もしもあの子が先生だったら(2010.10)

web拍手に載せているお題『web拍手のためのもしもな五題』(愛は刹那様にお借りしました)の中から、「もしもあの子が先生だったら」です。
パラレルですので、苦手な方は、お戻りください。






 鼻歌を歌いたいくらい上機嫌なオレの手には、リコーダーと音楽の教科書。
 学年末テストの答案用紙が返ってきた直後、音楽室に呼び出されたのだ。
 言うなれば、追試。
 元々楽器演奏の素質は全くなく、音楽とは程遠い音楽になってしまうオレは、成績をペーパーの点数で上げるしかないのだが、赤点になってしまったようだ。
 足取り軽く階段を上り、音楽室のドアをノックした。
 「どうぞ」の声に「失礼します」とドアを開け、中に入る。
「呼び出しちゃって、ごめんね」
 申し訳なさそうに、中にいた人物が謝った。
 葉山託生23歳。
 去年3月音大を卒業し、この祠堂にやってきた新任音楽教師。 
 優しげな表情に、まだまだ高校生でも通るベビーフェイス。
 まるで野に咲く花のような人物に恋心を抱く輩は多く、漏れなくオレもその中の一人だった。
 葉山先生は、そのまま空いている椅子をオレに勧め、その向かいに腰かけた。
「実は、崎君の成績なんだけど………」
 と、この1年間のデータをオレの前に並べた。
「ペーパーもね、今回ちょっと悪かったみたいだし、実技の方が………。ほら、音楽ってどうしても、実技重視になるものだから、点数に直すと赤点になっちゃうんだ」
 自分が悪いわけではないのに、申し訳なさそうに説明をする。
 実は説明されなくても、1年間のデータは頭の中に入っていた。
 それは、そうだろ。”赤点”になるように、今回のペーパーを操作したんだから。
「音楽………嫌いかな?」
「そんなことはありませんよ。リコーダーや歌は苦手ですけど」
「あのね、何かできる楽器とかある?それで、点数を上げたいんだけど」
 こういう所が、葉山先生の利点であり、融通の利かない所でもある。
 留年生を出したくないけど、何もせずに点数を上げることもできない。
真正直な澄んだ目でじっと見詰められて、ドキリとしたオレは、
「トライアングルくらいなら、打てますけどねぇ」
 と、少し視線を反らす。
 それをどう取ったのかはわからないが、
「トライアングルは………」
 と、葉山先生は口を濁らせた。
 そりゃ、そうだ。幼稚園児にでもできるのだから。
 困った顔で「何かないかなぁ」と考えている葉山先生に、
「それ以外は………ダンスですかね」
「ダンス?」
 葉山先生の黒縁の目が、驚きに開いた。
 オレは、フィンガースナップでカウント取りながら立ち上がり、ステップを踏む。
 葉山先生は目を輝かせ「すごいすごい」と嬉しそうに手拍子を叩いた。
気を良くしたオレは、
「先生も踊ります?」
「ええっ、ぼく?!」
「ほら、立って立って」
 柔らかな手を取り、慌てふためく葉山先生を立たせカウントを取ると、
「崎君が踊ったようなダンスなんて、できないよ」
 と、ぶんぶん首を横に振る。
「じゃあ、なんだったらできますか?」
「………ソシアルくらいなら」
 へぇ。
「では………Shall We Dance?」
 と手を差し出すと葉山先生は柔らかな手を重ね、戸惑いもなく左右逆の女性パートのホールドを作った。
「先生は、女性パート慣れてるんですか?」
 オレの言葉に照れながら、
「ぼく、あまり背が高くないから、女性の人数が少ないときに女性側に回されたんだよ」
「そうなんですか」
 そして、1.2.3.1.2.3と、ワルツのステップを踏む。
 軽やかなステップに、相当練習したんだろうと予想ができたのだが、それと同時に練習相手のパートナーにメラメラと嫉妬心が沸き起こる。
 葉山先生を腕に抱いた人間が、どれだけいるのだろうか。もしかしたら、わざと葉山先生を女性パートにさせたのではないだろうか。
 自分の心を持て余したオレは、葉山先生を壁に押し付けていた。
「崎君………?」
「先生は、キスしたことある?」
「な………なに言って………」
 サッと朱が走った顔に、全身の血が逆流するような感覚を覚えた。本能が理性を麻痺させ、赤い口唇に釘付けになる。
 そう感じた瞬間、オレは葉山先生に口付けていた。
 想像通りの柔らかな感触に、頬が緩む。
「………さ………きく…………ん」
「崎君じゃないよ。ギイ」
「ギ………イ………?」
「初めて見たときから、先生………いや、託生が好きだった」
「そ………そんなこと、言われても………あの…………」
 耳まで真っ赤に染めながら、あたふたと視線を彷徨わす。
 固定していた手を自由にし、そのまま右手を葉山先生の頬に滑らし、濡れた口唇を親指でゆっくり撫でた。
「託生………」
 呆然とオレを見る葉山先生に悠然と微笑み、もう一度口付ける。
 滑り込ませた舌にビクッと弾む体を腕に閉じ込め、オレは心行くまで葉山先生の舌を味わい、口唇を離した。
 とたん、華奢な体がポスンと胸に落ちてくる。
 止めとばかりに耳元で「愛してる」と囁いた。



「ギイ………ギイってば!」
「………………託生?」
「ちゃんと着替えて、ベッドに入らないと風邪ひくよ?」
 見上げると顔を曇らせた託生が、心配げに覗き込んでいる。
 見回すと、そこは音楽室ではなく、二人のスィートルーム305号室。
 転寝するつもりが、そのまま寝入ってしまったようだ。
 そこには、当たり前だが、歳相応の見慣れた高校生の託生がいた。
 教師の託生も色っぽかったなぁ。
「ちょっと残念かも」
「何が?」
 キョトンと首を傾げる託生の腕を引っ張り、オレの腕の中に閉じ込める。
「託生」
「なに?」
「音楽の先生も似合いそうだな」
「は?一体、何言ってるのさ」
 わけがわからないと顔に書いた託生の頬にキスを落とし、「シャワー浴びてくる」とバスルームに向かった。
 少し大人の託生でも、シャイなところは変わらなかったな。
 これから先の未来を垣間見たような、得をした気分でドアを開けた。




web拍手には、あとお題が4題あるのですが、全然妄想できそうにないです。
猫は、既に多くのサイト様で発表されているし、女の子は、絶対ギイが花男の道○寺みたいになりそうだし(…ってか、私が花男の二次書いたら、絶対道○寺がストーカーになって、つ○しを誘拐して、スウェーデン・シンドロームさせて、無理矢理結婚させてしまう自信がある(-.-;))、子供はとりあえずプチがいるし、恋人はまんまやんと思うし。
書いてて、結構楽しかったかも(笑)
(2010.10.3)
 
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