小さな記憶〜After〜Resetバージョン(2011.4)

《穏やかな時間の中で》カテゴリーの「小さな記憶」の続きです。

「なに、これ?!」
 暇つぶしに本でも借りようかとギイの書斎に行ってみると、さっきまでいたはずなのに本人は不在で、でも机の上に出しっぱなしのパソコンを見て、すぐに戻ってくると判断したぼくは、壁際の本棚を眺めて待っていた。
 そして、見つけた懐かしい1冊のアルバム。
 その隣にあるのもアルバムだろうけど、見覚えのあるのはこれだけ。
 真夜中のゼロ番で写真を一緒に貼った幸せな時間を思い出して、アルバムをパラパラ捲っていると、高校時代直後のページから、ぼくの写真が……どう見ても離れていた頃の写真が、所狭しと貼られていた。
 雑誌に載ったような写真をスクラップしたものじゃない。俗に言う、生写真と言うものだ。
 しかもコンサート中だと思われるテールコートもあれば普段着のものまで、ありとあらゆるぼくがそこにいた。
「まさか」
 置かれている数冊のアルバムも取り出して開けると、
「やっぱり……」
 ここにも、10年間のぼくがいる。その数、実に数百枚。
「託生、どうし……」
 部屋に戻ってきたギイが、ぼくの手元にあるアルバムに気づいたとたん、固まった。
「ギイ、これ、どうしたの?」
「あー、色々とコネを使ってだな」
「はっきり言いなよ。もしかしなくても、桜井さん?」
 これだけプライベートな写真なんだ。桜井さんしか、絶対撮れない。
 視線を彷徨わせていたギイが、諦めたように溜息を吐き、
「そうだよ。桜井に送ってもらっていた」
 腹をくくったように白状する。
「だから、私用で桜井さんを使っちゃダメって言ってるだろ!」
 ただでさえ、マネージャー兼SPという大変な仕事をしているのに。あんな真面目な人に隠し撮りを命令するなんて、絶対桜井さん悩んでいただろうなって、このぼくでもわかる。
「いいだろ。写真でしか託生を見れなかったんだから」
 開き直ったのかギイはぼくの隣に座りこみ、パラパラとアルバムを捲り始めた。
 ぼくもそうだったから、ギイの言い分はわかるけど。それに……人の事言えないし。
「そう言えば、託生のアルバムは?こっちに持ってきたのか?」
 ヤバイ。
 瞬間、引きつったぼくの顔をギイが見逃すわけもなく、
「たくみくん?」
 その締まらない顔は止めてくれ。クールで敏腕な副社長のイメージが台無しだよ。
「あ……あのね」
「オレ、日本の雑誌の取材を受けた事とか、結構あるんだけどな」
 そうだね。知ってるよ。毎月チェックしていたし。
 じりじりとにじり寄るギイに、後ずさるぼく。
 詰め寄らなきゃよかった。後悔先に立たず。いつまでも学習できない、ぼくの頭。
 壁際まで追い詰められて咄嗟に右方向に飛び出すも、反射神経が素晴らしいギイにあっけなく捕まり柔らかな絨毯の上に転がされた。
「往生際の悪いヤツめ」
 口角を上げて楽しそうに眺めるギイに、
「……お手柔らかに」
 一応要望を口に出すと、意外そうに眉を上げ、
「了解」
 軽々とぼくを抱き上げ、寝室のドアを開けた。


「Destiny」「Secret内Life」にも、それぞれのアフターがあります。
(2011.4.1)
 
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