司!!
 そのとき、ドア付近から女性数人の声が聞こえ、ギクリと動きを止めた。近づいてくる声に、自分の今の格好を思い出して、パニックになる。
 そんなぼくを、梯子からペリッと引き剥がし、副社長は棚の影にぼくを押し込めた。息を潜めて様子を伺っていると、すんなり探し物が見つかったらしく、数分後に人の気配は消えた。
 ホッと溜息を吐いて見上げると、じっとぼくを見つめている副社長の視線にギクリとする。
 この状況、やばい。
「託生……」
「やっ……んんっ……」
 壁に押し付けられ、腕ごと抱きしめられて、熱い口唇がぼくを覆う。流されてしまう自分が嫌になるくらい、キスが上手い。
 頭の芯がぼーっと霞んできたとき、熱い手が胸元に差し入れられハッとする。
「セクハラだって、言ってんだ!」
「てーーーっ!」
 容赦なく足を踏みつけ、腕の中から逃げ出した。そのままトイレの個室に駆け込み、震える手でボタンを留めていく。
 そして数度大きく深呼吸し、心を落ち着かせた。
「あんの、セクハラやろう!今度コーヒーにデスソースいれてやる」
 心密かに決め、トイレのドアを開けた。
 あ、資料、どうしよ。

(2011.6.25 小話ついったー)
 
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