flower(2011.2)

 会議が長引き一便遅れて着いたシャルル・ド・ゴール空港。
 慌てて花市場に行き、
「花束を一つお願いしたいのですが」
 飛び込んだ店の女性に注文した。
「………『永遠の愛』でよろしいですか?」
「え?」
 オレの驚いた顔見て、女性は「ふふふ」と口に手をあて上品に笑った。
「以前、こちらで花束を作られた事がありましたよね?」
「あ………」
 島岡に背中を押されてパリに来て、ふらふらと入った店はここだったのか。当時の記憶が、オレにしては珍しく曖昧なので忘れていた。
「あんな思い詰めたような顔をしておっしゃるものだから、もしかして心中でもされるのかと心配していたんですよ」
 からかう様にかけられた言葉に苦笑する。
 そうだったかもしれない。あの時オレは生きる理由をなくしていた。託生のいない現実を改めて認識して、これから何の為に生きていくのだろうと、暗闇に放り出されたような気分だった。
 あんな状態だったのに、オレはそう応えていたのか。
 当時を思い出し、今の幸せに感謝する。
 今日も。いや、これからも。
「『永遠の愛』をお願いします」
 オレの言葉に女性は嬉しそうに頷き、手際よく花束を………紫チューリップの花束を作ってくれた。
「お幸せに」
 女性の声に見送られ、パリの下町に飛び出す。
 この花束を見て、託生はなんと言ってくれるだろうか。いや、コンサートのたびにいくつもの花束を貰っているあいつは、もうすでに忘れているかもしれない。
 それでも、オレはこの花束をお前に贈ろう。
 ――――――永遠の愛を、お前に誓う。


お口直しに。
(2011.2.5)
 
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