Birthday (2002.4)

「狩納さん」
 ソファの上で寝転んでいた狩納に、綾瀬はコーヒーを差し出しながら話し掛けた。
「何だ?」
 ちらりと視線を向け、ゆっくりと起き上がる。
「あの、狩納さんの誕生日って、いつですか?」
「誕生日?」
 少しおどおどとした表情でトレイを胸に抱え、綾瀬が頷く。
「お前、またプレゼントを買うためだとか言って、バイトを始める気じゃないだろうな」
 瞳の奥に凶暴な色が見え隠れし、綾瀬は慌てて首を横に振った。
「違うんです!あの………俺何も出来ないですけど、その時くらいはご馳走でも作ろうと思って………」
 恐々と言葉を繋げる綾瀬に、ふっと狩納の表情が緩んだ。そして傍らに置いてあった鞄からカードを取り出し、綾瀬に投げる。
「え………?免許証?………えぇ?!」
 当たり前の事だが、そこには生年月日が書いてある。その文字を追った綾瀬は驚きの声を上げた。
「俺の誕生日は今日だ」
 ニヤリと笑った狩納の行動を予測した綾瀬は、知らずに後ずさった。
「おっと」
 素早く綾瀬の腕を掴み自分に引き寄せ、ソファの上に組み敷く。
「お……お……俺、か………買い物に………行かなくちゃ…………」
「誰が外出していいと言った?」
「でで………でも、ほら………ケーキ買ってこないと…………」
「俺は甘いものが苦手なんだよ」
「あ………じゃあ………ご馳走の用意を………」
「そんなもの、いらねぇよ。俺は綾瀬からのプレゼントが欲しい」
 ばたばたと暴れる綾瀬を力強い手で押さえ込み、口唇を重ねた。ビクリと体を震わせ、シャツを握り締める綾瀬の口唇を舌で割る。
「ん………ぁ…………」
 条件反射のように口を開いてしまう自分に、羞恥しながらも優しい舌の動きに流されていく。
「あ………ダ、メ………です…………」
 早くも服の上から撫で回す狩納の指の動きに呼吸を乱しながら、それでも残る理性で首を横に振った。
 その時。
 ピンポーン。
 来客を知らせるチャイムの音。
「か………狩納さん!お……お………お客様ですっ」
「知るかよ。俺には何も聞こえねえな」
 天の助けに縋り付こうとする綾瀬を荒々しく引き戻し、口内を濡れた舌で荒らす。しかし………。
 ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!
「………………………」
 ガバッと綾瀬の上から立ち上がると、足音もけたたましく、廊下へと出て行き………。
「やかましいっ!!」
 ドアが開く音と共に、ビル中に響き渡りそうな怒号が飛んできた。
「んまぁ、ご挨拶だわねぇ、狩納の旦那」
「兄さん、何怒ってはりますの?」
 大げさに眉を顰めた染谷と、対照的ににぱにぱ笑いの祗園が開け放ったドアの中に押し入る。
「てめぇら、何しに来やがった?!とっとと、帰れっ!!」
 邪魔をされた怒りに殺気を漂わせた狩納の後ろから、
「染谷さん、祗園さん、こんにちは」
 服の乱れを直し、瞳を輝かせ、顔満面に「ありがとう!!」と書いてある綾瀬が顔を出した。
「あらぁ、綾ちゃんだけだわ。歓迎してくれるのなんて」
「ここは俺の家だっ。うるさいんだよ、てめぇは。さっさと帰れ、カマ野郎!!」
「そんなぁ、せっかく兄さんの誕生日やからってプレゼント持ってきたのに」
 狩納の腕に外へと押し出されながら、祗園が嘆く。
「プレゼントだぁ?そんなもんいるかっ」
「いや、絶対兄さん気に入りはるって。ほら、これ」
 差し出した箱に狩納が不意に押し黙った。
「な、わかりはりますやろ?」
「なるほどな」
 何が入っているのだろうと背後から綾瀬が覗き込んだ。その腰を抱き寄せ
「これ」
 狩納が開けた箱の中身は、黒光りしたパール入り○○○。
「な………な………」
「これからプレゼントに綾ちゃん、食べはるんやろ?そしたら、やっぱこういうモン必要ちゃうかなぁって考えたんですわ」
 口をぱくぱくして酸欠状態の綾瀬の顔を横目に、狩納がニヤリと笑う。
「そうそう、あたしからはこれね。料亭のお弁当二人前。綾ちゃん疲れて食事の支度どころじゃなくなっちゃうじゃない?」
 綺麗な和紙に包まれた、重箱を廊下に置く。
「今日のところは有り難く頂戴しておく」
「あら、いやに素直だわね」
「雨でも降るんちゃいまっか」
 直後、祗園の頭に拳が飛んだ。綾瀬は余りのショックに顔面が蒼白なまま殴られる祗園をぼーっと見ていた。
「用が終わったのなら、とっとと出ていけっ!」
「はいはい、言われなくても帰るわよ、じゃあね、綾ちゃん。壊されないようにね」
「兄さん、お礼に今度の金利負けてえな」
「これと商売は別だ」
「そんな、殺生な」
 祗園の泣き声を外に追い出し、呆然としている綾瀬の頬を軽く叩く。
「おい、いいプレゼント貰ったな」
「え………、俺、イヤですっ………や……どこ触ってるんですか………ぁ…………」
「見ただけでここが疼いてきてるんじゃねぇのか?」
 耳元に響く低い声と乱暴に揉みしだかれる尻に、綾瀬の腰が崩れていく。
「続きはベッドでしようぜ」
「イヤ………お………降ろしてください」
 涙に潤む目をぺろりと舐め、足早にリビングを横切って寝室のドアを開ける。
「いいかげん観念しろよ。お前は俺のモノだ」
 乱暴な口調とは裏腹な優しい口唇に、綾瀬は深い溜息をついて意識を飛ばした。
 
 
え〜、これは篠崎一夜原作「お金がないっ」シリーズのパロです。
某サイトマスターさん二人に勧められて読んでみると、即効嵌ってしまいまして、
「蒼い月」が書けなくなってしまったという、曰く付きのものだったりします。
もう、頭の中が狩納×綾瀬がグルグルして、考えられなくなっちゃたんですね。
原作はそりゃ〜もう、濃い〜です(笑)
ばっちり、私好み(爆)
(2002.9.4)
 
PAGE TOP ▲