そして誰もいなくなった(2004.10)

 あの停戦から2年。
 しかし、キラの願いとは裏腹にナチュラル対コーディネイターの確執は深く、また新たな戦いへと火蓋は切って落とされた。
 そして、停戦間際、AAを守り散っていった青い瞳の恋人を想い、静かな暮らしをしていたキラも、皆の思いを受け再びフリーダムを駆る事を決意。
 果てしない宇宙の中、剣を振るっていた。


 漆黒の中、オレンジ色の爆発があちらこちらに起こる視界の中ふと横切った影に、キラは一瞬動きを止めた。
「あれは………?!」
 彼の人のパイロットスーツを思わせる紫色の機体。そして、見覚えのある兵器。
「まさか………そんな………」
 暁色のメビウスゼロに搭載されていたガンバレル。
 あれを扱えるのは、地球連合軍広しと言えど、ただ一人のはず。
「ムウ………さん………?」
 紫色の機体は、キラを煽るように戦闘空域を離脱し、一つのコロニー内部へと姿を消した。
「待って………!」
 慌ててフリーダムを操作し、キラも後を追いコロニーへと侵入する。そして、最奥の空間でコックピットが開いたまま置き去りにされている機体を発見し、キラはフリーダムを停止し駆け下りた。
「ここは………!」
 ラウ・ル・クルーゼと対峙したメンデルの研究所。
 自分に纏わる数々の秘密。
 思い出される忌まわしい過去に頭を振り、付いて来いとでも言っているかのように開け放された扉を凝視した。
「ムウさんなんですか?」
 あの爆発で生きているなどありえない。でも、いつも心の奥底でフラガが生きている事を願っていた。
 キラは、携帯していた銃を手に、研究所の内部に足を踏み入れた。


 一度通ったことのある階段を上りドアを開けると、胎児が浮かんだ水槽が所狭しと並べられ、あの時と変わらない風景に不思議な感覚になる。
 そして、奥に進み、ドアを開け黒い影を見つけると、両手で銃を掲げた。
「待っていたよ。キラ・ヤマト」
 黒い影は長い金髪に仮面をつけ、ゆっくりと振り返る。
 その違和感ある男の口から出た声。

 ―――――――――――――――――キラ。

 愛しい恋人とそっくりの声に、キラは混乱した。
「あなたは、誰なんです?!」
「私の名はネオ・ロアノーク」
 キラの困惑顔を楽しそうに眺め、簡潔に答える。
「………ネオ・ロアノーク」
 告げられた名前に、微かな期待をしていたキラは呆然と立ちすくんだ。
 やはり違ったのだ。
 ムウさんじゃなかった………。
 溢れそうになる涙を堪え、目の前に立つ男を睨み付けた。
「僕に、何の用があるんです?!」
「君に聞きたいことがあったのでね」
 表情が伺えない仮面と口調に、キラは一歩身を引き銃を構え直す。
「君の望んでいた世界は、こんなものだったのかな?」
「それは………!」
「たった2年で戻った世界なのに、何故君は戦うのかね?」
「平和な世界を目指しながら、死んでいった人達の思いを無駄にしたくないから………」
 そう。ムウさんだって、願っていた。
 平和な世界で幸せに暮らすことを。
「戦っても変わらないよ」
「そんなことない!」
 必ず分かり合える日が来るはずなんだ。
 必死で言い募るキラに、クククッと人を馬鹿にしたような笑いを上げ、男が近づいてきた。
「動くな!」
 銃を持つ手に力を入れ、男に狙いを定める。
「他人の為に戦うなんて、馬鹿なことは止めた方がいいんじゃないかな?」
「来るな!」
 自分に向けられている銃など眼中にないように男は近づき、キラの目の前に立った。
「撃つ気があるのなら、セーフティは外しておけ」
「え………?」
 クラリと頭が揺れたような気がした。
 あの時も、同じ台詞で諌められたのだ。
「あなたは………誰………ですか…………?」
 呆然と男を見つめるキラに口元を歪ませ、キラの手の中から銃を取ると、背後にあるソファに放った。
「『戦いたくない』と言いながら、ボロボロになるまで戦って、後に残るのは同じ世界だ」
「ムウ……さん………?ムウさんなんですか?」
 キラは縋り付くように腕を伸ばし、男の黒い服を握り締め、混乱する頭で仰ぎ見た。
「もう戦いは止めろ、キラ」
「どうして?!あなたが言ったんでしょ?!出来ることをやれって!!」
 目の前の男がフラガであるなしに、キラは咄嗟に叫んでいた。
 ムウさんは、AAを守って死んだはず。それに、ムウさんが僕のやっている事を否定するなんて在り得ない。
 でも、それなら、何故知っているのだ、この男は?
「………その言葉がお前を縛り付けているのなら、俺が責任を持って断ち切ってやるよ」
「ムウさん………」
「もうお前が戦わなくてもいい世界に、俺がしてやる」
「なにを………?」
「この世に人類がいるから争いになるんだ。それなら、その醜い人類を滅亡させればいい」
「ムウさん!!」
 男の右手が仮面を取り去る。
 現れたのは、夢にまで見た懐かしい青い瞳。
 けれど、あの優しげな色はどこにもなく、剣呑な輝きを帯びた鈍い光を湛えていた。
「これからは、俺だけを見ていればいい」
「ム………ぐっ!!」
 鳩尾に当て身を食わされ、キラは男の腕の中に崩れ落ちる。
 意識を失ったキラの頬を愛しそうに撫で、その男………フラガは触れるだけのキスをした。
「お前さえいれば、この世に存在する者は誰もいらないんだよ。………なぁ、キラ」
 昔と変わらない軽い体を抱き上げ、フラガは部屋を後にした。


 その日、キラ・ヤマトは、忽然と人々の前から姿を消した。
 行方は、誰も知らない………。


NOVELの更新ありませんと言いつつ、書いてしまった(苦笑)
種デスが始まる前に書いちゃいたかったもんで。
激しくネオ=フラガを推奨!!
ってねぇ、私書いたの黒フラガだよ(笑)
でも、黒いフラガさんも好きv
(2004.10.6)
 
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