flowerのおまけ(2011.2)
幕が下り慌てて駆け付けた託生の楽屋は、すでに花で溢れかえっていた。
しかし、この手で花束を渡せる喜びの前では、どんな花も気にはならない。 「託生、ほら」 「ありがとう、ギイ」 託生は両手で嬉しそうに花束を受け取り、あの時と同じように顔を近づけ、ふと怪訝な表情をした。そして、花を見て小首を傾げ、オレを見る。 「どうした?」 もしかして覚えているのか? 「初めてのフランス公演の時に、同じ花束を貰ったんだけど…」 「けど?」 託生は言うか言うまいか、迷ったように口ごもった。 「何かあったのか?」 あの後、何か記憶に残るほど嫌な事でもあったのだろうか。桜井からは、そんな報告はなかったはずだが…。 「……ギイ、このチューリップの花言葉知ってる?」 それは、もちろん『永遠の愛』だが、今更託生に伝えるのも少々照れる。 黙ったままのオレをどう取ったのかはわからないが、 「紫のチューリップって永遠の愛なんだって。あとから聞いて、どうしようって思っちゃって」 託生は困ったような顔をした。 「どうしようって?」 「だって、ぼく、そんな気持ち受け取れないし……」 あぁ、託生は、オレじゃない他人からだと思ったんだな。 …って、お前、その花束どうしたんだ?!捨てたとか?! 「で、どうしたんだ?」 さりげないふりをして、誘導する。捨てたとか言わないでくれよ! 「うん。深い意味はないかもしれないと思って、花瓶に入れた」 ほーっと安堵の溜息がこぼれる。 捨てたとか言われたら、当分立ち直れそうにない。 「チューリップって可愛い花だと思ってたけど、紫のチューリップは綺麗な花だよね」 「そうだな」 花言葉の話は終わりだと言うように、託生は花束をしげしげと見て嬉しそうに笑った。 ま、託生に伝わらなくても、24時間365日年中無休で誓ってるけどな。 「もう帰れるのか?」 「うん」 疲れているだろうから、早くホテルで休ませてやって……。 「あ!」 「どうした?!」 突然の大声に託生の荷物をまとめていたオレが慌てて振り返ると、託生は片手で口を押さえ花束を凝視していた。 そして。 「もしかして、ギイ?」 「なにが?」 「以前貰ったチューリップ」 う……。終わった話だと思っていたのに、続いていたのか。 「ギイだよね?」 何がそう確信させているのか、嬉しそうに託生が聞く。 「さあ?」 ここはシラを通すしかない。 「ギイだよ」 だから、今更言うのは恥ずかしいんだってわかれよ。 「だってギイしかいない……んん」 だから、言わせるな。 少し長めのキスをして、おまけに桃色に染まった頬にもキス一つ。 ごまかされたと拗ねた目にクスリと笑い、荷物を持ち上げた。 言わなくても、わかってるんだろ?これからは、ずっと紫のチューリップを贈り続けるから、それで許してくれ。 ブログより転載 (2011.2.6) |