Dream〜託生バージョン〜 (2002.5)

「はぁ、今日も遅くなるのか……」
 ただ今午後10時。
 いつもの事ながら、ギイからの「先に休んでいてくれ」のコールについ溜息が零れる。
「こんなに働いて、ギイ大丈夫なのかな」
 ただでさえスレンダーな体が、毎日見慣れているぼくでさえわかるくらい、細くなっている。
「もう少し、体を大事にしてよね」
 誰ともなしに呟いた。

 
 カチャ。
 ベッドでまどろんでいた耳に、訊き慣れたドアの音。
「ギイ………?」
 目を擦り擦りドアの方向を見ると、逆行に浮かんだ影は見るからに小さい。
 あれ?
 もう一度瞬きをして、じっくり見る。
 すると逆行に浮かんでいた影が、ゆっくりと近づいてきた。
「君は誰……?」
 ベッドの横に当たり前のように立った小さい男の子に、違和感を感じつつ訊いてみる。
「何言ってるんだ、託生?」
「へ?」
 ぼく、寝ぼけてるのかな?この子、託生って言ったよね。
 まじまじと見詰めるぼくに、
「お前まさか恋人の顔を忘れたわけじゃないだろうな?」
 と、訝しげに眉を寄せた。
「こ………恋人?!」
 ぼくの恋人はギイだぞ。こんな小さい子供じゃありません!
 ………って、何かがおかしい。とにかく、おかしい。
 じっと男の子の顔を見る。栗色の髪。薄茶色の瞳。小さい頃のギイを見た事はないが、面影がギイにそっくりではないか!
「ギイ?!」
「当たり前だろ?託生、お前寝ぼけてるのか?」
 盛大な溜息を付きながら、やれやれといった体で小さな掌を開いた。
 ………夢だ!夢に違いない!!ギイが小さくなっちゃうなんて、そんな事ありえない!!でも………。
「どうした、託生?」
「ううん、何でもない」
 小さい体で大人な口調のプチギイに噴出しそうになるのを堪え、ベッドから降りたぼくは膝を折った。
「ほんとにギイなの?」
「お前、まだそんな事言うのか?だったら証明してやるよ」
 言うなりプチギイは、ぼくの首に腕を廻しキスをした。
「ん?!」
 夢の中であっても、こんな小さな子とキスするなんて、ぼくって危ないヤツだったのか?!
 あたふたとプチギイを離そうともがくのだが、さすが小さくてもギイと言ったところであろうか。スルリと入ってきた舌先に、思考が止められてしまった。
「あ………っ」
 いつもと同じ熱いキス。
 プチギイは存分にぼくを揺さぶって、口唇を離した。
「どうだ?」
「うん……ギイだ」
 我ながら間抜けな答えだとは思ったのだけど、この状況で言葉を捜すにはぼくの頭が拒否していたのだ。
 でも、落ち着いて見ると………可愛い!
 お人形さんのように白い肌に、くりっとした二重の瞳が印象的で、ぼくは男だから母性本能なんてないけれど抱き締めたくなってしまう。
「託生、お前何ニヤニヤしてるんだ?」
「え?ううん、ギイが帰ってきてくれて嬉しいなって思っていただけだよ」
 頬が緩んでしまうのを必死に抑え、ぎゅっとプチギイを抱き締めた。
「おい、託生!引っ付いてくれるのは嬉しいが、オレ、腹減った」
 ぷっ!
 ブラックホールの異名は、幼少時から健在だったのか。
「じゃあ、何食べたい?」
「梅干とおかかのおにぎりが食いたい」
「すぐに用意するね」
 プチギイの小さな手を引きながら、ダイニングに向かう。
 どうせこれは夢なんだから、楽しまなくっちゃ。

