真実 (2002.9)

 授業が終わり、珍しく用事がないギイと一緒に帰ってきた305号室。
 とりあえず宿題を片付けているぼくの後方で、ギイはベッドに腰掛け、愛読書プレジデントを難しい顔をして読んでいた。
 普段とは違う、大人の顔。こういうときのギイは、特に格好いい………。
 ぽっかりと見惚れてしまったぼくに気付いて、ギイがクスリと笑った。
 ぼくは慌てて机に向き直り、手が止まっていた宿題の山に向かう。
 毎日一緒にいるのに、ちょっとした仕草にときめいてしまうなんて。ぼくって、かなり重症かも?
 コンコン。
「ギイ、いるか?」
 ドアの向こう側から聞こえてきたのは、章三の声。
 ギイはプレジデントを枕もとの棚に戻し、ドアに向かった。
「章三、どうした?」
「例の件でちょっと………」
 む。この二人、また何か企んでいるな?
「悪い、託生。すぐに戻るから」
 言うなりギイはドアを閉めて出て行ってしまった。
「もう、いつもぼくを除け者にするんだから」
 何か出来るわけではないから、話したってしょうがない事なのだろうけど、除け者にされるのは、気分のいいものじゃない。
 相棒というのは、恋人とは違った意味で一番近くにいるような気がする。
「と言ったら、赤池君怒るだろうな」
 パタンとノートを閉じて、自分のベッドに寝転がる。
 ギイがいないだけで、何もする気がなくなってしまうのは、どうしてだろう。
 これって、ギイに甘えきってるってことなのかな。
 そうだとすると、男として情けないぞ。
「よし。気合入れて英語の宿題片付けよう」
 いや、どっちにしても宿題はしなくちゃいけないのだけど。
 そのとき、かさっとギイのベッドから物音がした。
「なに?」
 見るとギイが読んでいたプレジデントが、横に倒れている。
 ぼくは元に戻そうと、プレジデントに手を伸ばした。
「あれ?」
 よくよく見ると、背表紙の幅より中身が分厚くなっている。何かを挟んでいるような………。
 不思議に思い本を取り出してみると、小冊子のようなものが挟まっていた。
「なんだろう、これ?」
 人のものを勝手に見るというのはいけないことだけど、先程ギイがぼくに隠れて読んでいた本に興味が湧かないわけがない。
 そして、その本を開くと………。
「なっ………!!!」
 目の前に広がった本の内容に、一気に血が上る。
 その名も『愛の四十八手』
 図解付きで説明をしているその横には赤丸が書き込まれ、その印の付いている物は身に覚えのあるものばかりだ。
「ギ………ギ………ギ………」
 難しい顔をしてビジネス雑誌を読んでいると思っていたのに!
「ただいま」
 ノックもなしでドアを開けたギイの顔が、ぼくの手元にある本を見て固まった。
「ギイのスケベ!!」
 いきなり怒鳴った僕に、しまったと顔に書いて後ろ手にドアを閉め、前髪をかきあげる。
「見つかっちまったか」
「もう、なんて本読んでるんだよ?!こんな………こんな………!」
「そりゃ、託生との愛の時間を楽しむ為に。決まってるじゃないか」
 開き直ったのか、しれっと恥ずかしげもなく言ってのけるギイ。
「でもでも………!こんなのどこで手に入れたんだよ?!」
「もちろん、本屋で」
 当たり前だろ?
 本屋で………。いや、当たり前なんだけど、ギイに羞恥心を求めるぼくが間違っていたのか。
 ギイはがっくりと肩を落としたぼくの手から本を取り上げ、パラパラとページを捲り、
「今日は、これをしような」
 嬉々として目の前に差し出した。
「ギイのバカーーーーーーーーーッ!!!!!」
 本をギイの顔に投げつけて、部屋のドアを乱暴に開け出て行く。
「託生〜〜」
 情けない声のギイを無視して、廊下をずんずんと歩く。
 
 もうもうもう、ギイなんて知らないっ!!!
 
 
壊れきってますね(汗)
半年振りに2年生バージョンを書いたら、もう楽しくって(笑)
でも、どう書いても私のギイってオヤジだ………。
(2002.10.10)
 
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