いちごみるく(2003.11)
フラガは困っていた。
手の中にある、イチゴミルクのキャンディーひとつ。 先程、食堂で「疲れたときには、甘いものがいいですよ♪」などと言われ、ミリアリアが押し付けていったのだ。 しかし、フラガは甘いものが大の苦手であった。 好意を無にしたくはないが、これを舐めると数時間胃の調子が可笑しくなる事は必至である。 「お嬢ちゃんには悪いが、誰かにあげちまおう」 そう言いながら、メビウス・ゼロの整備も兼ねて、格納庫へ向かった。 「お〜い、マードック」 「なんすか、大尉?」 「お前さぁ、甘いもの食べない?」 整備の手を止めて振り返ったマードックに近づき、手の中の可愛らしいキャンディーを見せる。 この人にキャンディーなんて、何と似合わない事かと思いつつ、一体どうしたのだ?と目で伺う。 「いや、お嬢ちゃんに貰ってさぁ。でも、俺、甘いもの苦手なんだよねぇ」 「それだったら、坊主にやったらいいでしょうが」 なるほど。 聞いた事はないが、まだまだお子様のキラなら、甘いものが好きかもしれない。 「ほれ。いいタイミングで帰ってきましたぜ」 無理を強いて意に添わぬ戦いに明け暮れるキラは、疲れを顔に滲ませて、ストライクに向かう所だった。 「おい、坊主」 手を振り大声で自分を呼ぶフラガの声に、キラはぼんやりと俯いていた顔をあげ、声の主の元に歩いてきた。 「なんですか、大尉」 条件反射のようにキツイ瞳で睨み返すキラに苦笑し、「手を出せ」と催促する。 不審な顔をし、でも素直に手を出したキラの手の平に、フラガはちょこんとイチゴミルクのキャンディーの乗せた。 「………………」 天使が横切った。 と、同時にフラガは思い出す。 この子供は、子供扱いすると怒り出すのだ。それも生半可な状態ではなく、相手が上司であれども、容赦はない。 「あー、や、ブリッジのお嬢ちゃんに貰ったんだけど、俺、甘いもの苦手でさぁ。お前が貰ってくれると、すご〜く助かるんだけど」 キャンディーを見詰めたまま、何も発しないキラに、しどろもどろに言い訳をする自分が少々情けない気もするが、今更どうしようもない。 「えっと、嫌いだったか?」 その声に、ハッとして顔をあげ、 「ありがとうございます」 キラは今まで見たことがないような可愛らしい満開の笑顔で、お礼を言った。 フラガはもちろん、側に居たマードックまでもが絶句する。 「食べていいですか?」 「あ………あぁ」 キラは、両手で包み紙の端を引っ張り、出てきた三角形のピンクのキャンディーを口に放り込み、味わうように転がすと、幸せそうな表情で 「美味しい………」 と、呟いた。 いつもの眉間に皺を寄せ睨みつける瞳とは雲泥の、余りにも可愛らしい表情に驚き固まっていたフラガは、 「そ………それは、よかった」 おざなりに返事を返す。 「じゃあ、ストライクの整備してきます。ご馳走様でした」 礼儀正しく頭を下げ、ストライクに向かうキラの後姿を、呆けたように見詰めるフラガに、 「用事がすんだのでしたら、ゼロ点検してもらいたいんですがね」 マードックが呆れながら声を掛けた。 「そ………そうだったな」 いつもなら、なにやら用事を口にして格納庫を逃げ出すフラガだが、余りに驚いた為か素直にゼロに向かう。 キラが離れるときに漂った、甘い甘い香り。 口に入れた瞬間に見えた、赤い舌。 「俺、ヤバイかも」 これからの行く末に一抹の不安を抱きつつ、ゼロに潜り込むフラガであった。 いいよね〜、若者はぁ!(笑) あの年の差が堪らない魅力です。 |