傍にいるよ(2010.9)

「Marine Bule Dream」の続きとなります。
ので、プチは出ません。


 授業が終わり、バイオリンを片手に大学を出て驚いた。
「よ。託生」
「ギイ?!」
 ここ連日何かのプロジェクトの為マンションに帰宅出来なかったギイが、片手を挙げて待っていたのだ。
 一度マンションに帰ったのであろうか、綿のシャツにジーンズという、どこにでもいるようなカジュアルな格好であるにも関わらず、立っているだけで異様に目立つのは日本だけではないようで、チラチラと振り返りながら道行く人が多数。
「どうしたんだよ」
 そんな視線の中に平然と入るほどの度胸がないぼくが、つっけんどんになってしまうのは仕方なかろう。
「………冷たいなぁ。もう今日は帰っていいって島岡に言われたんだ」
「本当に?」
 ギイの言葉を信じないわけではないけれど、ギイが島岡さんを脅した事も数知れないので、どうも額面通り受け取れない。
「本当だって。なんだったら島岡に聞いてみてもいいぞ」
 言いながら胸ポケットから携帯を取り出すギイを、慌てて止めた。
「わかった!わかったから!」
 そんな事で、島岡さんを呼び出すなんて申し訳ない。
「それより、託生。自然史博物館に行こう」
 にっこり笑って、ギイは言った。
 
 
 NYに来てかなり経つのに、お互い機会がなかったというか、自然史博物館に来るのは実は高校生の時以来であった。
 あの時は島岡さんに連れられて案内してもらったフロアを、ギイと一緒に降りていく。
 一歩一歩、階段を降りるたびに大きくなる圧迫感。薄暗い部屋の真ん中に浮かぶ大きな鯨。
 ギイはぼくを腕の中にくるりと包み、そのまま抱きしめた。
 深い海の底に二人きりで取り残されたような錯覚。
 ギイは、どんな気持ちでこの鯨を見上げていたのだろうか。
「一人で見るの……」
「ん?」
「寂しくなかった?」
「寂しくはなかったけど………大きくて重かったかな」
「今は?大きくて、重い?」
「今は、託生がいる」
 キッパリと言い切り、ぼくの髪に優しくキスを落としながら「だから、大丈夫だ」呟いた。
 もしかしたら、ギイは鯨を見ながら、他の何かを感じているのではないだろうか。
 大きくて重い、何か。
 それが何なのかはわからないけれど、ぼくがいることで負担が軽くなるならとても嬉しい。
 だから………。
「ずっと、いるよ?」
「託生?」
「ぼくがいるよ。ずっとギイの傍にいるよ」
 ぼくが言うと、ギイはハッとした表情をしてぼくを凝視し、そして、
「ありがとう、託生」
 強く強く、ぼくを抱きしめた。


「また、一緒に来ような」
「うん」
 夕暮れに染まりつつある摩天楼を横目に、久しぶりに二人で街中を歩く。
「とりあえずは晩飯食って、家に帰って」
 少し前を歩いていたギイが、ふと立ち止まり、
「託生を抱きたい」
 真顔で振り返った。
「………うん」
 赤く染まる日の光で、熱くなった頬を誤魔化せてくれたらいいのだけれど。
 ぼくの横にギイがいる。
 ずっとずっと、傍にいる。



これもフォルダに……以下略。
台詞をリンクさせたくて書き始めたものの、なかなか纏まらず放っておりました。
短いし、ついでにキス一つしてない;
たまにはプラトニックで♪
(2010.9.22)
 
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