 
「やっぱり託生の作ったおにぎりは上手いな」
「ふふっ、喜んでもらえてぼくも嬉しい」
 両手でおにぎりを持って、口一杯ほうばるプチギイに笑みが漏れる。
 可愛いなぁ。
 あれ?でも、このくらいのときに、一度ギイに会ってるんだよね?こんなに可愛いのなら、覚えていてもおかしくないはずなんだけどな。
「ご馳走さん」
 過去に意識を飛ばそうとした時、プチギイが手を合わせた。
「お腹一杯になった?」
「なったなった」
 満足そうな顔でウインクを飛ばす。
 またそれが可愛くて、ついつい抱き締めそうになってしまう。ぼくって、もしかしたら保父さんに向いているのじゃないだろうか。
「託生、やっぱりお前変だぞ」
「そ………そう?」
 だって、こんなに可愛いプチギイを見ることが出来るなんて、夢の中であっても感謝しちゃうよ。
「あぁ、腹一杯になったら、眠たくなってきた」
 大きな欠伸をしながら、伸びをする。
「じゃ、そろそろ寝る?」
 プチギイを促して、寝室に向かった。

 
 二人でベッドに潜り込んだ時、ぼくはあることに気が付いた。
 体はプチギイ。でも、中身は大人のギイ。
 もしかして、この展開ってヤバクない?
「託生………」
「え?」
 プチギイの顔が近づいてくる。
「わわわ!ちょっと、待った!」
「なんだよ、託生」
「いや……えっと………ギイ、眠たいんだろ?疲れてるんだろ?もう、今日は寝ようよ。ね?」
 プチギイの小さな肩を押しやって、必死に押し留める。
「急に眠たくなくなった」
 言いながら、尚も口唇を寄せてくる。わわっ、どこ触ってるんだよ?!
「愛してるよ、託生」
「ダメだよ!ダメダメダメ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 前言撤回!夢なら早く冷めてくれ!!

 
「おい………おい、託生!!」
 乱暴に肩を揺さぶられて、ハッと目が覚めた。
「ギ……イ………?」
 暗闇の中、スーツ姿のギイが心配そうな瞳で、ぼくを覗き込んでいる。
「大丈夫か?」
「うん……やっぱり、夢だったんだ………」
 ギイはぼーっとしているぼくを抱き起し、汗に濡れた前髪をかき上げて、小さくキスをした。
「帰ってきたら託生がうなされていたから………怖い夢でも見たのか?」
「プチギイが………」
「プチギイぃ?!」
 ぽろっと出てしまった言葉に、しまったと思ったのだが後の祭り。
「はっは〜ん」
「何………?」
 恐る恐るギイを見上げると、ニヤリと笑い耳に口唇を寄せ、
「託生のスケベ」
 ボソリと言った。
「ぼぼぼぼくは………まだ、何も言ってないじゃないか?!」
「要するにあれだろ?小さいオレに迫られる夢でも見たんじゃないのか?」
 図星だろ?とニヤニヤ笑いながらぼくを見る。
「違………違うよ!!」
 耳まで真っ赤にして否定しても、信憑性がない。
「違わないだろ?」
 案の定、全然信じていないギイは、そのままぼくの上に圧し掛かる。
「ちょっ………ちょっと、ギイ!」
「一週間程、ご無沙汰だったもんなぁ。託生が欲しがってくれて、オレも嬉しい」
「誰もそんなこと、言ってないだろ?!」
「ま〜たまた、託生くん、照れ屋なんだから」
「だから、違うって!!」
 空しく響くぼくの声は、暗闇に吸い込まれていった。

 
 ぼくだけのプチギイ。
 もう一度現れてくれるなら、歳相応のプチギイでいてね。
 
 
もともと書く予定ではなかった、託生バージョン。
でも、某友人がかなりプチ託生に受けてくれたので、気を良くして一気に書き上げました。
でも、可愛げないなぁ。プチギイって(笑)
私だったら、「我侭言うな!!」と殴ってることでしょう(爆)
(2002.9.4)
 
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